ガザ地区からイスラエルへ相次ぐ砲撃、多数死傷 「これは戦争」とイスラエル首相
パレスチナ自治区ガザ地区から7日早朝、イスラエルに向けて大量のロケット弾が発射されたほか、ガザ地区から武装組織メンバーがイスラエル内に侵入した。イスラエルによると、国内で少なくとも250人が死亡。パレスチナ側では約230人が死亡したという。イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相は、「これは戦争」だと宣言した。ガザ地区を実効支配するイスラム組織ハマスの軍事部門トップは、「偉大な戦いの日」だとして、すべてのパレスチナ人に参加を呼びかけた。
ユダヤ教の安息日にあたる土曜日の夜明け直後にガザから一斉砲撃が始まると共に、パレスチナ側の武装勢力が障壁を超えた。海からユダヤ国内に入った戦闘員たちもいる。この日は、ユダヤ教の祭日シムハット・トーラーにもあたる。
イスラエル軍は戦闘機数十機でこれに応戦し、17カ所以上のハマス拠点を空爆したと発表。予備役数万人を動員し、ガザ地区で地上戦を開始すると予測されている。
イスラエル・メディアによると、7日午前の間にロケット弾2500発以上がイスラエルへ向けて発射された。テルアヴィヴやエルサレムまで到達したものもあるという。その後もさらに、イスラエル南部の各地で戦闘が続いている。同日夕には、テルアヴィヴ近郊のリション・レジオンも攻撃された。
イスラエル保健省によると、ハマスの攻撃でイスラエル人が少なくとも250人死亡し、1590人が負傷した。
ハマス戦闘員たちは、兵士だけでなく民間人を含む、数十人のイスラエル人を人質にした。BBCの取材では、一部はガザ地区へ連行され、一部は国境沿いの集落にとどめられている。
パレスチナ自治政府の保健省によると、ガザ地区では少なくとも232人がイスラエルの砲撃で死亡し、1600人が負傷した。
イスラエルのネタニヤフ首相は、「我々は戦争状態にある」と述べ、ハマス幹部が「経験したこともない代償を払うことになる」と警告した。
他方、ハマス幹部は組織のメディアを通じて、「これは、地上最後の占領を終わらせるための、偉大な戦いの日」だと宣言し、各地のパレスチナ人に戦うよう呼びかけた。
7日夜遅くには、イスラエル国営の電力会社がガザ地区への電力供給を停止した。ガザ地区の電力会社によると、ガザ地区で消費される電力の約80%はイスラエル側から供給されていた。
ハマスは、「戦争捕虜」として上級将校を含む53人を捕らえたと主張。その多くをトンネル内で拘束しているという。これまでイスラエル軍とハマスがガザで武力衝突した際、イスラエル軍はハマスが移動に使うトンネルを標的としてきた。
イスラエル軍の報道官は、「兵士と民間人」が拉致されたと認めた。さらに、イスラエルのナハル歩兵旅団を指揮するヨナタン・スタイベルグ大佐を含め、兵士に犠牲が出ていることも明らかにした。ただし、将軍が拉致された事実はないとした。
イスラエル南部で戦闘
イスラエル全土で警報が響く中、イスラエル国防軍は「テロリスト」が「複数個所」でイスラエル領に侵入したと発表した。南部と中部の民間人にはシェルターの近くで待機し、ガザ地区周辺の民間人にはシェルターに避難するよう指示した。
インターネットに投稿された映像には、黒い戦闘服に重装備のパレスチナ武装勢力が、軽トラックでイスラエル南部スデロト地区を移動している様子が映っている。この武装勢力が、スデロトの市街地でイスラエル軍と銃撃戦を展開するように見える映像も拡散している。スデロトはガザから約1.6キロ。
スデロトに住むシュロミさんは、「外に出ると、大勢のテロリストや民間人の遺体を目にした。街が死体の海になっていた。銃撃された車も。スデロト市内の道路やほかの場所に、たくさんの遺体が横たわっていた」と話した。
パレスチナのメディアは、武装勢力が複数のイスラエル人を拘束したという未確認情報を伝えている。
ガザ地区でパレスチナ武装勢力が、イスラエル軍の車両を乗り回している映像も拡散している。
イスラエル南部アシュケロンとベエルシェバでは、病院に被害者が搬送されている。
