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日大はなぜ失敗したか。東大、早慶、関学…大学不祥事対応に見る成功例と失敗例

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日本大学の校章
今回のアメフトで起きた事件への対応が非難を集めた日本大学。
REUTERS/Toru Hanai

大学の不祥事というカテゴリーに入れていい。

日本大学アメリカンフットボール部の悪質タックルである。これほど大きな社会問題となれば、一体育会系クラブ部(課外活動)の対応だけでは済まされない。大学のトップ、経営陣が、悪質タックルを大きな不祥事として受け止めて、真相究明、説明責任、再発防止などの難題に取り組まなければならない。

しかし、日本大にはその姿勢が見られない。今回起こした事件そのものももちろん問題だが、その後の大学側の対応についても大きな非難が集まった。5月23日に内田正人前アメフト部監督、5月25日に大塚吉兵衛学長が会見を開いたが、遅きに失しただけでなく、内容もさらに批判を集めることになってしまった。

大学にはさまざまな学生、教職員がいる。とくに大学進学率が5割を超えた今日、大学数は増えた。学生や職員の数も増えれば、学生や職員が犯罪や不祥事に関わる確率は高くなる。

具体的に言えば、傷害、殺人、強姦などから、入試不正、問題漏洩、研究費不正授受、収賄、論文捏造など大学ならではのものまで多様な犯罪が実際起きている。さらにセクハラ、アカハラなどの大学組織の上下関係に由来するようなハラスメントの話も珍しくはない。

このような不祥事に対して、大学はどのように対応してきただろうか。私はこれまで大学の不祥事に関わる会見を取材してきた。過去の不祥事対応のケースを振り返りながら、日本大アメフト問題を機に大学の危機管理について考えてみたい。

総長が謝罪に出てこなかった早稲田

今回の対戦相手で被害者を出した関西学院大だが、いまから15年前、学生が大変な事件を引き起こしている。

2003年8月、4年生が広島平和公園の折り鶴を放火し、器物損壊容疑で逮捕された。関西学院大の対応は早かった。学生の逮捕当日には会見を開き、副学長がこう謝罪している。

「怒りや悲しみを新たにする時期に、言語道断というしかない。心からおわびします」

また、翌日には学長が広島市長を訪問し、謝罪している。

私は大学を20年以上取材してきたが、学生や教職員の不祥事に対して、大学トップが公の場で謝罪するようになったのは、この事件が大きなきっかけとなったのではないかと考えている。

関西学院大学長の対応について、当時早稲田大のある職員が私にこう話したのが印象的だった。

「早稲田なら、謝罪のために総長は表に出てこない」

早稲田大学大隈講堂
早稲田大学は過去の事件の際、謝罪会見に総長が出席しなかった。
Shutterstock/Hitoshi Iyatomi

この職員は折り鶴放火事件の少し前、早稲田大で起こった大きな事件が頭をよぎったからだろう。

2003年5月、早稲田大のサークル「スーパーフリー」の学生が女子学生数人を強姦した。サークルの首謀者(在学生)は逮捕され、今回の日本大アメフト事件と同じぐらい、連日、テレビや新聞でも報じられた。

早稲田大は会見を開き、副総長3人が謝罪した。しかし、白井克彦総長は欠席。早稲田大近くのある女子大学職員が怒ってこう話していた。

「総長が謝罪すべきだろう。以前、スーパーフリーの学生がナンパしにきて、早稲田に文句を言ったが対応してくれなかった。この責任は重い」

当時、私は会見に出席したが、副総長たちの対応から、いやいや矢面に立たされている感がにじみ出ていた。被害者の女性に対する謝罪、再発防止の提示など十分ではなく、当事者意識が薄いとしか思えなかった。

「限界」を理由に学内の調査をやめた慶応

2008年5月、関西大で学生が大麻不法所持で逮捕された。事件後すぐ大学のホームページで森本靖一郎理事長、河田悌一学長の連名で声明が出された。  

「本学としては誠に痛恨の極みであり、関係各位に多大なご迷惑をおかけいたしましたことを深くお詫び申し上げます。本学としては、過去の同様の事件を反省材料に、これまで再発防止に努めてまいりましたが、今回の事件を惹起したことにより、根本からこれまでの取組を見直さざるを得ない状況となりました。早急に抜本的な対応を講じ、二度とこのような不祥事が起こらないように、全学を挙げて取り組む所存であります」(2008年5月22日)

大学は相当な危機意識を持っていた。事件後すぐに大阪府警と協力して「麻薬犯罪撲滅」のために教育、キャンペーンを文字どおり「全学を挙げて」を行っている。私は事件後、何度か大学を訪問したが、再発防止策の徹底ぶりに感心させられた。成功例だろう。

2016年10月、慶應義塾大広告学研究会が同校の女子学生を集団で強姦した。大学はこの件で会見は開いていない。当時、慶應義塾長だった清家篤氏はなにも声明を出さなかった。ウェブサイトでこう伝えるのみである。

「捜査権限を有しない大学の調査には一定の限界があります。一部報道にあるような違法行為に関しては、捜査権限のある警察等において解明されるべきであると考えます。大学としては自ら事件性を確認できない事案を公表することはできず、したがって、一部報道されているような情報の「隠蔽」の意図も事実もありません」(2016年11月21日)

