家庭に眠る文化財「調べさせて」 女性の仏像修理師3人が無料相談会
一般家庭などに眠る木像や書簡のような文化財を調査し、記録として残していくプロジェクトを、栃木県鹿沼市内で工房を開く女性の仏像修理師3人が計画している。家庭にある文化財は公的な調査がなく、廃棄や盗難で失われる問題をなくすことが目的だ。
プロジェクトを計画しているのは、仏像修理師の井村香澄さん(35)、中愛さん(34)、森崎礼子さん(36)の3人でつくる一般社団法人「三乗堂」。
世界遺産に登録される日光山輪王寺の「平成の大修理」に参加した3人が2017年、鹿沼市内に工房を設立。県内外の仏像などこれまで約90件の修理に取り組んできた。
同時に力を入れるのが文化財の調査・保存活動だ。中でも一般家庭に眠る文化財に着目したのは、多様性に驚かされたのと同時に、十分な調査や記録がないことに懸念を感じたためだという。
寄せられる相談の対象物は、家庭や自治会で保管されているものがほとんど。井村さんは「維持や管理の相談先がなく、困っている方が多いという印象だ」と話す。
このような状況を変えようと、市内の文化財の所有者を対象にした無料相談会を計画している。現物や写真などから調査・記録を行い、さらに保管方法などの悩みの解決策を探るという。
相談の対象は、仏像や美術品、古文書、民具など。3人が専門とする木造文化財以外は、後日に各分野の専門家と連携して対応する。
相談会はあくまでも調査と保存が目的で、文化財の金額面の評価はしない。森崎さんは「ただ最初は『お宝発見』という気持ちでもいい。身近にある文化財がどういうものかを知ることから、地域の財産として認識され、保護につながるようにしたい」と語る。
鹿沼市は相談会開催に向けた費用の寄付を「ふるさと納税型クラウドファンディング」の対象にしている。通常のふるさと納税と同様に税控除の対象になる。申し込みは「ふるさとチョイス」から。18日まで。問い合わせは市協働のまちづくり課(0289・63・2241)へ。
◇
文化庁のまとめでは、全国にある都道府県指定の有形文化財(美術工芸品)は1万892件。うち栃木県分は613件で全国最多だ(5月1日現在)。
特に鹿沼市内は、日光へと続く日光道中壬生通り、例幣使(れいへいし)街道の主要な宿場町として栄えた歴史を持つ。このため家庭にも知られないままでいる文化財がある可能性が高いという。
ただ、十分な管理がされていない恐れが高い。県文化振興課によると、県指定の文化財のうち、昨年の段階で所在不明は42件。市町指定の1580件については管理状況すらよく分かっていない。
未指定文化財はさらに厳しい環境にある。維持管理に公的な支援はない。三乗堂にあった相談でも、「老朽化して維持ができない」など廃棄を検討していた寺院の仏像があったという。