国際医療NGO「国境なき医師団(MSF)」は、イスラエルがガザ地区の2つの病院を攻撃したため、看護師1人と救急車の運転手1人が死亡したとしている。
こうした中、パレスチナの通信社WAFAは、ガザ地区南部ラファ・シャボラ地域の集合住宅が攻撃を受け、民間人10人が死亡したと報じた。
パレスチナ自治区ヨルダン川西岸の複数の場所でも、暴力行為が起きた。パレスチナの医療関係者によると、イスラエル軍との衝突でパレスチナ人6人が射殺された。
「戦争」とイスラエル首相、「偉大な日」とハマス幹部
イスラエルのネタニヤフ首相は、「イスラエル市民の皆さん、我々は戦争の状態にある。これは作戦ではない、エスカレーションでもない、これは戦争だ」と声明を発表。「ハマスは今朝、イスラエル国家とその市民に対して、殺人的な奇襲攻撃を開始した」と述べた。
「治安当局の幹部を招集し、入植地から侵入したテロリストを一掃するよう指示した。この作戦は今まさに、実施されている」として、首相は「同時に私は、予備役の大規模な動員と、敵がかつて経験したこともないような威力と規模の報復戦争を命令した」と表明した。
ネタニヤフ首相は安全保障閣僚会議で、「我々の第一の目的は、我が領土に侵入した敵対勢力を一掃し、攻撃を受けたコミュニティに安全と静けさを取り戻すことだ」と述べた。
「それと同時に、ガザ地区内でも敵から莫大な代償を引き出すことが第二の目的だ。三つ目は、ほかの前線を強化し、誰一人としてこの戦争に誤って参加することがないようにすることだ」と、首相は強調した。
他方、ハマス軍事部門トップのモハメド・デイフ司令官はハマス系メディアを通じて、作戦開始を発表。「地上最後の占領を終わらせるための、偉大な戦いの日」だと宣言し、各地のパレスチナ人に戦うよう呼びかけた。
ハマスと政治的に対立するパレスチナ自治政府のマフムード・アッバス議長は、緊急会議を招集。「入植者や占領軍による恐怖」から自衛する権利がパレスチナ人にはあると主張した。
亡命中のハマス指導者イスマイル・ハニヤ氏は、パレスチナ勢力が暴力行為をヨルダン川西岸とエルサレムに拡大しようとしていると主張した。
一方、ハマスのガジ・ハマド報道官はBBCに対し、ハマスはイランから直接、攻撃への支持を得ており、イランは「パレスチナとエルサレムが解放されるまでパレスチナ戦闘員の側にいる」ことを約束したと述べた。
イスラエル政府関係者はBBCに対して、多方面から一斉に始まったハマスの統制の取れた攻撃を、なぜイスラエルの情報当局が事前に察知できなかったか、大規模な内部調査が始まっていると話した。
イスラエルのテルアヴィヴでは、市内がロックダウン状態にあり、市民は屋内に避難している。このような状況は非常に久しぶりだと、複数の住民が話している。
イギリス人の作家・ジャーナリストのギデオン・レヴィ氏はBBCに、「レストランもカフェも、何もかも閉じていて、みんなとても驚いてショックを受けている。今後どうなるかへの不安もある」、「砲撃が始まったとき、自分はまだ公園でジョギングしていた。音がひどかった」と話した。
国際社会は
国際社会では、ハマスを非難する声が多く出ている。
アメリカのジョー・バイデン大統領は、ハマスの行為は「道理に反する」ものだと非難し、「(イスラエルには)自国と自国民を守る権利がある。紛れもないことだ」と言明した。
「どのような場合でも、テロ攻撃を正当化することなど何もない。私の政権はイスラエルの安全保障を断固として、揺るぎなく支持する」と、バイデン氏は述べた。
国連のアントニオ・グテーレス事務総長は、「民間人が攻撃され、自宅から拉致されたとの情報に戦慄(せんりつ)している」と述べた。
イギリスのジェイムズ・クレヴァリー外相は、「イスラエルの市民に対するハマスの恐ろしい攻撃を、イギリスはきっぱり非難する」と述べ、「イギリスは常に、イスラエルの自衛権を支持する」と表明した。
欧州委員会のウルズラ・フォン・デア・ライエン委員長は、ハマスによる攻撃を「最悪のテロリズム」と批判した。
他方、イランはハマスによる攻撃を支持し、戦闘員をたたえると述べた。カタール外務省は、暴力が悪化し続ける責任はイスラエルだけにあると述べた。