DeNAは3月13日、キュレーションメディアを巡る問題についての、第三者委員会報告書を発表した。
今回、DeNAのサイトが問題になったのは、ブログやTwitterのように、誰もが投稿できる「プラットフォーム」を謳いながら、その実態は、DeNAが主導してコンテンツを作る「メディア」だったことにある。
メディアならば、たとえインターネットであっても、新聞やテレビ、雑誌と同じように、不正確な情報や、著作権侵害を疑われる場合、批判から逃れることはできない。
DeNAは「プラットフォーム」になれば、プロバイダ責任法の規定により他者に著作権がある画像でも使用できる、という法的判断のもと、キュレーション事業を推し進めた。
昨年、不正確な医療情報を発信していたWELQに対して批判が出た際も、DeNAは当初、プラットフォームであることを理由に、記事の内容に責任を負わないと説明していた。
インターンが作るメディア
今回の報告書では、10のキュレーションサイトで、74万件の著作権侵害の可能性が指摘されている。うち、大半を占める51万8162件が、「MERY」だった。
MERYは公開停止直前、DAU(1日あたり利用者数)が200万人に達していた。愛読者は、BuzzFeed Newsの取材に「『MERYにないものはない』の信頼感」と答えるなど、若年層の女性に絶大な支持を集めていた。
なぜ、そうした記事が書けたのか。一番の理由は、「当事者が、自分の欲しい情報をユーザー目線で書く」という徹底した編集方針によるものだ。ペロリ創業者の中川綾太郎氏の考えが、報告書でも触れられている。
MERYが目指しているのは、「ニーズを生み出す」記事である。すなわち、インターンやアルバイトライターが、ユーザーと同じ目線で、自分が好きな物や良いと思う物を紹介する記事を執筆することにより、紹介された物やサービスにニーズを生み出すことができる。B氏(※編注 中川氏のこと)は、これはプロのライターではできないことであると考えていた。(111p)
問題が発覚する直前、MERYを運営する「ペロリ株式会社」には、140人のインターンが在籍。インターンは複数のチームに配属され、チームリーダーや、さらにそのリーダー統括をする「部長」と呼ばれる職務もインターンに任されていたという。
「インターン体制」は、ニーズを生み出す記事を量産できる一方、チェック体制のリスクもあった。
2014年秋以降、記事数が増えたため、公開前のチェックは中止された。調査委はその後、2016年3月まで、2名の社員が全記事をチェックしたとしているが、月間公開記事数は2016年1月で5747、2月で5590と莫大な数字だ。
著作権侵害をしないよう啓蒙する意識づけや、画像を使うときにはここから使用すれば良い、という、いわゆるホワイトリストはあったという。だがそれでも、ひとつひとつの画像使用が適切かどうか、チェックするのは難しかっただろう。
インターン頼みは、強みでもある一方、リスクでもあった。
DeNAとペロリの「すれ違い」
もうひとつ、著作権侵害が疑われる数が突出して多かった理由がある。DeNAとペロリ側の「すれ違い」だ。
DeNAは買収交渉で、外部の画像を使用する際は、自社サーバーに保存せず、直リンクして表示させるよう求めていた。
一旦、その条件を持ち帰った中川氏は、社内で協議。社員からは、元画像があるサーバーに負担をかける、表示速度が遅くなる、画像が差し替えられるなどと反発があったという。しかし、中川氏は、提携サイトを増やして画像の調達先を増やしプラットフォームになれば問題がなくなると考え、DeNAの条件を受け入れた。
買収後、意向に沿う形で、過去記事の画像を直リンクにすると、予想通り、アクセス過多などを理由に苦情が来たため、その後、全て直リンクにするのを諦めたのだという。
2015年2月、2016年8月にクレームを受け、DeNAの法務部は、ペロリが未だ画像をサーバーに保存し続けていたことを認識したが、改められなかった。
その背景には、現状認識に大きな差があった。ペロリ側は、「DeNAに買収されたあと、誰でも投稿できるプラットフォームになった」と考えた一方、DeNA側は、「今後、プロバイダ責任法を適用できるプラットフォームになる」と捉えていたのだ。
メディアかプラットフォームか。ここでも、真剣な議論はされなかった。
「ひとつだけ違った」MERY
MERYは、10サイトの中でも、異彩を放つ存在だ。「守安社長との距離が遠かった」ことが指摘されている。
報告書では、キュレーションメディア事業における、守安社長の影響力の強さを示す記述がある。
DeNAは2014年、iemoとペロリをそれぞれ15億円、35億円で買収し、キュレーションメディア事業に乗り出した。事業の目標設定は守安功社長自らの指示で、SNS経由よりブレが少なく安定している、検索エンジンから来るユーザー数を指標とするよう、指示を出したという。
社長の号令の元、WELQをはじめ、SEOに特化したメディアづくりが成績を上げる中、独自路線を貫いていたのがMERYだ。
次なる成長のエンジンとしてキュレーション事業に期待していた守安氏は、他のサイトと同じように、SEOを重視し、アフィリエイト広告やネットワーク広告、動画広告をMERYに取り入れるよう繰り返し求めていた。
だが中川氏はそうした施策はMERYのブランドを毀損すると考えた。SEOからニーズを掘るのでなく、あくまで若年女性、読者と同じ当事者の立場から、読みたいと思えるものを企画する、という編集方針を保っていたという。検索エンジンより、読者の方を見ていたのだ。
社の方針として、SEOがKPIとして課せられてはいたが、2016年以降、アプリでの集客が好調になると、SEO重視の風潮はなくなっていったという。
WELQの問題が発覚した当初も、MERYは運営体が異なるため、問題の対象とされていなかったのは、BuzzFeed Newsの取材で確認されている。しかし、MERYは、画像使用でつまづいてしまった。
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女子大生のインターンが当事者目線で書く。それこそが、MERYがファンを掴んだ理由だ。同時にそれは、チェックの甘さに繋がった。140人のインターンを組織して記事を内製している以上、「プラットフォーム」を隠れ蓑にすることはできない。
その方針を引っ張った中川氏は3月12日、辞任した。