アルバイト求人サービス「バイトル」などを展開する人材サービス大手のdip(ディップ)は、生成AIを活用した対話型のマッチングサービスを発表した。
新サービス「dip AIエージェント」は、バイトル公式キャラクター・バイチューに、希望する職種や勤務地、時給などを相談することで、その人に合ったおすすめの求人を提案してくれるサービス。
東京大学松尾・岩澤研究室の法人である松尾研究所と連携して技術開発しており、dipは「将来的にはマッチング率の飛躍的な向上につながる」と期待を寄せている。
またdipは2024年秋にもスポットバイトサービスにも参入することを発表しており、将来的には「AIエージェント」に相談することで、通常のアルバイトに加えてスポットバイトに関しても、一人ひとりの要望にマッチした求人を提案できるようになるとする。
AI活用でアルバイト紹介の市場はどう変わるのか? dipの冨田英揮社長にインタビューした。
違和感なく会話できるAIサービスに
──「AIエージェント」を実際に使ってみた感想は?
冨田社長(以下冨田) キャラクターと会話する形で、親しみやすいサービスにできた。キャラクター作りの専門家にも開発チームに入ってもらい、バーチャルな存在と違和感なくコミュニケーションができるようにしている。
dipには2000人の採用コンサルタント(注:企業に対して求人広告の提案などを行う職種)がおり、彼らが企業ごとに収集した信頼性の高い情報と、求職者側の希望・スキルをAIがマッチングする。
これによって、これまでアルバイト領域では難しかった、一人ひとりに寄り添った提案が可能になると期待している。
バイト領域でも「成果報酬型」へ
── 2024年2月期の決算説明会では、「AIエージェント」導入後の将来的な目標として、「マッチング精度のさらなる向上後、成果課金モデルを導入」としています。
冨田 「AIエージェント」はそもそも、「バイトル」などに掲載されている求人とのマッチング率を上げるために存在している。
現在、バイトルは求人情報の掲載料をもらうビジネスモデルだが、広告を掲載するだけでマッチングしなければ、(dipとして)積極的な営業活動ができない原因にもなる。
企業としての利益というよりも、マッチング率を高めることでお客様満足度を高めたい。
正社員の転職領域では、エージェントが転職者それぞれのニーズにあった求人を紹介する成果報酬型のマッチングが一般的だ。一方で、アルバイト領域では単価の問題もあり、一人ひとりにキャリアアドバイザーを置く成果報酬型はコストに合わなかった。
それがAIエージェントによって、一人ひとりに合った求人を提案できるようになれば、採用が決まった段階で費用をもらう形も実現できる。
今度、どれくらい時間がかかるかはわからないが、「AIエージェント」のマッチングの精度が上がれば成果報酬モデルの道が開けてくる。
そしてdipに頼めば採用できるということになれば、他社との差別化対策にもなる。
検索から「AI提案」が主流になる
── アルバイト求人の領域では、タウンワークやIndeed、マイナビバイトなどの競合もあります。他社もAIの導入を進めると思いますが、競合環境は?
冨田 AIで先行できたメリットは非常に大きい。
アルバイトの求人などのビジネスは、 広告費が非常に多くかかる。一度、「バイトル」でアルバイトが決まったとしても、次にまたアルバイト探すときに、第一想起してもらう必要があり、そのために広告費がかかる。逆に言えばユーザーを囲い込めれば、広告費が大幅に削減できる可能性がある。
dipは27年前、求人がほぼ紙だった時代からインターネットサービスのさきがけとしてマーケットをとった。
だが、これまでのようなネット求人モデルがこのままいくとは考えていない。サービスが進化しないといけない。検索からAIが主流になるのは間違いなく、AIをいかに使いこなせるかが(求人ビジネスの)企業にとっての差になってくる。
他社もAI 技術を使ったサービスを色々やっていると思うが、大事なのはスピードだ。
スポットワーク「市場をひっくり返したい」
── 2024年秋にもスポットバイトへの参入も宣言しています。スポットワークではタイミーが先行しており、メルカリやリクルートなど新規参入も相次いでいます。
冨田 dipはそもそもの顧客数が非常に多く、顧客と信頼関係も築いてきた。営業担当の数にしても優位性がある。
他サービスに先行された部分はあるが、それ以外の面で強みがある。
スポットワークの競争は激しいが、例えばタイミーを利用している企業の多くが、うちとも取引をしている。スポットワークの市場を一気にひっくり返したい。
── スポットワークのマッチングでもAIを活用するのでしょうか?
冨田 将来的には通常のアルバイトとスポットワークを組み合わせた提案を「AIエージェント」でできるようにしたい。
例えば「月にこれくらいの金額を稼ぎたい」とAIエージェントに相談すると、ユーザーの予定を聞きながら、「毎週この時間はバイトのシフトを入れて、この日は学校がこの時間に終わるから、この時間にスポットバイトをいれるのはどうか?」など、スポットバイトと通常のアルバイトを組み合わせて提案してくれる。
スポットバイトとアルバイトを横断的に提案してくれるサービスにできれば、競合の面でも有利になると感じている。