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「今までにない危機意識」船橋市の総合病院で医師・看護師がストライキ 労働条件の改善要求、厚労省にも訴え

弁護士JP編集部

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「今までにない危機意識」船橋市の総合病院で医師・看護師がストライキ 労働条件の改善要求、厚労省にも訴え
この日会見を開いた飯田江美執行委員長(1月24日 都内/弁護士JP編集部)

千葉県船橋市にある総合病院、船橋二和病院で働く医師・看護師が1月24日、ストライキを実施。

病院の経営者側に対し、労働条件の改善を訴えるとともに、厚労省にも申し入れを行い、社会保障費の増額などを求めた。

同日、ストライキを実施した、船橋二和病院労働組合(二和労組)が都内で会見。飯田江美執行委員長は「物価高やコロナ後の経営悪化の影響で、倒産する病院が増えるのではないか」として、次のように訴えた。

「船橋二和病院を含む全国各地の病院経営者が、労働者の賃金カットや、勤務時間延長などによって経営難を解決しようとしています。

今回のストライキは、経営者にただ従うのではなく、各地の医療労働者に立ちあがってほしいという思いで実施に至りました」(飯田氏)

ボーナス支給額、病院史上最低の0.9か月分に

二和労組側が厚労省に提出した申し入れ書などによると、船橋二和病院では新型コロナの5類移行後、コロナ対策で空けていたベッドが埋まらず、減少した患者の受診数も元に戻らなかったという。

加えて、コロナ禍に支給されていた補助金がなくなったこともあり、本年度は年間5億円が流出するとの見込みから、経営者側は2024年1月に、数年前に決定していた病院の建て替え中止を決定。資金を赤字の補塡(ほてん)に流用していた。

さらに、経営者側は同年4月、就業規則の変更を二和労組側に提案。現時点では法律上の不備を理由に変更されていないというが、変更案には、労働時間の延長による残業代の削減や、退職金を職種に関係なく「30年働いて300万円」に減額するといった内容が含まれているとのことだ。

申し入れ書にはほかにも、この冬のボーナスが同病院史上最低の0.9か月分となったことや、人員不足による病棟閉鎖や病床減などについて記されている。

こうした状況を踏まえ、二和労組は厚労省に、医療・介護労働者が、物価上昇に見合った賃金を得られるよう診療報酬を増額することや、人員の増加を要望。

これに対し、厚労省側の担当者からは以下のような回答が寄せられた。

「補正予算に計上した、1床あたり約4万円の補助金の早期執行を目指したいと考えています。

厚労省としては、補助金の使い道として、ICT機器など生産性向上に役立つ機器の購入、もしくは医療従事者への一時金に使用してもらうことを、各病院にお願いしたいと思います。

補正予算という性質上、補助金の支払いは一回限りになってしまうが、今回の措置を踏まえて、追加の措置に関しても検討したいです」

「つぶれていいわけがない」

ただ、回答を受けた飯田氏は「ずらずらと難しい言葉が並んだが、 すごく正直に言うと、ほぼ意味のないことを答えたと言っていい」と批判。

また、この日会見に出席した二和労組の医師・柳澤裕子氏も「“焼け石に水”のような補助金だ」と述べ、次のようにコメントした。

「医療の現場では『もう働けない』『辞めるしかない』といった声があがっていて、今までにない危機意識があります。

この状況を、厚労省がどこまで真面目に捉えているのだろうかと思いながら申し入れへの回答を聞いていましたが、返ってきた言葉からは『つぶれてもらっても構わない』と言われているような気さえしました。

しかし、本当につぶれていいわけがありません。これを機に、医療・介護の現場で働く当事者だけでなく、 幅広い人に考えていただきたいです」

「経営状況と労働条件がリンクしなくても済むようなあり方を…」

同病院には、今回ストライキを実施した二和労組と「千葉県勤労者医療協会労働組合」(勤医労)の2つの労働組合が存在する。病院には約800人が勤務しているが、多数は勤医労に加盟しており、二和労組はわずか8人で構成されている。

柳澤氏は2つの組合について「覚悟が違う」と説明しつつ、ストライキの目的を改めてこう強調した。

「いわゆる御用組合のような労組では、経営側から『労働条件を改善させ、高額の人件費を投じた結果、病院が倒産したらどうするんだ』と言われてしまうと、労働条件や待遇の改善について、戦うことができないのだと思います。

しかし、大本の厚労省が医療費を減らしたり、出し渋ったりしている現状があります。病院の経営が厳しいから、倒産する恐れがあるからといって、現場の労働者側が、労働条件について声をあげなければ、こうした政府・厚労省の方針を受け入れることになってしまいます。

そして、労働条件が悪化した結果、病院での医療の質が低下すれば、医療を享受する地域の人々みんなが悲惨な目に遭うことになります。

だからこそ、われわれは労働条件について経営側と争いつつ、国や厚労省に対しても、病院の経営状況と現場の労働条件がリンクしなくても済むような医療・社会保障のあり方を求めたいです」

編集部では、ストライキについて同病院にもコメント取材を求めたが、回答は得られなかった。

  • この記事は、公開日時点の情報や法律に基づいて執筆しております。

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