「米国ファースト」のオーラに陰り、米国株とドルの軟調が鮮明に
Bailey Lipschultz、Carter Johnson-
「トランプ・バンプ」は、今や「トランプ・スランプ」に
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ドイツ政策転換で米独金利差が縮小、DAXは最高値圏

金融市場全体で、もはや「米国ファースト」ではなくなった。
ほんの数週間前、トランプ大統領の返り咲きを歓迎し、減税と関税の組み合わせが経済成長を加速させ、国際的な競合相手を差し置いて米国の株式とドルを押し上げるとの期待があった。いわゆる「トランプ・トレード」だ。
しかし、そのムードは急速に冷え込んでいる。めまぐるしい貿易戦争やウクライナに対する強硬姿勢、イーロン・マスク氏主導の政府支出削減の波が、急速に軟化した景気と相まって、センチメントを損なっている。「トランプ・バンプ(押し上げ)」は、今や「トランプ・スランプ(低迷)」になっている。
米国資産からのシフトが加速している。先週発表されたドイツの大胆な財政改革案は、欧州の政策立案における大きな転換点として称賛され、同地域の株式や通貨、国債利回りを押し上げている。一方、中国の人工知能(AI)スタートアップ、DeepSeek(ディープシーク)が出現したことで、テクノロジー分野における米国の優位性について疑問が投げかけられている。
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これら全てを合わせると、10年余りにわたって支配してきた米国の経済および市場の例外主義というオーラは、揺らいでいるように見える。
かつてとどまることを知らなかったS&P500種株価指数は、史上最高値を記録してから1カ月もたたないうちに、他の地域との相対的なパフォーマンスが今世紀でも有数の悪い週となった。世界の時価総額に占める米国の割合も、年初に50%を超えてピークに達して以来、縮小している。
ドルは四半期ベースで2016年以来の大幅高を記録した後、下落が始まり、ドル安を予想する声が相次いでいる。景気が軟化し、連邦公開市場委員会(FOMC)からのさらなる支援が必要になるとの見通しから、国債利回りが急低下したためだ。
アカデミー・セキュリティーズのマクロ戦略責任者、ピーター・チア氏は「初めて、他の地域に投資すべきだという説得力のある議論が出てきた」と指摘。「これはシフトだ。米国が唯一の選択肢であり、資本は深く考えることなく流れ込んできたが、それが反転あるいは少なくとも変化する可能性がある」と話した。

今年に入ってから、株式市場のローテーションが明白になっている。S&P500種は欧州のベンチマークを大きく下回り、香港のハンセン指数が約20%上昇していることを考えると、なおさらだ。
さらに、揺るぎないように見えた米経済は今では懸念材料となっている。7日に発表された雇用統計は強弱まちまちの内容を示したが、JPモルガン・チェースのエコノミストは顧客向けのリポートで、「極端な米国の政策」により、今年40%の確率でリセッション(景気後退)に陥るとの見方を示した。
ベッセント米財務長官はトランプ政権が成長の基盤を政府から民間セクターにシフトさせる中、「デトックスの期間」が訪れると警告している。
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もちろん、米国を見限ることには危険が伴う。大統領のソーシャルメディア投稿や、数社の巨大企業からの発表によって動くことが多い市場では、センチメントはあっという間に変化する。1月にディープシークの影響で打撃を受けた後、S&P500種が史上最高値を回復するまでにかかったのはわずか3週間ほどだった。
しかし、投資家がホワイトハウスの対応や米国の技術的優位性に対する不安に振り回されている限り、米市場以外に目を向ける理由が次々と出てくる。
FSインベストメントのチーフマーケットストラテジスト、トロイ・ガヤスキ氏は「米国の例外主義は今後も続くが、大きな打撃を受けていることは確かだ」と述べた。
以下は、2025年の各資産クラスの状況と今後数カ月の見通し。
