ロシアで見た分断をあおる言葉の怖さ ロシア文学翻訳者が感じたこと
ロシア語に興味をひかれ、2002年から08年までロシアで過ごしたロシア文学翻訳者の奈倉有里さん。モスクワの文学大学に通った4年間を中心に、ロシアで学んだ日々をつづった著書「夕暮れに夜明けの歌を 文学を探しにロシアに行く」からは、新たな言語を学ぶ喜びと共に、当時のロシアの社会情勢も伝わってきます。
奈倉さんに、語学学習のコツと、文学や言語という視点でロシアの現状をどう見ているか聞きました。「ロシアが戦争に向かうまでの経緯は、戦争する国がそれ以前に何をするのかを見るお手本の山です」と言います。
――新しい言語を学ぶおもしろさを改めて教えてください。
人間は言葉があるから思考できます。違う言語を学ぶと、新しいもう一つの人格が生まれる感覚があります。すると、日本語で存在している今の自分の人格が信じられなくなり、考え直すことになる。言語にはそういうおもしろさがあります。語学を暗記科目と思っていると、伝わりにくいでしょうね。
――ロシア語の習得は他言語と比べても難しいと聞きます。
別の本で書いていますが、語学学習には「妖怪あきらめ」という強敵がいます。でもこれに負けなければ、語学は必ずできるようになります。勝つための方法は人それぞれですが、「あきらめ」は受験勉強などの「効率よく覚えよう」というやり方だと手ごわいです。効率は置いておいて、自分が心地よく勉強できる方法を早いうちに身につけ、つらくなったらそこに逃げこむのがおすすめです。
私の場合は音を聞くのが好きで、朗読CDやラジオドラマをよく聞いていました。勉強ではなく娯楽というカテゴリーで、やる気が無いときは何も考えずただそれだけを聞く。弱点を押さえる勉強も必要ですが、心地よい勉強法を一生懸命やれば「あきらめ」に勝てるはずです。
戦争に向かうロシアの気配
――言葉には人を分断する力もあると著書で書かれていますね。
ロシアの文学大にいた200…