「AKB48」の魅力のひとつ、カラフルで華やかでポップな衣装たち。特段ファンでなくても、ヒット曲とともに思い浮かぶ人も多いのではないでしょうか?
そんなAKB48の衣装1102着を一挙に紹介する書籍「AKB48衣装図鑑」が発売されました。
2005年のデビュー以来、衣装デザインを一挙に手がける茅野しのぶさん率いるオサレカンパニーが完全監修。
制服風、赤チェック、カラフルな色使い……この10年の「アイドル衣装」のトレンドを作ってきたと言って過言ではない茅野さんが、衣装に込める思いを聞きました。
AKB48、11年の歴史を一冊に
――「AKB48衣装図鑑」、最高でした。これがほしかった! と夢中になって読みました。
ありがとうございます! 何年も前から多くのファンの方に前からご要望いただいていたので私としても「ついに!」です。
――まずは、このタイミングで発売に至った経緯を教えてください。
衣装本の企画自体はいろいろな出版社さんからいただいていたのですが、メンバーが着るだけの写真集のようなものや、価格が高めの豪華本など、いまいちのりきれるものがなくて。
日々次の衣装作りに追われ、時間的に余裕がなかったのもあってなかなか形にはなりませんでした。
宝島社さんからこちらのイメージと近いカタログ形式でご提案があって、担当さんの熱意も高くて。「じゃあ、やるか!」と打ち合わせを始めたのが去年の春くらいですね。
――約290ページフルカラー、分厚さと情報量に本気を感じました。
ねえ、思ったより分厚くなっちゃいました。Twitterでも「とりあえず厚さがわかるような写真を載せて!」って指示しました。まずそこでインパクトありますよね。
どの衣装を載せるかはもちろん、解説の内容、写真の選定など私が細部までこだわって作り上げています。オサレカンパニーの倉庫は全国にあるので、撮影はかなり大掛かりでした。
本当は年内に写真を撮り終わるつもりだったんですが、結局3月はじめ、発売2週間くらい前まで撮ってましたね……「これじゃわからないから違うアングルから撮り直して」「ここにあの衣装を追加して」と、どんどんページ数も増えていきました。
「パクるなら、パクっていいよ」
――シングル曲、劇場公演を並べて振り返るだけでなく「赤チェック」「ナポレオンジャケット」「卒業ドレス」などカテゴリー別にまとまっているのが面白いなと思いました。
これは私のアイデアですね。最初にご提案いただいた時点ではありませんでした。
AKB48の衣装って“どちらでもない衣装”が結構多いんですよ。コンサートや歌番組、選抜総選挙、じゃんけん大会、そして卒業記念ドレス……私たちはそれを本当に真剣に作ってるんです。せっかくなのでまとめて見てほしくて。
あとは、友人の制作会社さんに聞くと、他のアイドルやアーティストから、AKB48の写真を資料として渡されて「こんな感じで」と“ネタ元”にされることも多いようなんですよね。その人たちも、きっとまとまってたらうれしいんじゃないかと。
今回はカッコよくミリタリーテイストにしたいな、どんなのにしよう、とパラパラめくって見られたら便利じゃないですか?
――そ、それはつまり「パクっていいよ」という……?
まぁ、そうですね……そうなりますね(笑)。
でも、クリエイティブってアレンジですから。私はパクって作ったことは一度もないと自信を持って言えますが「似てる」ものは絶対に存在すると思います。だから正しく“ネタ元”として使ってもらえるのはうれしいですよ。
衣装作りだけでなく、絵を描く人なんかにもぜひ活用してほしいです。アイドル衣装そのものがもっと活性化してくれればいいな! と思っています。
――「昔は嫌だったけど今は気にならない」という感覚なんでしょうか?