株式の代替投資先
投資戦略の変化は、米国政治やばらつきのある経済データよりも深いところにある。バリュエーションの高さに注目が集まる中、米国の超大型株に慎重な運用担当者には、新旧の競合企業が魅力的になっている。
その先頭に立っているのは香港ハンセン指数で、アリババ・グループ・ホールディングやBYDといったテクノロジー大手にけん引され、年初から他の主要株価指数を大きく引き離している。中国のテクノロジー企業が長年の不振から脱却できるとの期待が背景にある。中国が経済を活性化し、テクノロジー企業を支援しようとしていることが、その強さに反映されている。
US Benchmark Slides as Global Markets Rally
Source: Bloomberg
例えばBYDは今年初め、マスク氏率いるテスラの車種が敬遠されたため、複数の欧州市場でテスラを上回る販売台数を記録した。テスラ株は2025年に3割余り下落したが、BYDの中国上場株は25%余りも上昇している。
テスラ株の低迷により、いわゆる「マグニフィセント・セブン」7銘柄から成るブルームバーグの指数は今年11%下落している。この急落は政策の背景が変化する中で、欧州の防衛関連株や鉄鋼メーカーが上昇し、ドイツのDAX指数が最高値を更新した時期と重なっている。
ストックス欧州600指数は収益ベースでS&P500種よりも依然として著しく割安だ。さらに、一部の米主要企業の業績が期待外れとなり、昨年の勝ち組の一部に対する熱狂が冷めつつある。
モルガン・スタンレーのウェルス・マネジメント・マーケット調査・戦略チーム責任者、ダニエル・スケリー氏は、これらの要因が米国を最大かつ最も力強い市場としての地位から恒久的に外す可能性は低いとしながらも、現在のシフトはまだ進行する可能性があると述べた。
「このローテーションは今後6カ月、あるいは12カ月でさえ続く可能性があるのだろうか。間違いない」と続けた。
ドル安
世界の主要な準備通貨であるドルは、1月に選挙後のピークに達した後、現在ではその水準をほぼ4%下回っている。先週には下げが加速し、ブルームバーグ・ドル・スポット指数は昨年11月初旬以来の低水準まで落ち込んだ。
Dollar Has Erased Nearly All Post-Election Gains
Source: Bloomberg
欧州市場の動きが大きな材料となった。ドイツ国債利回りが2023年以来の水準に上昇したため、ユーロは先週5%近く上昇し、2009年以来の大幅高を記録した。欧州連合(EU)が本格的で持続的な財政刺激策を打ち出しているため、ユーロはさらに上昇する可能性が高いと、ドイツ銀行とJPモルガンは予想している。
ギャップの縮小
欧州情勢の動向がもたらした大きな波及効果は、米国のドイツに対する利回りプレミアムが急速に縮小し、2023年以来の最低まで縮小したことだ。これは、米国債の魅力を相対的に損なう可能性がある。
米経済に対する懸念から米国債利回りが低下したため、年初からこの差はすでに縮小していたが、ここ数日でその動きが増幅した。
US Yield Gap Over Germany Narrows to Least Since 2023
Source: Bloomberg
欧州の成長とインフレ見通しに関する不確実性が高まっていることを考えると、ドイツ債利回りがさらに上昇することに懐疑的な声もある。しかし現時点では、この動きは2つの市場の軌道の乖離(かいり)を強調している。
国際投資家が米国債に投資するかどうかを判断する際には、ボラティリティーも考慮すべき要素となる。米金利の乱高下を示す指標は大統領選翌日以来の高水準を付けている。
アムンディ・インベストメント・インスティチュートの責任者、モニカ・ディフェンド氏は米長期債について、「通常、安全な逃避先」として保有すると発言。「しかし、米国債の変動がこれほどまでに激しいため、現在は戦術的な取引となっている」と述べた。その上で、金や円の方がより安全な避難先だと指摘した。
原題:US Markets Are Trailing the World as Aura of America First Fades(抜粋)