このとき、大学は真相を究明しようとしたが困難を極めた、という話は慶應義塾関係者からよく聞かされた。

だからといって「限界」を理由に学内の調査をやめてしまっては、大学が自浄努力を放棄したことになり、今後の対応策を講じられず、前に進められない。危機管理意識がきわめて希薄と言わざるを得ない。明らかに失敗例だ。

被害者に対して謝罪する大学としない大学

東京大学
不祥事が起きた時に誠実に対応するかが、問われている。
撮影:今村拓馬

2016年は東京大で学生が強制わいせつ、千葉大では学生と職員が強姦事件を起こしている。

東京大は会見を開いていないが、ウェブサイトで五神真総長がこう記している。

「当該学生らの行為は、被害にあわれた女性に大きな苦痛を与え、その尊厳を深く傷つけるものであり、決して許されるものではありません。東京大学のサークルのイベントと称する場で、高い倫理観と社会的常識をそなえているべき本学の学生が、かかる反社会的で恥ずべき行為を集団で行なったことを、総長としてまことに残念に思います」(2016年11月10日)

千葉大は筆頭理事、医学部長が会見で謝罪した。そして、徳久剛史学長がウェブサイトで声明を出した。こちらは謝罪している。

「当該職員の行った行為は、ひととして、また医師としてあってはならないものであり、厳しく処分をするべく直ちに懲戒委員会を立ち上げました。被害にあわれた方を深く傷つけたこと、心よりお詫び申し上げます」(2016年12月6日)

2016年の慶應義塾大、東京大、千葉大の女性に対する卑劣な行為について、慶應大と東京大はトップ名で被害者の女性に謝罪の意を示していない。千葉大はきちんと謝罪している。「遺憾」と言ってはいけないのだ。「お詫びします」である。

謝罪の有無から、大学が被害者と真摯に向き合っているかどうかが分かる。誠実さを示せるどうかだ。この判断ができるのは学長、経営陣、広報責任者だが、被害者目線に立てなかった時点で、危機管理意識を持つ以前に、教育機関として失格だ。

2017年、東京学芸大で過去(2014年)のアカハラが発覚した。出口利定学長がウェブで謝罪している。教員の言動について、

「指導学生及び研究室OBに対し、不適切ないし悪質な言動を繰り返し、当該学生らの尊厳ないしこれに関わる人格権を侵害し、また、複数の学生がこれらの一連の行為を起因とする精神疾患を発症し、卒業後の就労にも多大な支障が生じた、アカデミック・ハラスメントまたはこれに類する人権侵害に該当する行為を行っていたことが判明しました。(略)教育に携わる本学の大学教員がこのような行為をしたことは誠に遺憾であり、関係者の皆様には心よりお詫び申し上げます」(2017年9月12日)。

具体的に被害状況を示した上で謝罪する、という姿勢は評価できる。

ところで、これまで紹介した大学ウェブサイトの声明のなかで、慶應義塾大、東京学芸大のものは読むことはできない。削除されたのだろうか。2年も経っていないのに、事件にフタをしようとする意図を感じる。

それに比べて関西大は10年前の不祥事をいまでも残している。立派である。ここに危機管理に対する大学の真剣度が見てとれる。

保護者を敵に回してしまった日本大

大学の不祥事に対してトップはどう対応したか。過去20年を振り返ってみよう いずれも当時の報道、または大学ウェブサイトから引用) 。

  • 帝京大 学生が強姦。総長「心からお詫び」(1998年2月)
  • 別府大 学生が殺人。学長「心からお詫びします」(2002年2月)
  • 京都大 学生が強姦。総長「深く遺憾の意を表す」(2006年1月)
  • 長崎大 学生が大麻所持。理事(教学担当)「深くお詫び申し上げます」(2010年5月)
  • 日本文化大 学生が殺人。学長「お詫び申しあげます」(2014年10月)
  • 静岡県立大 学生が新生児を遺棄。学長「心よりお詫び申し上げます」(2017年9月)

日本大アメフト部員の悪質タックルは、被害者がいる(麻薬所持もまわりを傷つける)、大きな社会問題になった、大学への信頼を損ねた、などから、大学は速やかかつ誠実に対応しなければならないという点、つまり危機管理では通底するものがある。

日本大学アメリカンフットボール部の練習場
閑散としている日本大学アメリカンフットボール部の練習場。
撮影:今村拓馬

大規模大学の場合、不祥事が起こっても翌年の志願者数が減少することはなかった。しかし、さすがに今回の日本大は厳しい。

専門性の高い理系学部(工、理工、生産工、生命資源科学、医、薬、歯など)は「手に職」系として定評がありブランド力は下がらないだろうが、人文社会系学部(法、経済、商など)は特別な技術や知識が身につけられるわけでもなく志望校として選ばれなくなるかもしれない。

昨今、大学選びで保護者の意向が反映されることが少なくない。保護者を敵に回してしまったからだ。

もはや自浄努力に期待できそうもないので、この件を学外の第三者による調査委員会を作り、真相究明に努めること。日本大が今できる最大の「おわび」は真相を究明して、その調査結果を報告、さらにはアメフト部の体制見直しや再発防止策などの説明を行うことだろう。

大学性善説の立場をとる者として、日本大の良識に期待する。


小林哲夫:1960年生まれ。教育ジャーナリスト。おもに教育、社会運動問題を執筆。1994年から「大学ランキング」の編集者。おもな著書に『早慶MARCH』『高校紛争1969-1970 「闘争」の歴史と証言』『東大合格高校盛衰史』『ニッポンの大学』など。

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