- チャールズ3世の戴冠後初の公式肖像画が、美術界を二分している。
- イギリス人肖像画家のジョナサン・ヨーが3年の歳月をかけて完成させたこの絵を一部の批評家は酷評している。
- イギリス在住の美術評論家タビッシュ・カーンは、赤い絵の具の使い方が映画『シャイニング』を思い起こさせると話している。
チャールズ国王(King Charles)が、自分の初の公式肖像画に世界がどう反応するかに大きな期待を抱いていたとしたら、その期待は今頃、打ち砕かれているかもしれない。
イギリスを代表する肖像画家のジョナサン・ヨー(Jonathan Yeo)が3年間かけて制作したこの肖像画は、2024年5月14日にバッキンガム宮殿で披露され、たちまち美術界を騒然とさせた。
赤い絵の具で描かれた海のような背景に軍服姿の国王が描かれ、右肩の上には蝶のオオカバマダラが浮かんでいる。この隠されたディテールは、チャールズ国王の環境への情熱と王家の血筋をさりげなく彷彿とさせる。
イギリスの公共放送局BBCによると、この絵はカミラ王妃(Queen Camilla)のお墨付きを得たようで、カミラ王妃はこの肖像画を描いたヨーに「夫をよくつかんでいる」と語ったという。しかし一部の美術評論家はこの絵に対してあまり肯定的ではない。
ワシントン・ポスト(The Washington Post)の美術評論家は、この作品を「様式美の乱れ」と評しており、アメリカの美術大学であるロードアイランド・スクール・オブ・デザイン(Rhode Island School of Design)の教員でアーティストの一人は、その赤い筆跡は、滴り落ちる「血」を連想させるとアメリカNBCのニュース番組「トゥデイ(Today)」に語っている。
ソーシャルメディア上でも議論を巻き起こしており、王室ファンはこの作品を楽しむ派と、芸術的な方向性をあまり評価しない派に分かれている。
Business Insiderでは2人の評論家のコメントを紹介する。
肖像画の赤い色は、血塗られた帝国主義を連想させる
ロンドンを拠点に活動する美術評論家で、「ロンドニスト(Londonist)」のビジュアル・アート・エディターであるタビッシュ・カーン(Tabish Khan)は、この肖像画が非難を浴びていることに驚きはしないとBusiness Insiderに語った。
その赤い色は、特定のものを連想させるとカーンは言う。
「彼が関わったある種の虐殺をほのめかしているようだ」とカーンは話す。
「王室の歴史や植民地主義や帝国主義との結びつきを考えば、人々がそれを見て、それに何らかの関連があると飛躍して考えてしまうのは難しいことではない」
「彼が血まに染まって見えるのは、ほとんど『シャイニング』のような感じがする」とカーンはスタンリー・キューブリック(Stanley Kubrick)監督の1980年の名作ホラー映画『シャイニング』で、エレベーターから血が噴き出すシーンを引き合いに出した。
ジョナサン・ヨーに王室の肖像画を依頼するのは「無難な選択」だった
カーンは、王室の暗い過去と植民地主義をこの絵に結び付けることは、ヨーの意図したことではないと確信していると話す。実際のところ、王室が53歳のこの画家に肖像画を依頼したのは、彼が「媚びたような肖像画を描くことで知られている」からだろうと彼は付け加えている。
「彼は多くのセレブリティを描いてきた。正直に言うと、王室の肖像画の場合、一般的には無難な選択をする。それがジョナサンだ」とカーンは語った。
カーンは、「チャールズが王室の伝統にとらわれず、もっと革新的なアプローチをとるアーティストを起用してほしかった」と言う。
「人々はチャールズが王室の改革者になることを期待していた。イギリスの植民地支配の歴史について公式に謝罪する初の君主になるかもしれないと多くの人が考えていたと思う」とカーンは言う。
「一歩後退したような、間違った方向に進んでしまったような気がする」
チャールズ国王の環境への情熱を考えると、環境に関する暗示が1羽の蝶だけだというのは「奇妙だ」ともカーンは話している。
「彼の環境的な側面についてもっと肖像画に描き込めば、もう少し人柄がよく見え、親近感がわくものになっただろう」
この肖像画はチャールズ国王の「欠点」と「死すべき運命」をとらえている
チャールズ国王の新しい肖像画のファンが少なくとも一人いる。それは、19世紀から20世紀にかけてのアメリカ、イギリス、ヨーロッパの絵画を専門とする美術史家、リチャード・モリス(Richard Morris)である。
モリスはBusiness Insider宛てのメールの中で、ヨーの絵は「並外れたものであり、ハンス・ホルバイン(Hans Holbein)の描いたヘンリー8世(Henry VIII)の肖像画以来、おそらく最も洞察に満ちたイギリス君主の絵である。なぜなら、我々は国王のすべての欠陥と死を見ているからだ」と述べている。
「この肖像画は哲学的で、年齢、責任、開放性、そして人間であることの限界について我々に考えさせる作品だ」とモリスは付け加えた。
「王の責任の重さ、年齢、亡きエリザベル女王の死に対する悲しみ、そしてその表情には、知恵、心配、気遣いも見て取れる。それが彼を人間らしくしている」
モリスは、この作品が「爽やかでモダン」であることにも気づいたとも話している。
この肖像画の圧倒的な赤い色について、見る人が血を思い浮かべてしまうのもわかるとモリスは言う。
「大胆な色であり、この色は自分の過去や未来、そして現代世界において、イギリスの未来に自信が持てない人を圧倒してしまうかもしれない」
しかし、モリスの見解では、赤は「ドラマチックで暗示的」な色であり、「愛や情熱だけでなく、若さや、熟した果実、そして年齢」を連想させる色だという。また、国王の軍服の色も反映していると彼は付け加えている。
一方、ロンドンの美術評論家のカーンも、この王室の肖像画の少なくともひとつの要素だけは気に入っていることを認めている。
「顔は彼の特徴をよく捉えている。顔だけならば、それどひどい肖像画だと私は言わないだろうが、それ以外の部分は何の役にも立っていない」