生成AIの技術は急速に拡大しており、様々なビジネスシーンに変革をもたらしています。しかし、その効果や有用性が明確でないため、導入をためらう中小企業も多いでしょう。この記事では、中小企業を専門とするWebコンサルタントが、AI導入のメリットやリスクについて分かりやすく解説し、具体的なアドバイスを提供します。
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AI (Artificial Intelligence、アーティフィシャル・インテリジェンス)、いわゆる人工知能が日本のみならず世界で脚光を浴びています。ニュースにも頻繁にAI関連の話題が上がるようになり、AIを冠するツールやサービスも続々とリリースされています。最も有名なのはOpenAI社が出しているChatGTPでしょう。ChatGPTが世の中に出てきたのは2022年の11月末、1年も経たず話題になりAIの代名詞とも言える存在になりました。
しかし、特にデジタルに苦手意識のある中小企業の方は、それを実際に使いこなしていると自信を持って言える方は少ないのではないでしょうか。実際、ニュースなどで見るようなAIの勢いと進化の速さに対して、実際の現場での活用はまだまだ試行錯誤が続いています。特に、デジタルやITに対して苦手意識のある中小企業ではなおさらです。
そこで今回は、「中小企業はAI活用にいつ本腰を入れればいい?その答えと、いま行うべき具体的活用法」と題して、現実的な中小企業のAI活用法をお伝えするとともに、前提としておさえておきたいAIに対しての考え方や特徴をお伝え致します。
まだまだAIは「使っているのが当たり前」ではない
まず押さえて頂きたいのは、AIを業務に取り込んでいる中小企業はまだまだ少ないという点です。
IT系のニュースやSNS等を見ていると、使っていて当然の様な雰囲気を感じるかもしれません。しかし、そんなことはありません。様々な企業がアンケート調査をしていますが、株式会社MM総研が2023年5月末に行った調査によると日本での利用率は7%、14人に1人が使っている位の利用度となります。また、検討中も5%であり、実に9割近くが「利用してない・知らない」という状態です。
私の肌感としても、最も有名であるChatGPTであっても触ったことがないという企業がほとんど。まだまだ一部の先駆者だけが使っているのが現状です。ただ、だからといって後回しにして良いわけではありません。出し抜くチャンスと捉えるべきなのは当然です。
AIにまつわる法整備はまだ議論が続いている
また留意したいのはAIに関する法律はまだまだ議論が続いている点です。
例えば最も紛糾している画像生成系AI、例えばStableDiffusionやMidjourneyなどが代表的です。これは、生成できる画像のレベルが日進月歩で向上しており、実物写真あるいは、プロが書いたようなイラストと見間違うようなクオリティに達しています。
これに対して、日本の著作権法はどうなっているのでしょうか。2018年に成立した改正著作権法において、AIが文章や画像を学習する際、営利・非営利を問わず著作物を使用できるとされています。つまりは、AIが仮に既存の著作物を元にデータを蓄積しそれを元に何かを生成したとしても、著作権法違反には原則問われないのです (※執筆時点)。
これについて、2018年当時は今のような生成系AIの躍進を想定できていなかったなど、様々な指摘があり、業界団体や著作権者からも改正を求める声が上がっています。現在でも落とし所がみつかっていません。法律として問題は無くとも、社会としては受け入れがたいという状態です。
最近でも日本の大手出版社が出した、AIによって生成された写真集が販売終了になる事件が起きました。法律上は問題ないにも関わらず、生成AIを取り巻く様々な議論について検討が不十分だったという理由で反発が大きかったためです。
どちらが正しい正しくないということではなく、AIは用途によっては社会に対して「なじんでいない」のです。気軽に扱うと事件や炎上に繋がる可能性があるのです。
このように、実際としてはまだまだ「当たり前に使える状態では無い」ということは押さえておく必要があります。
機能・社会的受容はまだ発展途上段階、しかし進化・変化はこの瞬間にも起こっている
そのように社会的に課題がある一方で、AIができることについても正しい把握が必要です。ChatGPTを初期に使った方は「所詮このくらいの精度か」と思われたかもしれません。実際、まだまだ実用レベルではないケースもあります。期待感が先行している状態だと考えるべきです。
画像生成も、素材集の代わりになるようなレベルとは言いがたいですし、ChatGPTなど文章生成系も、まだまだ品質の面でも人間がしっかり書いたものには劣りますし、ハルシネーション (ウソをあたかも本当のように書く) という問題も解決できていません。過大な期待をしないことが重要です。
しかし、そのことを忘れてしまうくらい日進月歩で”進化”している点も重要です。例えばAIの代表選手であるChatGPTは短期間に改善を繰り返し、応答内容や意図をくみ取る部分など性能を向上させ続けています。
