ダイソーの新業態「Standard Products」。新宿アルタ店がオープンした10月22日に取材した。
撮影:小林優多郎
100円ショップ「ダイソー」を展開する大創産業が新業態「Standard Products by DAISO(スタンダードプロダクツ バイダイソー)」に力を入れている。
300円の商品が7割を占め、最も高くて1000円(税別)。既存のノウハウをいかし低価格で収納にこだわった商品が光る一方、ダイソーのイメージを覆すような「サステナブル」で「高見え」する物も多いのが特徴だ。
売上高5000億円超と100円ショップでは最大手の大創産業だが、イオンがキャンドゥを買収するなど業界再編も進む。新たにオープンしたStandard Products新宿アルタ店を取材し、同社の戦略を聞いた。
“アレ”を無くして組み合わせ自在に
撮影:小林優多郎
Standard Products新宿アルタ店に入るとまず見えてくるのは、白やグレーを基調とした食器たち。6センチの小皿から30センチの大皿まで3の倍数で作られており、通常の食器にある足の部分(高台)が無いのが特徴だ。
撮影:小林優多郎
こうすることで高さや幅を気にせず自由自在に組み合わせて使うことができ、収納時もすっきり美しく重ねられる。
和洋問わず使えるシンプルなデザインで、磁器なのに軽量、指紋がつきにくいマット加工で「高見え」するのもポイントだ。
「収納」こそダイソーのDNA
撮影:小林優多郎
一方でお椀はベーシックな色だけでなく、黄色やオレンジ、グリーンなどカラフルな物も展開している。こちらもこだわりは収納時の美しさだ。一般的なお椀は重ねるとズレてしまうことが多いが、綺麗に省スペースで収納できるデザインになっており、狭い日本の台所事情にも目配せされた一品だ。
撮影:小林優多郎
大創産業・広報課課長の後藤晃一さんは言う。
「雑貨に関するSNSなどを見ていると、『収納』というキーワードがお客様に刺さっていると感じます。100円ショップ・ダイソーの商品でバズる物もやはり『収納術』に関するものが多い。
ダイソーが持っている既存の収納のノウハウを、Standard Productsではさらにデザイン性を上げて提案していければと思っています」(後藤さん)
国産の間伐材をリサイクル
撮影:小林優多郎
Standard Productsのコンセプトは「ちょっといいのが、ずっといい」。脱・大量生産、大量消費を目指し、短いサイクルで買い替える必要のない品質と、年齢性別問わず長く使い続けてもらえるようジェンダーレスで飽きのこないデザインになっている。
サステナブルな取り組みにも力を入れており、その1つが間伐材の利用だ。森林が密集化しないよう間引いた際に出る間伐材は、そのまま放置されてしまうことも多い。Standard Productsでは国内の間伐材を加工して、スマホスタンドやスマホスピーカーなどの商品として蘇らせた。
撮影:小林優多郎
「東京都・多摩地域の檜原村をはじめ国内で集めた杉やヒノキの間伐材を、同じく東京都など国内で加工し、さまざまな人の手を経て最後に新宿でお客様に買っていただくというサイクルです。環境への優しさでも貢献していけたら」
と前出の後藤さんは言う。他にも高知のヒノキで作ったエッセンシャルオイルなど、国産木材を使った商品も数多く作っている。
伝統技術にオーガニック素材も
撮影:小林優多郎
国産へのこだわりは多岐に渡る。
こちらは金属加工産業で有名な新潟県・燕市の職人によって作られたフォークやスプーンなどのカトラリー。
撮影:小林優多郎
世界三大刃物産地として知られる岐阜県・関市のステンレス包丁は、 柄にも国産の木材が使われている。
撮影:小林優多郎
高価な物が多いオーガニックコットンを使ったタオルも500円(税別)。肌触りの良さと豊富なカラーで人気商品になっている。
猫用トンネルなどペット関連商品も豊富
撮影:小林優多郎
ペット関連の商品も多く、特に写真右の「猫用トンネル」はSNSでも話題になっており、虜になった猫たちの写真が複数投稿されている。
キャンプに「推し活」、SNSで注目されている商品たち
撮影:小林優多郎
