松重豊さんがお忍びで食べた離島の「グルメ」 女優になった女将さん

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榧場勇太
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 「孤独のグルメ映画のロケ地として使わせてもらえませんか」

 2023年夏、長崎県の離島、五島列島の奈留島で食堂「みかんや」を営む橋口剛一さん(71)は、店を訪れた男性に突然、名刺を渡された。映像製作会社のスタッフだという。

 最初はグルメ番組の取材かと思った。店に立って40年以上になるが、これまでグルメ番組の取材は受けたことはなかった。

 「うちみたいな、どこにでもあるような店を全国にさらすわけにはいかない。ほかにも店はたくさんある」

 とっさに断った。一緒に店に立つ妻の知枝さん(71)にも相談したが、「恥ずかしい」と同じ意見だった。

 スタッフは後日、再び店にやってきた。五島市の職員も同席して「五島市のPRにもなる」と説得されたという。

初めて知った「孤独のグルメ」、息子に相談すると

 剛一さんはユーチューブで「孤独のグルメ」を見てみた。そこで初めて、有名なテレビドラマだと知った。取り上げられている店のイメージが、「うちの食堂に似ている」という気もした。

 県外に住む息子に相談すると、「有名な番組だよ。しかも映画なんて。なんで断ったの」と興奮気味に言われた。

 奈留島は人口1769人(2024年末)の離島だ。かつては漁業で栄えたが、高齢化が進み、65歳以上が6割を超す。コンビニはなく、集落には空き家も目立つ。

 長崎市長崎港から渡るには、五島列島の中心となる福江島を経由するフェリーや高速船を利用して数時間かかる。

 知枝さんは、五島列島がマスコミなどに取り上げられても、本土とつながる福江島の話ばかりと感じていた。「映画に出て、奈留島に来てくれる人が増えれば明るい話題になるかも」。店をロケに使ってもらうことにした。

 撮影は23年9月下旬に行われた。主人公の井之頭五郎役をつとめた俳優の松重豊さんとスタッフが約40人ほど店に集まった。

井之頭五郎が食べた看板メニュー

 店の前の道路は通行止めにな…

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この記事を書いた人
榧場勇太
長崎総局
専門・関心分野
平和、国内政治、地方自治、沖縄