■大学のダイバーシティ
理系女子を増やすさまざまな取り組みが行われている大学ですが、学生を教える立場である大学の女性教員の数は、どうなっているのでしょうか。文部科学省が2024年8月に公表した「令和6年度学校基本調査」(速報値)では、全国にある大学の女性教員数が5万3千人で過去最多となったことがわかりました。教員全体に占める女性の割合も27.8%で、過去最高となっています。女性教員を増やすために大学はどのような目標を掲げ、どのような取り組みを行っているのでしょうか。(写真=Rikohティータイムシンポジウムの様子、早稲田大学提供)
女性教員増に向けた大学の目標
大学の女性教員の割合は増加傾向にはあるものの、日本はOECD(経済協力開発機構)加盟国のなかで、最も低いのが現状です。こうしたことを踏まえて、各大学はさまざまな取り組みを実施しています。
東京大学は2022年度から女性リーダー育成に向けた施策「UTokyo男女⁺協働改革#WeChange」をスタート。教職員や学生を含む大学構成員全員の意識改革に取り組み、女性教員増加率を過去10年の2倍とすること、さらに27年度までに着任する教授・准教授1200人のうち、約300人を女性とすることを目標に掲げています。
愛媛大学は、25年3月までに女性教員比率を24%程度に、管理職に占める女性の割合を23%程度にするという目標を掲げています(愛媛大学次世代育成支援第6期行動計画及び女性活躍推進第3期行動計画)。
名古屋大学は、27年度までに女性教員比率30%を目指すことを発表しています。女性教員比率向上を推進するための取り組みなどについて学内でコンテストを開催し、有効な取り組みを実施した部局(または専攻)に「ジェンダー平等ベスト・プラクティス賞」を授与するといった工夫を取り入れています。
早稲田大学は、創立150周年を迎える32年に向けた計画「Waseda Vision 150」の中で、女性教員の比率を30%にするという目標を公表しています。早稲田大学ダイバーシティ推進室の太田貴子さんは、こう話します。
「『Waseda Vision 150』が策定されたのは12年ですが、07年に男女共同参画推進室(ダイバーシティ推進室の前身)が設置されたときから、女性教員の数を増やすことを目標として挙げていました。さらに言うと、創設者である大隈重信は女子教育に理解があり、早稲田大学は女子教育において先導的立場をとるよう努めてきました。そういったマインドがベースにあり、女性教員を増やす取り組みも長年にわたって実施しています」
1999年に「男女共同参画社会基本法」が施行され、2000年代になると各大学が男女共同参画に関する部署を次々と設置しました。当時から女性教員・研究者を増やすことは重視されていましたが、なかなか増えていかずに諸外国に後れをとっている現状がありました。そこで具体的な数値目標を公表することで、現状を打破しようという狙いがあったようです。
女性教員を増やす必要性について、太田さんは次のように説明しています。
「多様性のない画一化した組織は発展せず、グローバル社会での競争力を持つことはできません。また、そもそも現在も性別によって格差があることが問題です。ダイバーシティ推進室では、それを是正することが必要不可欠だと考えています」
ロールモデルとの交流で不安を解消
早稲田大学の23年度の女性教員は381人、女性比率は20.6%でした。16年度の254人、14.9%から増加傾向にあります。
教員・研究者を目指す女性にとって大きな壁となるのが、ライフイベントとキャリアとの両立です。大学院を修了して教員・研究者となり、キャリアを積んでいくタイミングと結婚や出産というライフイベントが重なる傾向があります。ダイバーシティ推進室では、その壁を少しでも低くしようとさまざまな取り組みを実施しています。
その一つが「女性研究者メンター制度」です。修士課程や博士後期課程の学生やキャリア初期の研究者が抱える悩みや問題に対して、学内の先輩研究者が一対一の面談でアドバイスする制度です。実体験に基づいたアドバイスによって、キャリアを具体的にイメージして、問題解決につながるようなヒントを得ることが期待できます。
「面談の内容は口外しないルールなので、どのような相談がなされているのかは詳しく把握できていませんが、やはり出産や育児との両立という面で悩んだり、すでに困難を抱えていたりする人が多いようです」(太田さん)
また、「Rikohティータイムシンポジウム」では、理工系の分野で活躍する企業に勤めている女性、教授や准教授などの研究者たちや、ロールモデルとなるような女性を講師として、講演や交流会を開催しています。それぞれのライフステージで感じた経験などを語ってもらって将来の姿を見せることで、両立していく道を示しています。
各キャンパスに託児室を
もちろん環境面の整備も欠かせません。早稲田大学では育児支援制度として、各キャンパスに託児室や授乳室を設置し、ベビーシッター派遣事業の割引券交付や、ホームヘルパーを利用した場合の補助金の支給などを行っています。
また、研究に欠かせない場である図書館は、子連れでの入館が可能です。
「全教職員に対して定期的に『ダイバーシティ推進に関する意識・実態アンケート』を実施しており、調査の意味合いだけではなく、制度や設備について検討する参考にしています。また、託児室・授乳室には利用者が自由に意見を書けるノートを用意し、一人ひとりの声をなるべく拾えるように尽力しています」(同)
女性教員を増やすための直接的な取り組みについては、学術院(学部、大学院、研究所を1つに統合した組織)ごとに実施しています。
「全学術院の学術院長が集まる会議の場では、採用における女性の応募者数、採用者数などを公表し、互いに把握できるようにしています。こうした間接的、直接的な取り組みによって、着実に目標達成に向かって進んでいます」(同)
「黄金の3割」といいますが、構成人数の3割以上を少数派が占めるようになると、意思決定に影響力を持つようになり、マイノリティーではなくなると考えられています。早稲田大学がいつ「黄金の3割」を達成できるのか、要注目です。
(文=中寺暁子)
【写真】大学の女性教員を3割に、どうしたらいい? 子連れで図書館利用、託児所は…
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