記者コラム「多事奏論」 編集委員(天草)・近藤康太郎
坂本龍一さんとは何度かお話ししたことがある。福島原発事故後に、福島市で開かれた手作りの音楽フェスティバルでも会った。出演者なのに、会場設営に率先して体を動かす。ちっとも偉ぶらない。
これはわたしの大学時代、1983年のことだと記憶している。坂本さんが音楽を担当し、出演もした大島渚監督の映画「戦場のメリークリスマス」が、大いに話題になっていた。坂本さんがディスクジョッキーをつとめるラジオ番組を愛聴していたのだが、ある夜、「戦メリ」撮影の裏話になった。帝国陸軍の若き将校を演じた坂本さんは、事前の役作りで、居合抜きの練習をさせられたのだという。そして、坂本さんは唐突にこんな趣旨のことを話した。
――好きになれませんでしたよ。だって、人を殺す道具じゃないですか。
あぜんとしたから、鮮明に覚えている。
映画もヒット。音楽もヒット。坂本さんは、世界的な時代の寵児(ちょうじ)になりつつあった。ふつうはメディア受け狙いで、「居合でサムライ精神に触れ、感動しました」ぐらい言うんじゃないのか。
さて。周回遅れどころか、埋火(うずみび)も消えたころで話題にするのがわたしなので、いまさらWBCである。痛快であった。打って、守って、走れる。日本チームは、じつに小気味いい野球をしてくれた。
ただ、気に食わないのが二つ。例のあれ、トランペットに太鼓の応援である。佐々木や山本の豪速球。キャッチャーミットに収まる音が、静寂の球場に響く。おおーっ。どよめきが広がる。あの音を聞いて、集団演奏はじゃかましいノイズでしかないと、なぜ気づかないのだろう。
もうひとつ。例のあれ、「侍…