速度や精度などの性能そのもの以外でも、外部プラグインに対応し機能を強化できるようになったり、Advanced Data Analysisという、話し言葉でプログラムを動かせる機能が追加されたりと、可用性や拡張性も進化しています。
画像生成系AIも、その品質や速度はもちろんのこと、より求める画像を生成しやすくなる仕組みの導入、そして画像だけではなく動画まで視野に入ってくるなど開発が続けられています。
また、MicrosoftがOfficeに「Copilot」としてChatGPTなどの生成系AIを組み込んだり、同様の支援機能をGoogleがGoogleWorkspaceに導入を進めるなど、既存の製品やサービスとドッキングすることで新たな価値が生み出されていることも重要です。
AIだけでニュースサイトが成立するくらいの話題が溢れています。
業務で使わないまでもトレンドは肌感覚で押さえておくべき
今この瞬間に実用性が低いからといって、将来に渡って価値がないわけではありません。いつ、実用性の高い便利なものが飛び出すか分からないのです。
また、使わないまでも「どういう方向に向かっているのだろうか」というトレンドを押さえておくことが重要です。
そうすることで「こういう状態になったら、手を出してみよう」「この辺りはそろそろ使っていけるのではないか」といった”土地勘”がつきます。土地勘があれば、大きなムーブメントが来たときの初動で大きく周りを突き放すことができるでしょう。
少なくとも管理職以上は、使って肌感覚を得なければならない
そして管理職以上は、一秒でも早く「触っておく」べきです。経営者はもちろん、会社全体に影響力を持つ執行役員以上、できれば管理職は触っておくべきです。
前述の通り、AIは強大なパワーを持ち日進月歩であると同時に、社会実装のための課題も山積みです。企業の舵取りをするなら、この強大なパワーをどのタイミングで取り入れるかを常に意識すべきです。「経済を知りたいなら株を買え」と言われるように、実際に触ることでしか分からないのがAIです。
その様な意思決定を行う立場であれば、触っていないという選択肢はあり得ません。いつ、どこに、誰を中心に、どのように導入するのかアンテナを立てるための必須条件は実際に自分で触っていることです。
また、社員からボトムアップでAI活用を提案される可能性も十分あります。それを適切に評価し、会社として後押しするのか議論をもっと深めるのか再考させるのか決定する。それができなければせっかくの好機も社員のモチベーションも失ってしまうかもしれません。
そして経営者は「会社で最も触っている人」であるべきです。経営者の時間を投資するだけの価値がある重要なファクターです。
中小企業がおさえるべき現状のAI共通の欠点:ハルシネーションとニッチでの精度問題
とは言え、リスクを避けるために現状のAIが持っている欠点を先に押さえておきましょう。これは今後改善・解消されるかもしれませんが現時点では重要な欠点です。
- ハルシネーション (Hallucination) 問題
主としてChatGPTなど対話型AIに起きる現象で、端的には「非常にもっともらしいが、実はウソ」をAIが答えてしまうという現象。これを「AIが幻覚を見ているようだ」という意味で、ハルシネーションと呼びます。
例えば「表参道駅付近で評判の良いレストランを紹介して」と聞くと、いかにもそれらしい店名をリストアップしてくれる。しかし調べてみるとそんな店はない。と言ったケースです。
これは生成型AIの仕組み上、避けることがなかなか難しいものです。詳細は割愛しますが、避けるポイントとは「AIだけで完結できると思わず、必ずレビューのプロセスを入れること」です。AIの言っていることを丸ごと信じてはいけません。 - ニッチになればばるほど精度が下がる問題
AIは大規模言語モデル (LLM) という非常に大きなデータを基に、答えを返したり何かを生成したりしています。そのため、モデルのデータの大きさや偏りによって返答の品質が大きく変わります。言いかえると「ニッチなことになればなるほど、回答や生成の精度が下がる」のです。なぜなら、データ量が少ないからです。
そのため、例えば「地元の地域商圏でビジネスをやっていて」「ネット上にその業種に関するデータが少ないニッチ商売」を営んでいる方は要注意です。日本の中小企業ではありがちですよね。その場合、自分の業界について質問するなどしても、参照するデータが少なく、国語辞典に載っているような内容しか返ってこないことがあります。
この問題を正面から避けるのは難しいです。データ量の問題だからです。従いまして、良い回答や生成結果が返ってこない場合は、地域を大都市圏にしたり、ニッチではないが構造が似ている類似業種についての質問にして、それを元に自社について類推するなどの、何らかの搦め手が必要になります。
3〜4割を手伝ってもらう、と言うイメージからはじめよう
