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ゴーン被告逃亡の真実、支援親子も自由奪われ-重過ぎた代償語る

更新日時
  • 3年前の逃亡劇について被告自身と助けた父子に現地でインタビュー
  • 逃亡計画や被告の家族を巻き込もうとする検察の圧力の詳細も語る

日産自動車の元会長、カルロス・ゴーン被告によるビジネス史上まれに見る大胆不敵な中東レバノンへの逃亡を成功させ、日本での服役後に米国に移送されたテイラー父子は、同被告に自由を得させるためにどれほどの犠牲を払っただろうか。

  結論を言えば、ほぼ全てを犠牲にしたかもしれない。

  レバノンが外国への身柄引き渡しを行わず、ゴーン被告が幼少期を過ごした国で無事に身を落ち着けたのに対し、米陸軍特殊部隊グリーンベレーの元隊員マイケル・テイラー(62)、ピーター・テイラー(29)父子は、連日8時間の取り調べや検察の強引な戦術で知られる日本の司法制度の下での長い拘束から解放され、ようやく10月に米国に移送されたばかりだ。

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マイケル・テイラー元受刑者
Photographer: Kayana Szymczak

  米北東部マサチューセッツ州とレバノンの首都ベイルートで行ったインタビューではいずれも、先の逃亡計画やゴーン被告の家族を巻き込もうとする東京地検の圧力に関する新たな詳細が明らかになった。

  拘束を解かれたマイケル元受刑者は、ジェームズ・ボンドさながらの救出作戦の金銭的対価の再検討をゴーン被告に働き掛けている。総額130万ドル(現在の為替レートで約1億7700万円)余りのうち、これまで支払いがあったのはその一部だと主張し、身柄引き渡しへの抵抗や日本の司法制度を乗り切るために費やした法的費用約300万ドルを追加請求している。

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ピーター・テイラー元受刑者
Photographer:Maria Klenner/Bloomberg

  ゴーン被告の自由を確保するために自分と息子が個人的に支払った犠牲を思えば、正当な提示額だとマイケル元受刑者は考える。

  運命の2019年12月29日、ボンバルディア機が日本の領空から遠ざかっていく中で、ゴーン被告は逃亡のいかなる影響も手助けすると約束したと同元受刑者は主張する。「生まれ変わって、これから新たな人生が始まるように感じる」と話すゴーン被告に対し、「法的問題が発生すれば、われわれの面倒を見てくれますか」と元受刑者が尋ねると、「もちろんだ」と返事をしたという。

  テイラー父子は米国に帰国後、20年5月に逮捕された。日本からの身柄引き渡し請求に法廷闘争やロビー活動などで何カ月も抵抗したが、国務省が移送を認め、差し止めを求める父子の裁判所への申し立ても結局退けられた

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  数字を見る限り、日本への身柄引き渡しは00-18年で31件、年間1、2件程度に過ぎず、通常は殺人など凶悪犯罪に限られる。日本が犯罪人引き渡し条約を締結しているのは、米国と韓国だけで、テイラー父子のケースは日本にとって数少ない勝利と言えそうだ。

  日本に到着して間もなく起訴されたテイラー父子は、犯人隠避罪を認め情状酌量を求める法廷戦略を採用。東京地裁は父親に懲役2年、息子に懲役1年8月の判決を言い渡し、いずれも確定した。

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  マイケル元受刑者は、米軍を離れた後も犯罪の調査や要人警護、民兵の訓練でひそかに米政府を助けてきた。誘拐された子供や窮地にある人々の救出も金銭を要求することなく実行し、同元受刑者の話では、ゴーン被告の逃亡劇も違いはなかった。同被告との間で逃亡ほう助の報酬の話が出たものの、それは後で話せばいいとマイケル元受刑者は伝えた。その機会が訪れる前に逮捕され、身柄の引き渡しが行われたという。

  音響機材が入るような大型の箱に身を隠したゴーン被告が関西空港で発見された場合に備え、逃亡劇には詳細なバックアッププランが存在した。マイケル元受刑者はプラベートジェットターミナルの外でタクシーを待たせ、うまくいかない場合は、新幹線に乗り横浜に向かうはずだった。元受刑者はその夜に出航する貨物船3隻を特定しており、フィリピンに向い賄賂を使って同国脱出を図る算段だった。

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カルロス・ゴーン被告
Photographer:Maria Klenner/Bloomberg

  さらにベイルートに逃れたゴーン被告が20年1月に行った記者会見の警備の手配もマイケル元受刑者が手伝った。ゴーン被告にわだかまりがあるかとの質問には、日本への身柄引き渡しを巡る闘いで「われわれのために彼ができることはあまりなかった」としながらも、ゴーン被告ほど多額の資産があると推察される人物なら今何かできるはずであり、ベイルートで近く会いたいと望んでいると話した。同被告がどう反応するかが「彼の人間性について多くを語るだろう」とも述べた。

  アラビア語を話し、レバノン人を妻に持つマイケル元受刑者とレバノンの関係は深い。ベイルートに最初に足を踏み入れたのは1983年で、向かう途中だった米国大使館が同年4月に爆破され、生存者の救出に当たった。

  マイケル元受刑者は2年の刑期のうち約1年4カ月を独居房で過ごし、90日間でドアが1回しか開かないこともあった。病気の父親に電話することも許されず、刑期が終わらないうちに亡くなった。シャワーを浴びる機会もめったになかった。

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2019年12月30日にインスタンブール空港の入国審査に現れたマイケル元受刑者(中央)を防犯カメラが捉えた
Source: DHA/AP Photo

  ゴーン被告の逃亡計画の立案と実行に妻のキャロル氏と2人の子供が関与したことを示す情報や有罪につながる証拠の提供を検察はテイラー父子に要求しており、それに屈していれば刑期が短縮されていたかもしれない。

  マイケル元受刑者は応じなかった。「彼を助けようとしたからといって、なぜ妻と子供らが罰せられなければならないのか」という思いがあった。法務省矯正局の報道官はコメントを控えている。

  逃亡者として世界で最も有名になったゴーン被告自身は、テイラー父子のこうした状況を一体どう考えているのだろうか。

  同被告はベイルートでのインタビューで、「彼らにとって(困難が)終わってよかった。人的犠牲はとてつもなく大きかった」と発言。テイラー父子への追加の支払いについては、合意の詳細に立ち入ることは避けつつも、「助けてくれた人たちには特にそうだが、私は約束を守らない種類の人間ではない」と語った。

  ゴーン被告は仏自動車メーカー、ルノーからオマーンの自動車販売会社に多額の資金を流出させた疑いで、フランス検察当局が国際刑事警察機構(ICPO)を通じて国際手配しており、レバノンで事実上捕らわれの状態にある。

ゴーン元会長を仏検察が国際手配、オマーンルート資金疑惑-報道

原題:Ghosn’s Daring Escape Cost His Extraction Crew Their Freedom(抜粋)

(マイケル元受刑者の発言内容を追加して更新します)
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