年末年始に休業するスーパーや百貨店が増えている。今年は新型コロナの影響と、それに伴う従業員への配慮もあり、休業の範囲を拡大する動きもある。
一方で、コンビニ業界は休業に消極的だ。
ローソンでは、2019年末に約100店舗を実験的に休業させたが、2020年の年末年始に休業するのは85店舗に減る。セブンイレブンとファミリーマートは全店営業する。
コンビニ業界では、2019年2月に東大阪の店舗オーナーが時短営業を強行したことや、本部の社員が商品を無理やり仕入れさせる行為が発覚したことで、店舗オーナーの過酷な労働実態に注目が集まった。
批判の目にさらされたコンビニ各社は、店舗の判断で時短営業を可能にするなどオーナーに歩み寄ったが、時短営業に切り替える店舗は全体から見るとわずか。
現場のオーナーは、「時短営業すべきだとは思う。でもコロナで売り上げが厳しい現状でそれをやったら、他の店に客をとられてしまう」と苦しい胸の内を明かした。
年末年始「店を閉めたほうが確実に利益になる」
「1年で一番客が来ないのが1月2日、その次が1日1日。おせちの需要はあるものの、正月は店を開けても赤字。その上、アルバイトを確保するために時給を上乗せしている。年末年始は店を閉めたほうが確実に利益になる」
23区内でセブンイレブンのオーナーを務める60代のSさんはそう話す。
Sさんのコンビニではお正月の勤務は、時給を200円増やすなどして、何とかアルバイトを確保している状況という。
「駅前の店舗などはコロナで一気に苦しくなった店舗も少なくない。うちはまだ住宅地にある店舗なので影響はそれほど大きくないですが、いつどうなるか分からないという危機感はあります」
Sさんの店は24時間営業を続けているが、夜間や早朝は客も少なく、「利益だけ考えれば夜は店を閉めたほうがいい」と言い切る。
それでもSさんは、時短営業への変更は考えていないという。
「近くのコンビニは24時間を続けているので、ウチだけ営業を止めることになればライバル店に客が流れてしまう。コロナで客が減っている今、それを思うと怖くて時短営業はできない。
本当は深夜の営業はしたくないオーナーはいっぱいいます」
消費者が向かったのはスーパーだった
新型コロナの影響を受けて、消費者の足はコンビニから遠のいている。
全国フランチャイズチェーン協会の発表によると、同協会に加盟するコンビニの来客数は、2020年11月は130万5950人で、2019年に比べて10%減少。前年同月との比較では、9カ月連続で減少している。
「新型コロナの感染拡大によってスーパーに消費者が流れた。品ぞろえが豊富で低価格、まとめ買いに適していたからだ」
経済産業省が2019年6月に設置した「新たなコンビニのあり方検討会」のメンバーで、東レ経営研究所チーフアナリストの永井知美氏はそう指摘する。
ただコロナの影響は、コンビニの立地によっても大きく違う。
「オフィス街の店舗は客数が減少しているものの、郊外や住宅地の店舗では影響が少ない。また全体で見ると、客数は減っているものの、客単価は上昇しており、住宅地の店舗を中心に『コンビニでのまとめ買い』という新たな需要も取り込んでいる。オフィス街と住宅地のコンビニでは、明暗が分かれている」
年末年始のスーパー休業で「商機」到来
新型コロナで客を集めるスーパーでは、年末年始の営業を中止する動きが広まっている。
スーパー「ライフ」は全店で元日と2日の休業を発表。「サミット」や「いなげや」もほぼ全店で三が日を休む。
「スーパーの休業によってコンビニのニーズが増えると考えているオーナーも少なくない」
ローソン広報担当はそう話す。
「年末年始の休業については、店舗側が希望すれば、本部と相談して認める形をとっている。ただローソンの1万4000店舗のうち、今回の年末年始に休業するのは85店舗。ほとんどがオフィスビルに入っている店舗です。帰省しない人も多い今年の年末年始を商機とみているオーナーも多い」(ローソン広報)
広がるコンビニの時短営業
スーパー各社が、年末年始の休業を拡大させているのとは逆に、休業に消極的なコンビニ業界。それでも、24時間影響から時短営業への切り替えは、確実に広がっている。
ローソンでは、オーナーの希望により時短営業している店舗は2019年3月に40店舗だけだったが、2020年11月には355店舗まで増えた。時短営業を選んでいる店舗は、ファミリーマートとセブンイレブンでもそれぞれ800店舗ほどある。
前出の東レ経営研・永井氏はこう話す。
「東大阪の時短騒動があった2019円以降は、現場のオーナーの悲惨な労働業況に批判が集まり、コンビニ各社は時短営業はオーナーの判断に任せるという方向性が趨勢(すうせい)になった。
ただ、時短営業の検討以前に、もともとコンビニが抱えている問題点はまだ解決されていない」
永井氏によると、コンビニ店舗の売り上げは伸び悩んでいる上に、人件費は高騰している。なおかつ、コンビニ本部に支払うロイヤリティーが高いため、店舗オーナーには構造的に利益が出にくい。
長らく続いた人手不足は、新型コロナの影響をもろに受けた他業界からの求職者が増えたため、現在のところは解消の傾向にある。しかし、長期的にみれば人材不足はやはり深刻で、最後には店舗オーナーの長時間労働という形でしわ寄せが来る。こうした構造の解消は急務だ。
2021年以降「コンビニ大量閉店」の可能性も
その上で永井氏は、「2021年以降、コンビニがばたばたと閉店していく可能性もある」と指摘する。
コンビニの契約期間は10年と15年が一般的。店舗数は2010年以降に急増しており、2021年に契約更新の時期を迎えるオーナーは少なくない。
「公正取引委員会の調べによると、オーナーの平均年齢は53.2歳と高齢化している。この状況では、次の10年を待たず、閉店を考える店舗も続々と出てくるのではないか」(永井氏)
前出のセブンイレブンの店舗オーナーSさんは、こう話す。
「知り合いのオーナーの中には『もう体が持たない』と話す人もいる。これまでと同じビジネスモデルを続ける限り、どんどんコンビニオーナーが辞めていくのはやむを得ないでしょう」
(文・横山耕太郎)