このAIの欠点を元に私がお勧めする「態度」「向き合い方」は、最終アウトプットまで丸ごとAIにやらせるのではなく「全体の作業の3〜4割をやってもらうにはどうしたらいいだろう」くらいのレベル感で活用方法を考えることです。
ハルシネーション問題があるため、人間のレビューは必須です。監修責任者が必要です。
また、どこでハルシネーションが紛れ込むか分からないため、複数のステップを一気に動かすのも危険です。なので、まずはわかりやすい一部分を切り出しましょう。全部AIにお任せ!AIが勝手にやってくれる!ということを期待するのはまだ時期尚早です。
おすすめの活用例・活用シーン:定型文作成、ブレスト支援、音声周りの効率化、簡単なプログラミング
社内定型文章作成の効率化
まず使いやすいのは、定型的な文章の作成です。アドホックな内容よりテンプレートの作成等に使うと良いでしょう。
ビジネス上のメールや書類などは、形式的な部分が多くムダと言えますが、とは言えそれが無いと「無礼」「しっかりした会社では無さそう」と思われるのも事実です。こういった所はどんどんAIに作ってもらい、それを元に個々人が状況に応じて書き換える形が良いでしょう。
こういった文書は意外とありますので、毎回テンプレートを使えるようになるだけでも、かなりの業務効率化になります。テンプレート入れをグループウェアなどに作って共有・みんなでブラッシュアップすると対応のサービスレベル安定にも繋がります。
また、社内で使う書類も叩き台をAIに作らせてそれを元にレビューして完成させると、スピードがとても速いです。こういった部分はハルシネーションなどの問題もほぼ出ないので、非常にAIは力を発揮します。
Microsoft社はOffice製品にChatGPT4を組み込んでアシスタントとして使う様です。 これはただのテンプレートを越えて、過去のやりとりを元にした返信メールの内容提案や、OneNoteに保存された議事録があればそれを元にして、提案書を作るなど、さらに一歩も二歩も先んじた内容がアナウンスされています。
もちろんこの取組は対抗馬であるGoogleも同様です。GoogleはDuet AI in Google Workspaceという名前で2023 年 5 月 11 日に、Google Workspace blog にて発表しました。現在ウェイティングリスト登録にて一部のユーザーにのみ開放されています。
内容としてはMicrosoftと基本的には似ています。Googleドキュメントにて、文章を自動生成・場面にあった言いかえ・要約などを行えたり、Gmailでは定型文自動生成をしたり、Slideでは言葉でそのスライドにあった画像を生成したり、スプレッドシートではデータ分析のお手伝いなどをしてくれるようです。
今後、中小のサービスも同様のサポートツールとしてのAIを商品に入れてくると考えられます。
販促関連等のブレストや案出しの効率アップ
最終的な判断を人間が行うという前提に立った時に、AIにとにかくアイディアをたくさん出させてインスピレーションを得るというのも有効です。
例えばチラシのキャッチコピーや、セミナーのタイトル、商品の名前などは、イチからブレインストーミングするのはとても大変です。しかしAIは言葉に関する多様なデータを持っていますので、ブレストや壁打ちの案出しは得意です。
「○○という商品がある、○○という人たちに売りたい、考えられるキャッチコピーをバリエーション豊富に、理由と一緒に10案だして」などとChatGPTに問いかければ、キャッチコピーとその理由が箇条書きで得られます。
その中で気に入ったものがあれば「3番目のが良い感じ、これに似たものを10案だして!」と頼んだり、自分の作った案について「これに近いものを10案だして、但し○○という単語は必ず使って」などとバリエーションを出させていくことができます。
豊富な言語データを持っているAIの得意分野をうまく使えるやり方の1つです。アイディアが必要な販促活動全般で使えます。
ただし、画像生成AIを企業の広告や販促に使うのは辞めた方が良いです。前述の通り画像系は著作権周りの関係で、まだまだ社会に受け入れられていないからです。
会議など音声関連のコミニュケーションコスト削減
AIは音声認識の分野でも活躍しています。それまでGoogleやAmazonはじめ各社が音声認識・音声入力のAPIやサービスを提供していましたが精度はまだまだイマイチでした。
しかしOpenAIの出したWhisper (ウィスパー) というAIは、非常に高い精度での文字おこしを可能にしました。私も使っていますが、最初に認識結果を見たとき本当に驚きました。少し直す程度で、Podcastがきれいに書き起こされていたからです。
利用シーンとしては、まずは会議の議事録作成のがお勧めです。議事録作成は重要ではありますが、時間がかかります。AIで文字おこしをし、AIに要約・ToDoの抽出などを行わせることで大きく時間の節約になります。
議事録関連については、オールインワンでこの辺りの機能を提供しているサービスも多くありますので、一度使って頂くと良いのではないでしょうか。
