ベラルーシ野党指導者、ロシアの核兵器が「狂った独裁者の手に」と警告
サラ・レインズフォード、東欧特派員(ワルシャワ)
2020年にベラルーシから亡命した野党指導者スヴェトラナ・ティハノフスカヤ氏は、ロシアの「ミサイルと爆弾」がベラルーシ国内に到着したとアレクサンドル・ルカシェンコ大統領が発表したことについて、核兵器が「狂った独裁者の手に渡った」と危険性を強調するとともに、西側が「沈黙を守っている」と批判した。ルカシェンコ氏は受け取った「爆弾」について、広島や長崎へ投下された原爆より「3倍は強力」だとロシアのテレビに話している。
ポーランド・ワルシャワでBBCの取材に応じたティハノフスカヤ氏は、ロシアの戦術核兵器がベラルーシに配備されたことについて、1991年にソヴィエト連邦が崩壊して以来、ロシアの戦術核兵器がロシア国外に初めて配備されたにもかかわらず、西側諸国の政治家は沈黙していると批判した。
ルカシェンコ大統領は、ロシア国営テレビの司会者と共に、ベラルーシの田園地帯で番組に出演し、「ロシアから受け取ったミサイルと爆弾を入手した」と述べた。番組は13日夜、ベラルーシ国営テレビのメッセージアプリ「テレグラム」チャンネルに掲載された。映像では、軍用車両や備品が背景に丁寧に配置されていた。
ベラルーシが予定より早く、すでに核兵器を受け取ったという発言の意味を詳しく説明するよう司会者に求められると、ルカシェンコ氏はまるで秘密をこっそり共有しているかのように、くすくすと笑い、「まだ全部ではないが。徐々に」と述べた。
ルカシェンコ大統領はロシアの重要な同盟相手と、広く認識されている。昨年2月にロシアのウラジーミル・プーチン大統領がウクライナ全面侵攻を開始した際、ベラルーシから多くのロシア軍部隊がウクライナへ侵入した。
広島・長崎の原爆の「3倍強力」
ルカシェンコ氏はロシアの爆弾について、アメリカが第2次世界大戦で広島と長崎に落とした原爆より「3倍は強力」だと強調。これは明らかに、ウクライナを支援する西側諸国へのあてつけ発言とみられる。
大統領はさらにロシアの司会者に対して、自分はただ単にプーチン氏に核兵器を求めたのではなく、「何としても戻すよう強く要求した」のだと話した。外部からの侵略への防衛のために必要だからだと説明したが、これはあらゆる反対勢力を抑圧するために使っている常套句(じょうとうく)で、偽の脅威を作り上げているに過ぎない。
1994年以来ベラルーシで独裁統治を続けるルカシェンコ氏は、2020年の大統領選で一方的に勝利を宣言。これに対して全国的な抗議が起きたものの、保安局や機動隊が市民を徹底的に弾圧して、抗議を封じ込めた。
ベラルーシはウクライナやカザフスタンと同様にソ連解体後の1994年、核不拡散条約の加盟国になり核兵器を放棄。これと引き換えにロシア、アメリカ、イギリスは同年、旧ソ連圏3カ国の安全を保障した。
ベラルーシが今回、戦術核をすでに入手したのかは未確認だが、入手が事実なら、1996年にベラルーシが核放棄を完了させて以来の、大きな転換となる。
プーチン大統領は今年3月に、ベラルーシへの戦術核配備計画を発表。アメリカも欧州に戦術核兵器を配備していると指摘した。
プーチン氏は後に、格納庫の準備ができるまでは実際の移送はしないとしたが、ルカシェンコ氏はベラルーシには今や「村の犬の数より格納庫がたくさんある」と述べ、そのいくつかはすでに装備を刷新したのだと話した。
ロシア政府は、ベラルーシに配備する戦術核は引き続きロシア軍が管理するとしている。さらに、ベラルーシが入手するのは短距離の戦術核であって、アメリカなどが射程圏に入る戦略核ではないとしている。
これについてルカシェンコ氏は、「アメリカと戦う予定はない。(中略)戦術核で結構だ」と述べ、「イスカンデル(戦術ミサイル)の飛距離は500キロ以上だ」とも話した。
「西側は真剣に受け止めていない」
野党指導者のティハノフスカヤ氏は、「(戦術核の)配備は、北大西洋条約機構(NATO)諸国にとって新しい脅威にならないので、西側は真剣に受け止めていない」のだとBBCの取材で批判した。西側諸国はロシアから発射されるミサイルとベラルーシから発射されるミサイルに、違いはないと考えているのだと、ティハノフスカヤ氏は述べた。
ロシアはすでに西部カリーニングラード地方に核配備をしているため、NATO加盟国のポーランドとバルト3国はその射程圏に入っている。
「けれどもベラルーシは私たちの国で、私たちは核兵器など欲しくない」のだとティハノフスカヤ氏は強調した。
「これはまるで、私たちの国が独立を失うに至る最後の一歩のようだ。なのに(西側諸国は)沈黙している」