他にもSNSで話題にのぼっているのは、コロナ禍で改めて人気が高まっているキャンプ用品や、
撮影:小林優多郎
「推し活」の必需品、好きなアイドルなどの写真を入れて飾る木製のフレームも。
「商品2000点」人気の頂点に立つのは……
撮影:小林優多郎
Standard Products新宿アルタ店は渋谷マークシティ店に続く2店舗目の出店だ。550.4平方メートルの店内には約2000点の商品が並ぶ。そんな同ブランドで最も売れているのが、このアロマディフューザーだ。
シトラス、ゆず、アールグレイ、マグノリアなど和洋12種類の香りがラインナップされ、価格は500円(税別)。同様の商品は5000円、ともすれば1万円を超える物も多い中、人工的でない自然な香りがこの低価格で楽しめるとあり、SNSや口コミなどで人気に火がついた。
パッケージにもこだわったそうで、贈り物として、また自分用にまとめ買いする客も多いという。
店内は撮影OK! ダイソーが広告を出さない理由
撮影:小林優多郎
国産やオーガニックな原材料、伝統技術で作った商品がなぜこれだけ低価格で提供できるのか。その理由の1つが広告戦略にある。
大創産業はStandard Productsを展開するにあたってメディア向けのリリースは配信したが、消費者向けのPRはほとんど実施していない。「広告費をかけるよりも商品でお客様に還元していきたい」(後藤さん)との方針だという。
一方で客のSNS投稿や口コミを広げる工夫は欠かさない。店内には「撮影可能」というポップを立て、自由に撮影できるようにしている。こうした店側のちょっとした後押しが、SNS時代のヒット商品につながっている。
低価格でも高品質、サステナブルを実現できた理由
待ち合わせの場所だった新宿アルタを、Standard Productsを通して「情報発信の場」に変えていきたいという。
撮影:小林優多郎
もう1つの理由はやはり「スケールメリット」だ。大創産業は100円ショップの「ダイソー」をはじめ、300円ショップの「THREEPPY」「CouCou」など、世界25の国と地域に5892店舗を展開している(2021年2月時点)。
2020年3月から2021年2月末までの売上高は5262億円で業界最大手だ。
金属やプラスチックなどの原材料価格や海上輸送運賃、海外の生産拠点の人件費などさまざまなコストが値上がりし、低価格帯の小売りビジネスには厳しい状況もあるが、
「大創産業は店舗数も多い。メーカー様とも良い付き合いができ、物流網も確保できています。スケールメリットでコストをカバーし、これまで100円ショップで培ってきた『これが100円?』という驚きをStandard Productsでは『これが300円?』に変えて、引き続き提供していきたいなと」(後藤さん)
競合多数の業界、低価格雑貨にもSDGsか
Standard Products1号店の渋谷店。2021年3月のオープン初日は入場制限をかけるほど盛況だった。隣にはダイソーが。
撮影:伊藤有
100円ショップ大手のキャンドゥをイオンが買収するなど、業界の再編も進む。既存の300円ショップに加え、イオンのようにPB展開に注力するスーパーなども競合に成り得る。ネットではStandard Productsの商品は「無印良品っぽい」という声も多い。ライバルとして意識しているブランドはあるのだろうか。
「他社よりもお客様のニーズと世の中の趨勢(すうせい)を見極めることが大切です。ヒット商品が出たときにそこで満足するのではなく、より必要な色はないか、改善点はないかなど常に自社と向き合って挑戦していきたい。
大創産業自体の売り上げが好調なのも、新規の出店が増えていることやコロナの巣ごもり需要ということよりも、お客様のニーズを汲み取り、いち早く商品開発につなげてきた結果だと思っています」(後藤さん)
Standard Productsは現在、東京都内に2店舗のみ。手触りや香りなど実際に手に取って感じて欲しいという意図もあり、当分はネット通販や全国のダイソー店舗内での販売などは考えていない。
Standard Productsの存在は、小売りのデフレ化や低価格帯雑貨ブランドのSDGsへの取り組みにも影響しそうだ。