うーん、わりと昔からそんな意識かもしれません。パクりたくなるくらい、かわいくていいものが作れたらうれしいじゃないですか。誰にも見向きもされない方が悲しいですね。
賛否両論歓迎、「ファンはこういうのが好きだから」と守りに入らないで、プロとして常に新しいものを提案できるように模索していかなければならないと思ってます。
――アイドル衣装の定番「早替え」のギミックもここまで見せていいの!? と思いました。
いかに下に着ていないように見せるか、に心血を注いでます。ファンの人も慣れてくると「どうせ早替えだろ」って思っちゃうじゃないですか。そこを「え、今どうなったの?」って驚かせたい。
テレビの歌番組なんかでも制作スタッフさんにも「AKB48出してよかったな」「盛り上がったな」と思ってほしくて、毎回趣向を凝らしていますね。確かに本では手の内を明かしていますが、どんどん新しいものを考えていかなきゃいけないので。
妥協したものはすぐバレる
――収録分だけでも1000着超。一体、年に何着作ってるんだ? と思ってしまいますが、エネルギーやアイデアを枯らさないために意識していることはありますか。
秋元(康)さんに言われた言葉で、2つ印象的なものがあります。
ひとつは「クリエイターは両手両足を縛られた状態で、どんなアイデアが出せるかが力量だ」。
時間も予算も常に限られている中で、逆転の発想でやれるのがクリエイターだ、だから0を1にする仕事は辛いんだ――と。これは常にスケジュールに追われてる中でずっと意識してしますね。「この会議室の中のものだけでMVを撮るとしたら?」とかよく妄想しています。
もうひとつは「作り手側が汗を流さなければ、人は涙を流さない」。
「これでいいや」って妥協したものは、すぐにバレるんですよ。必死になって作ったものは必ず返ってくる。そういう経験を重ねてこれたのはよかったなと思います。
今回この本の冒頭で秋元さんから「イントロとしての衣装」というタイトルで寄稿をいただいてるんですが、これサプライズなんです。全然知らなかった! 本になってから「あれ、こんなページあったっけ?」って。
“人生の師”だと思っている人に、こんな風に言ってもらえてうれしかったですね。
「思い出」にはしたくなかった
――正直、最初にこの本が発表された時「あの頃、彼女がいたら」「次世代がまとう」なんてコピーだったので、現メンバーによる写真集になるのかなと不安でした。
ですよね。絶対に反発があることはわかっていましたが、わざとです。
最初は、トルソーに衣装を着せたカタログのみの本になる予定でした。「若手メンバーによるグラビアも入れよう」と提案したのはこちらからです。
なぜなら、この本を作る上で、なつかしい思い出や懐古にはしたくなかったからです。“全盛期”はもちろんあっても、AKB48というプロジェクトは現在進行系。
グラビアを入れるにしても、当時のメンバーや(渡辺)麻友が昔の衣装を着ても「あの頃」になっちゃうじゃないですか。
メイクバッチリでスタジオ撮影して、過去のMVをなぞらえるようなこともしたくありませんでした。すっぴんも、屋外でゲリラロケも、あの頃のAKBはやらなかったし、できなかったことですね。
「衣装選抜」の42人の中にはこの撮影が初めて、というレベルの超新人の子もいて新鮮でした。
アイドルの衣装の役割のひとつは、身にまとう子が自信を持ってステージに出られるようにすること。普通の女の子が、アイドルになれるアイテムなんです。
かわいいんだ! かっこいいんだ! という自信が芸能人のオーラになり、説得力になり、人を魅了していくんだと思います。
前田(敦子)も(大島)優子も同じように何もないところから始まった。最初から人気があったメンバーなんて一人もいないんです。
「言い訳Maybe」との“和解”
――あらためて過去の衣装に向き合って、印象が変わったことはありましたか。
……私、実は「言い訳Maybe」の衣装、個人的にはあんまり気に入ってなかったんですよ。
――えっ、ファンのあいだでは特に人気の高い衣装のひとつですよね?
そう、今も過大評価だと思っているし、この本を作る時にも「別に入れなくていいかな」とすら思いました。
やってることは全然すごくなくて、そのあとの方が凝った挑戦をしている。MVがよかったからみんないいイメージなんでしょ、思い出補正だよ、って斜に構えてた部分がありました。
でも、この撮影で考え直したんです。「この衣装、結構いいかもな」って初めて思えた。
この日、大雨で寒くてコンディション最悪だったんです。青空が広がっていた当時のMVとは大違い。
そんな最悪な状況で、まだ名前も知られていないド新人の女の子たちが歌いも踊りもせずに並んで立っているだけなのに、ちゃんとアイドルに見える。アイドルになれる。
これだけのパワーがある衣装だったのかもしれない、と数年経って初めて気づくことができました。彼女たちが着た姿を見られたことで、自分の中でやっと評価できた気がします。
アイドルの衣装って、なんですか?
――しのぶさんにとって、アイドルの衣装とはどんなものですか。
目で楽しめるもの、そして役割がわかるもの。客席で、テレビの前で、見た人が明るい気持ちになれるものでありたいと思います。
自分の中でそれを強く思うようになったのは、2011年5月から今に至るまで続けている東日本大震災の被災地訪問です。
活動開始当初は「地元のみなさんは大変な思いをしているのに、きらびやかな衣装を着るのはよくないかな」という理由でTシャツにパーカーのカジュアルな格好でパフォーマンスしていたのですが、ある時会場にいる小さな子が「どうして、いつもの格好じゃないの?」とお母さんに質問していて。「そうねぇ、きれいな格好見たかったねぇ」と答えていたんですよ。
その時に「おごってたな」と思いましたね。
アイドルって、誰かを元気にしたり、笑顔にしたりする存在なんです。衣装はそのためにあるんです。だから私は、かわいい! と思ってもらえるものを、もっともっと作りたいんです。