第4回甘い質問で見逃した「アリの一穴」 会見の退廃が社会にもたらすもの
平成から令和にかけて日本経済を取材し続けてきた原真人記者(現編集委員)が、記者会見を軸に来し方を振り返り、未来に向けてつづる「記者たちのヒストリー」の後編です。「失われた30年」と言われる低迷期を迎えた日本の現実、低迷から脱却を狙った日銀の異次元緩和と向き合うなかで見えてきたものは……
1997年から98年にかけて、日本では大手銀行や大手証券会社の大型金融破綻(はたん)が相次いだ。損失額は、いずれも千億円単位、兆円単位。日本の経済はその土台から揺さぶられ、巨大な不良債権の重圧を伴いながら、長期停滞の時代に入っていく。次に書くのは、「金融破綻ドミノ」の最初の一枚が倒れた時の記者会見の話だ。この会見もまた、ほろ苦い記憶とともにはっきり覚えている。
三連休の最終日となる97年11月3日、準大手の三洋証券が突如、会社更生法を申請して倒産した。経営陣が東京証券取引所で破綻を発表したその夜、そこから徒歩10分ほどの場所にある日本銀行本店でも、この倒産について日銀の本間忠世理事が記者会見を開き、当局としての対応を説明した。
この日銀会見に出席した私は、気になっていたことを質問しようと思っていた。数日前に取材した市場取引を仲介する短資会社の幹部から、こう警告されていたからだ。
「三洋がつぶれたら(金融機関が資金をやりとりする)コール市場で初のデフォルト(債務不履行)が起きる。そうなったら取り返しのつかない大変なことになるぞ」
コール市場とは、金融機関が日々の資金繰りのため、お金を一晩だけ貸し借りするマーケットである。担保はとらず、お互いの信用だけで成り立っている。日銀は「この市場で絶対に貸し倒れは起こさない」と宣言していた。法律で保証されていたわけではないが、日銀と大蔵省による暗黙の保証が、市場取引の「安全神話」と銀行の「不倒神話」をつくりあげていた。
短資会社の幹部から聞いた話を、私は「初のデフォルト」とメモ帳に書き留めていた。コール市場でもし焦げ付きでも起きたら、日銀の信用問題だろうとは思っていたが、まだそれほどの危機感はなかった。
「初のデフォルト」が残した教訓
三洋証券はコール市場での借り入れを返せず、同市場初のデフォルトとなっていた。本間理事の会見に出席した私は単刀直入に質問した。「コール市場で初のデフォルトになったようですね。どんな影響がありますか?」。金融破綻処理を担当する理事は表情ひとつ変えずに答えた。
「ごく一部の無担保コール(三洋が他の金融機関から借りたお金)で今後、債務の不履行が生じる可能性があります」「これからどんな金利形成や取引手法が出てくるか、きめ細かくウォッチします」
いつもどおりの冷静な受け答えだった。それを聞きながら、私は「日銀はそれほど大問題だと受け止めていないのだろうか」と考えていた。
会見場を出た私を日銀の広報…