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グーグルの親会社であるAlphabet(アルファベット)は、さまざまな業種の企業を傘下に置いている。
そのうちの1社が、アメリカで「自動運転タクシー」を展開する「Waymo(ウェイモ)」だ。2016年にグーグルから分社し、今はアルファベット傘下の独立企業となっている。
そのウェイモがサンフランシスコ市内で展開する自動運転タクシーに乗ってきた。乗車体験から、自動運転タクシーの今と今後を考えてみた。
人間のように自然なドライビング
サンフランシスコ市内、ベイブリッジにも近い観光名所の1つ、フェリービルで待っていると、ジャガーのBEV(バッテリー電気自動車)である、白い「i-PACE」が現れた。
普通のi-PACEとはだいぶ違う。ボンネットの上には巨大なセンサー(LiDAR)があり、カメラも多数ある。
前後左右にも小さなセンサーが取り付けられた、ちょっと重々しい装備の車だ。
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ウェイモは自分の正面に止まってくれるわけではなく、事前に指定した「停めやすい場所」へとやってくる。
ただ、ウェイモのアプリ上から「自分の周囲にある停めやすい場所から選ぶ」形式なので、駅やバス停などの特定の場所でないと呼べない……という話ではない。
ウェイモの担当者が手元でアプリを操作すると、ドアのロックが解除されて中に入れた。
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アプリはUberなどのライドシェアで使われるものに近く、乗車する場所と降車する場所を指定すると、乗車位置に車がやってくる。
料金は、一般的なライドシェアより数ドル高い程度。極端に高いわけではない。
ただ、違うのは「中に誰も乗っていない」ことだ。だから、アプリから操作してロックを解除し、中に乗り込むことになる。
乗り込んだ後は、内部の画面に表示される「乗車済み」ボタンをタップ。乗客全員がシートベルトをしたことを確認すると走り始める。
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運転は自然だ。なめらかさなどは、腕の良いタクシードライバーに劣るかもしれない。しかし、普通の人に劣る運転かというと、そうではない。
「信号に合わせて止まる」「路上駐車を避ける」「歩行者を待って動き出す」など、驚くほど普通に運転してくれる。
ペダルは動かないものの、ハンドルを器用に動かして走っていく様は、なかなか興味深い。
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車内にはタッチパネル搭載のディスプレイが設置されている。
車内で流れる音楽を切り替えたり、エアコンの温度調節をしたりする機能もあるが、主な用途は「運行確認」だ。
周囲にある車や標識、人などを認識していて、それを元に運転が行われている様子もよくわかる。
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ウェイモの担当者によると、こうした周囲の認識は全て自動運転車内で処理されており、クラウドへの依存度は低い。
「オンラインとオンデバイスによる自動運転の関係は、飛行機の管制官とパイロットの関係に近い。あくまで操縦するのはオンデバイスのAI」(ウェイモ担当者)という。
特に重要なのが、ルーフ上(車体の屋根)とボディの周囲についているLiDARセンサー。ルーフ上のものは360度をスキャンし、500m先までの自動車や障害物などの大きな物体を認識している。
周囲の小さなものは、カメラと側面の小型LiDARで把握しているという。13台のカメラ・4台のLiDAR・6台のレーダーが搭載され、それらを組み合わせて運行している。
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目的地に着いたらウェイモの車両は自動的に停止する。
人間が運転するタクシーと異なり「ここで降ろして」とその場で指定することはできないが、周囲の人や自動車に迷惑がかかりづらい位置を、自分で探して停車する。
停車した後、車が自動的に出発するまでの時間は2分程度。いつまでも待ってくれるわけではないので、素早く降りよう。
降りるとウェイモはまた、自動的にどこかへ去っていった。
気がつくと「当たり前になる気軽さ」
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ウェイモの自動運転タクシーの使い心地は、ライドシェアに近い。
ただ大きな違いは、「ライドシェアよりもさらにパーソナル」という感覚にある。
自動運転は物珍しいものだ。しかし、数分も乗っていると、勝手にハンドルが動いていることも、画面表示も「当たり前」に感じてくる。
透明人間が勝手に運転している感覚になり、自動運転そのものが特別なものとは感じなくなる。
ライドシェアも人間が運転している以上、ドライバーとの間にはちょっとした緊張関係がある。
そこで良い接客があればまさに「特別な体験」になるが、毎回期待できるものではない。
だが、自動運転だと乗った瞬間に、車内が完全なパーソナルスペースになる。この開放感は意外なほど大きい。
乗車取材の翌日、サンフランシスコ在住の友人とウェイモについて話す機会があった。すると彼はもう「日常はウェイモ以外乗りたくない」という。
アプリを使わないタクシーから、アプリベースのライドシェアになり、かなり乗客に優しい乗り物になった印象はある。
だが、自動運転が日常の足になると、さらに気楽な存在になる。「ちょっとした気遣いが不要になる」ことが、自動運転車のメリットでもある。
多様なサンフランシスコで走れることの意味
ウェイモは2018年末にアリゾナ州・フェニックスで、全米初の商用・自動運転タクシーを開始した。
現在はフェニックスのほか、カリフォルニア州のロサンゼルスとサンフランシスコで商業運用中。もうすぐテキサス州・オースティンでもサービスを開始する。
サンフランシスコでは2021年からスタートしていたものの、招待制での提供だったため、取材でよくサンフランシスコに出向く筆者はなかなか機会に恵まれなかった。
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6月25日からサンフランシスコでは招待制が終わり、一般提供が開始された。現在、サンフランシスコ市内で300台が走っているという。
何台も連なって見かけるくらい当たり前の存在になっており、珍しがっているのは(筆者を含む)別の地域から来た人々くらい、という印象だ。
「サンフランシスコを走れるということは大きな意味がある。
霧があったり雨が降ったり、渋滞があったり人が割り込んできたりと、色々なシチュエーションがある。その中で運行できている、ということが重要」(ウェイモ担当者)
もちろんサンフランシスコには雪はほとんど降らないし、スコールのような激しい雨も少ない。
全天候・全シチュエーションに対応している、とは言えない。高速道路への乗り入れもこれからだ。
しかし、サンフランシスコのような大都市で、ひと足さきに自動運転タクシーが日常になろうとしている様子を見ると、「未来が目の前に来ている」という大きな感慨を抱く。
そして、ウェイモは8月19日(現地時間)、第6世代システムとその搭載車を発表した。
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「現世代車での運行価格がプロフィッタブル(利益の出る仕組み)かと問われれば、そうではない」とウェイモの担当者は認める。
一方、第6世代車は中国・Zeekr製で、コストをさらに削減し、内部スペースも広くなって乗りやすくなるという。
第6世代システム搭載車に切り替わっていくことで、コストの問題が大きく変わってくる。サンフランシスコでの利用拡大も、そうした変化を見据えてのものだろう。