楽天モバイルのオリジナル端末「Rakuten Mini」に今、“騒動”が起きている。
撮影:石川温
楽天モバイルの「常識をくつがえす」とはこのことだったのか……というのは言い過ぎだろうか。
楽天モバイルのオリジナルスマホ「Rakuten Mini」に対して「ありえない」という声が上がっている。
別にネット上の「1円で買える」という広告に歓喜しているわけではない。Rakuten Miniの技術仕様がひっそりと変更されて、発売されている点が注目されている。
6月10日、楽天モバイルはオリジナルスマホ「Rakuten Mini」において、対応する周波数……つまり、どの電波につながるかに関わる性能が変更されていると明らかにした。
楽天モバイルのお知らせ。10日に公開、11日に更新されている。
出典:楽天モバイル
Rakuten Miniは発売当初、Band1(2.1GHz帯)が利用できていたのが、5月以降に発売されたロットに関しては、Band1がなくなった代わりに、Band4(1.7GHz/2.1GHz)やBand5(800MHz)に対応したというのだ。
楽天モバイルはこのことに関して、これまで一切公表はしてこなかった。ユーザーがSNSに投稿したことで、世間は知ることになり、ようやく楽天モバイルが公式に認め、発表したのだった。
しかも、6月10日に発表した内容は誤りだったようで、翌11日には「LTE(4G)だけでなくW-CDMA(3G)においても対応周波数に変更があった」と発表。W-CDMAにおいても、Band I(2.1GHz)が使えず、Band IV(1.7GHz)とBand V(800MHz)に新たに対応していたと明らかにした。
発表した内容が直後に追加変更になったことで、ユーザーの不信感は増したことになる。
楽天モバイルの国内利用には問題ないが……
Rakuten Miniの周波数についての記述。注釈が追記されている。
出典:楽天モバイル
今回の対応周波数の変更は、すで国内で楽天モバイルを使っているユーザーには影響がない。楽天モバイルはBand 3(1.8GHz)で展開しているし、国内のローミングパートナーであるKDDI網はBand 18/26(いずれも800MHz)であるためだ。
ただし、Rakuten Miniを他キャリアや格安スマホで使おうとすると「つながらない」という可能性が出てくる。Rakuten MiniはeSIMのみに対応するため、日本国内の事業者であれば、IIJmioのeSIM、海外であればGoogleの「Google Fi」などのeSIMが利用できるが、Band 1がないとなると、日本国内ではNTTドコモのネットワークにつながらない可能性が出てくる。
Rakuten MiniでGoogle Fiを使ってみたところ。
撮影:石川温
SNSでは今回の問題に対して「クアルコムがSnapdragonのモジュールとファームウェアを仕様変更したのではないか」という指摘があった。
一方、クアルコムは、
「2018年というかなり昔のチップセットであるため、仕様変更は考えにくい。新しい方式の導入などでファームウェアのバージョンが変わるようなことがあっても、対応バンドがなくなることは聞いたことがない」
と否定している。
今回の仕様変更に対して、楽天モバイルは「アメリカ本土など海外ローミング対応を拡充するため」としている。
確かに、Band 4(1.7GHz)はアメリカで使われているため、アメリカでの接続品質を高めるにはBand 4(1.7GHz)への変更が不可欠だったようだ。
楽天モバイルとしては、Band 4(1.7GHz)でアメリカ、既存のBand 3(1.8GHz)でヨーロッパ、さらにBand5(800MHz)で主要な渡航国をカバーできると考えているようだ。
ただ、一方でBand 1を削除することにより「一部ポリネシアなどの地域では利用できなくなる」と楽天モバイルでは認めている。
楽天は「ローミング対応エリアの拡充」が目的と説明
楽天の三木谷浩史社長(2020年2月撮影)。
撮影:小林優多郎
かつて楽天モバイルは、2019年9月の発表会で「携帯キャリア初全機種SIMロックフリー」とアピールしていたのだから、他社回線でもある程度、つながるような仕様にしておくべきではなかったか。
総務省の意向もあり、最近は通信契約と端末販売の完全分離が進んでいる。端末だけを買うユーザーがいる中で、黙って仕様を変更してしまうのは理解に苦しむ。
また、総務省の意見募集で、楽天モバイルはキャリアが販売するスマホに対して、自社保有周波数帯に制限することに対して反発していたことがあった。
その点に対して、楽天モバイルは、
「自社保有周波数に制限するという意図はない。あくまでローミング対応エリアの拡充を目的としていた。Band 1の非対応により、他社ネットワークが全く利用できなくなるわけではない」
と回答している。
度重なる情報修正については「社内の連携ミスにより告知がなされておらず、多大なるご迷惑をおかけしてしまった」と陳謝した。
ケチがついてしまったのは、本当にもったいない
Rakuten Mini自体はおもしろいコンセプトの製品だが……。
撮影:石川温
ただ、スマホの対応周波数に関しては、実際のところ、かなり厄介なのは事実だ。国や地域によって、主力の周波数帯がバラバラだし、1つのモデムで世界各国の周波数に対応するというのは現状、不可能なのだ。
サムスン電子やLGエレクトロニクス、ソニーモバイルなど、グローバルで納入しているスマホメーカーは、それぞれの国や地域にある程度合わせた周波数帯のスマホを別々に開発している。
世界で統一されているように見えるiPhoneですら、アメリカを中心にしたもの、中国を中心にしたもの、それ以外の国に流通するものという3種類が存在する。
楽天モバイルも、アメリカを中心とした仕様変更をするのであれば、ある程度、しっかりとした告知をすべきだし、ユーザーが「アメリカ中心」もしくは「それ以外の国でよく繋がる」というスペックを選べるようにすべきだ。
Rakuten Miniは個性的なスマホで、このスマホを使いたいから、楽天モバイルを契約するというユーザーも多かったはずだ。楽天モバイルを代表するスマホでケチがついてしまったのは、本当にもったいない。
こんなことで楽天モバイルに落胆したくはないし、常識を覆されても困ってしまうのだ。
(文・石川温)
石川温:スマホジャーナリスト。携帯電話を中心に国内外のモバイル業界を取材し、一般誌や専門誌、女性誌などで幅広く執筆。ラジオNIKKEIで毎週木曜22時からの番組「スマホNo.1メディア」に出演。近著に「未来IT図解 これからの5Gビジネス」(MdN)がある。