また、それ以外の利用シーンとしては「コンテンツ作成」にも使えます。文章を書くのは得意ではないが、お客さんに話すのはできるという方は、そのまま録音してAIで文字おこし、それを文章を書ける方が分解してコンテンツにする。これでセールスコンテンツや広告の文言なども作る事ができます。ただ、最終チェックや慣習などは人間が行わないと危険です。
ちょっとしたプログラミング・マクロ作成を自分で行える
簡単な業務効率化の1つが、ちょっとしたプログラムの活用です。最も分かりやすいのがMicrosoft製品であればOfficeのマクロやVBA。GoogleであればGoogleAppScript。後はWindowsであればコマンドプロンプトからのコマンド、MacならTerminal経由でのコマンド・スクリプト。
こういったものを「実現したい事」「何を使って」位の情報でAIに聞いてみると、コードそのものを生成してくれます。運が良ければそれをコピーアンドペーストすることで、やりたいことが簡単に実現できてしまいます。
また、うまくいかなかったときはエラーメッセージが出たことを伝えると、修正版を作ってくれるなど、かなりこの分野はAIは強いです。マクロやVBAを使いこなせる人は多くありませんから、これは非常に業務効率化に繋がるのでお勧めです。細かい所の自動化は非常に全体工数に響きます。いちいちプログラマーに依頼することもないのでコストも削減できます。
おすすめしない活用例・活用シーン:画像生成、SEO調査、コンテンツ丸投げ作成
画像生成AIの利用
前述したとおり、画像生成AIは非常にセンシティブな状態です。素材を買う必要もなくそこそこのクオリティの素材が手に入ると考えて使うと、思わぬ炎上に繋がる恐れがあります。
また、まだまだ「あ。これはAIかな」と感づかれやすいのも事実です。感づかれると「素材の費用ケチっているんだな」「著作権への意識が低いな」などとマイナスの感情を持たれるリスクがあります。
現時点では、マーケティング的に言えば自前の写真、最低でも素材集の写真を使いましょう。
また、生成系のAIはハイスペックなPCが必要なため、トータルではあまりオトクにならないかもしれません (グラフィックボードだけで5万〜ウン十万の世界です)。
SEO・コンテンツ作成ツールとしての利用
SNS上でよく喧伝されているのがこのSEO目的ですが、基本的に利用価値は薄いです。SEO目的の場合、大きく2つの使い方が多いでしょう。1つはキーワード調査に関するもの。もう1つはコンテンツ作成に関するものです。
専門的な内容になるため詳細は割愛致しますが、どちらもオススメできません。
キーワード調査は精度が低い、数値も信頼性が低い
まずキーワード調査については、ハルシネーションが起きやすいです。よく「○○というキーワードについて検索数や意図を調べて」などと聞くと良いと言われますが、実際に調べると分かりますが検索数は全くGoogleのデータと合致しません。検索意図も精度は低いです。
これはまさにハルシネーションによるもので、AIは「実際正しいかは分からないが、それっぽい数字を持ってきているだけ」だからです。基本的に役立たないと考えて下さい。
キーワードの分類で使うことをすすめる人もいますが、例えば現状ChatGPTには日本語をきちんと処理するためのライブラリが入っていません。そのため精度が低いです。
生成できるコンテンツの内容はまだまだ薄い
コンテンツ作成については、見出しを出してもらうのが限界と考えて下さい。文章そのものまで書かせるのは危険です。ハルシネーションの問題もありますが、それ以上に「ネット上のデータを基に混ぜ合わせてできたものなので、どうしても内容が薄い」のです。
それを元に加筆修正するなどの意図であれば良いのですが、AIにどんどんテーマを与えてコンテンツを大量生成しようといったやりかたは、効果が薄いです。実際に海外でその手法を使った会社はありますが、多くの場合アクセスを落とす結果になっています。
あくまで「壁打ち」「ブレスト相手」として使い、SEOの戦略策定やコンテンツ作成の核となる部分は人間が行う必要がある、のが現状です。
まとめ
AIは大きなパワーを内在しており、それをうまく御せる企業・個人が強いのは確実です。ただ、現状はまだ様々な面で慎重に使う必要があるのも事実です。
そのため、今のうちから「たくさん触って肌感覚をつけ」「関連ニュースへの感度を高めておき」使えそうなものから少しづつ業務に入れていくことをお勧めします。
その際のリスクを減らすために、今回ご紹介した内容を押さえて下さい。また、使い方についても悩んだら今回の記事の内容にあるものから初めてみてはいかがでしょうか。
AI活用本格化の際に、その流れに一気に乗っていけるようにきちんとトレンドや肌感覚をキープして頂ければと思います。今回の記事がそのお役に立てば幸いです。
注:本記事で紹介された製品は、各機能の例として取り上げられており、勧誘・推奨を意図したものではありません。掲載されている情報は、掲載時に信頼できると判断された情報源から入手されたものです。