生成AI（ジェネレーティブAI）を開発するOpenAI。仕事は複雑だが、従業員の報酬体系はそうでもない。
話題の「ChatGPT」を手がけるOpenAIは創業から8年が経つ。共同創業者兼CEOのサム・アルトマン（Sam Altman）が率いる同社は、約500人の社員に対して、シリコンバレーではほぼ唯一といえるユニークな方法で報酬を支払っている。
この2年、米IT業界は大混乱に陥り、大量のレイオフや、パンデミックによる人材獲得競争が要因となった巨額の報酬をリセットする経営陣が続出した。だがOpenAIは比較的シンプルで分かりやすい報酬体系を築いている。
技術者給与データベースとアドバイスを提供するLevels.fyiの創業者ズヘイヤ・ムサ（Zuhayeer Musa）はOpenAIの報酬を調査。同社と同じような報酬体系を持つ企業は、2022年に閉鎖された自動運転スタートアップArgo AIしかないと述べた。
「彼ら以外に、このモデルをこの規模で採用している著名企業は思いつかない」
OpenAIの報酬はシンプルな給与＋株式のモデルだ。ほとんどの社員は、年間約30万ドル（約4200万円、1ドル＝140円換算）の一律の基本給と、約50万ドル（7000万円）相当のプロフィット・パーティシペーション・ユニット（PPU：株式報酬の一形態、ストック・オプションのようなもの）を支給される。それだけだ。
ボーナスはきわめて珍しく、業績に応じたボーナスもなく、報酬に関する交渉の余地もほとんどないと、ムサ、そして同社に詳しい別の人物は語る。だがこうしたことは、スタートアップからメタ、グーグル、マイクロソフトのような大企業まで、IT企業では標準的なことだ。
ムサは、OpenAIで働く従業員の報酬は経験によって多少の差があると指摘し、給与やPPU（通常2万5000ドル単位）が数千ドル上下すると述べる。だが、ほとんどの職種のひと月の報酬は、30万ドルの給与と50万ドルのPPUを12で割った金額に近い。PPUの権利確定期間である4年で、ほとんどの従業員は、株式報酬だけで少なくとも200万ドル（約2億8000万円）を手にすることを期待できる。
OpenAIの広報担当者はコメントを控えた。
OpenAIのPPUによる報酬は、同社の今後の成長と評価次第で実際にはさらに高くなる可能性がある。PPUは厳密には、将来の利益を一部を付与するものだ。最近、同社は投資家から5億ドル（約700億円）近くを調達したが、PPUと同様のプロセスといえる。イーロン・マスク率いるスペースXなど、他のIT企業も同様だ。
PPUの概念は、入社希望者には少し分かりにくいとムサは指摘する。特にOpenAIは従業員に割り当てられる株式数を明らかにしておらず、ドル換算した金額のみを共有しているからだ。そのうえ、同社は株式の価格を正確に明かしていない。
「多くの人は間違いなく、リスクを心配している」
ムサはそう述べる。
しかし、報酬が上昇する可能性は大きな魅力だ。従業員がPPUで手にできる金額は、付与された価値の10倍が上限だが、それでも現状の典型的な従業員は、PPUで最大2000万ドル（28億円）を手にすることができる。
同社の評価額は直近で200億ドル（約2兆8000億円）から290億ドル（約4超円）へと上昇しており、2021年からは倍増している。世界で最も話題の企業の1つであり、従業員は付与された権利が完全に確定するまでに、評価額がさらに上昇することを期待している。
人間の能力を凌駕するAGI（汎用人工知能：Artificial General Intelligence）の開発を最終目標とする同社では、社内で報酬が話題になることはほとんどないと前述の関係者は語る。報酬が話題になったとしても、アルトマンをはじめとする首脳陣が考える同社の財務的可能性には「ノーリミット（限りがない）」と関係者は付け加えた。
