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女子禁制! ウィリアム王子も通った美少年たちの秘密の花園、イートン校とは?

男子だけが入学することを許される英国パブリックスクール。その頂点でもあるイートン校は、とりわけ英国式階級のトップに君臨する良家の子弟が集まる“秘密の花園”。政界からハリウッドまで活躍する世界的な人材を生み出すことで知られているが、その内幕が晒されることはなかなかない。ところがそんな禁断の扉を開けたひとりの日本人女性写真家がいた! 特別な許可を得た貴重すぎる写真と彼女の言葉を読み解きながら、イートン校の知られざる謎と美をここに公開。

By ELLE Japan
イートン校
SHOKO OGUSHI

英国のみならず世界中の話題を席巻したジョージ王子とシャーロット王女の誕生。今後様々な視点で注目されることが確実なロイヤルベビーたちだけれど、今や2児の父となったウィリアム王子にも、少年時代があった……。王子がイートン校の生徒だったまさにその時代、ひとりの日本人女性写真家に、撮影の許可が下りた。その写真家・大串祥子さんが、そこに至るまでの過程と、実際に生徒と長時間過ごしたからこそ捉えられた知られざる真実をエル・オンラインに語ってくれた。

『アナザー・カントリー』で知ったイートン校

イートン校
SHOKO OGUSHI

中学校のときだったと思うのですが、日本で今のような“英国ブーム”がありました。あのときデュラン・デュランなど、ビジュアルで見せるバンドが流行ったんです。最初はニューロマンティックの美形バンドのお耽美なビデオクリップからはいったんですが、あるとき映画『アナザー・カントリー』を観てしまい、「なんだこれは!?」という衝撃を受けました(笑)。

恋愛は男女でするものと信じていた私は、男性同士に恋愛があることをあの映画で知ったんです。もちろんそれ以前に萩尾望都作品なども知っていたのですが、体罰やいじめといったものも含め、黙って耐え抜かねばならない厳しい上流階級の姿が衝撃的でした。

写真/写真集の主役にしようと決めたイートン校の貴公子ティム君は、名門校のなかではなかなかの“やんちゃ男子”。

親日的? イートン校から奇跡の撮影許可

イートン校
SHOKO OGUSHI

デュラン・デュランは美しいけれど、普通の男のコです。でも、イートン校には麗しさに加え、閉塞感(抑圧)と伝統があり、そこにどうしようもなく憧れました。

その閉塞感はよく知られていて、イートン校を卒業制作のテーマに選んだとき、大学の先生も「アイデアは面白いけど、イートン校が許可をくれたら、の話だね」と最初から無理だと思っているような、冷淡な反応でした。そんな風でしたから、私もダメ元でイートン校にプレゼンしたのですが、写真を気に入ってくれて特別に許してくれました。学習院との交流も盛んなイートン校には、親日的な土壌があったのだと想像できます。ともあれ、運よく撮影許可が下りたことには大学の先生も驚いていました。

写真/美少年の午睡。この撮影後、ほどなくしてこの男の子、オリー君は交通事故で亡くなったのだとか。大串さん曰く「時間と運命について考えさせられた一枚」。

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代アニ入学の夢。「生まれた瞬間にイートン校入学が決まる」

イートン校
SHOKO OGUSHI

「子どもが生まれた瞬間に親が願書を出す」と言われるくらい、イートン校出身者の家のもとに生まれた男子は本人の意志とは関係なく入学することが運命づけられてしまうと言われています。面白いエピソードを聞きました。お祖父さんもイートン卒、父親もイートン卒。祖父も父も「イートン校は思い出したくもないくらいイヤ!」と言っているのに、なぜか息子を入学させてしまう。そこにはお母さんの意向があるらしいのです。当事者がいくら嫌がっても、外側から見ればそこでしか手に入らない何かが人を惹きつけてしまうんでしょうね。

英国の上流階級は、ただのお金持ち“ニューリッチ層”とは違います。例えば“ジェントリー”つまり領地をもっているとしても、その分税金も高い。しかし、階級の上に立っている以上辛さを隠し、やせ我慢もしなければいけません。将来、英国あるいは世界のリーダーとしての教育を施されるイートン校の生徒たちは、特権をもたない者たちに貢献する義務を負う、それこそが“ノブレス・オブリージュ”なのだと教え込まれます。上流階級の人間として生きていくことは正直面倒くさいことなのですが、同時に強い誇りもある。小さい頃から甘やかされることなく、我慢をすることを知っているのです。

イートン校の生徒のひとりが、撮影中「東京の代々木アニメーション学院に通いたい」と言ってきました。「なぜイートン校の生徒が代アニを知ってる!?」ということにも驚いたのですが、その言い方から彼が「とはいえ、それは無理な夢だ」と自覚していることに気づき、それ以上に驚きました。イートン校の男子は夢をもつことはしないのです。決められ、制限されたなかでしか、幸せになれないことを知っているのです。

英国紳士たるもの、ルールを守ることを徹底し、辛いときにも涼しい顔。どんなときも振る舞いはエレガントで美しくなくてはなりません。義務は自由に優先するのです。

写真/カレッジチャペルでの少年合唱団。少年期のわずかな期間のみに許される美声がずっと受け継がれている。

イートン校のファッションにみる伝統

イートン校
SHOKO OGUSHI

イートン校の生徒は13~18歳をここで過ごします。上流階級の子どもばかりではなく、優秀な学業を修めている子どもを奨学生として迎え入れたり、留学生も増えていますが、誰一人としてマナーのなっていない子はいません。英国紳士の卵として厳しく躾けられた人がもつ特有の作法の美しさがあるんです。たとえば、不快感を表現するときに婉曲的に表現したり、ケチと言っていいくらい古いものを大事にしたり、食べ物も食べられるだけささやかに皿に取ります。

上流階級にもかかわらず、イートン校の生徒の制服である燕尾服の裏地は、擦れてザラザラになっています。先輩たちが着用したお下がりを、後輩たちが受け継ぐからです。

25ある寄宿舎は、すべてが縦割り社会で、その強い結束は、スポーツの対抗戦ややボートレースで見られる、寮ごとに異なるユニフォームに現れています。

厳しい校則はあるものの、イートン校の教育方針は生徒の個性を尊重し、伸ばすことにある。音楽や絵画、演劇からスポーツまで、エリート校でありながらあらゆる分野で活躍する人材を世界に向けて輩出しているのはこのため。エディ・レッドメインもその中のひとり。ウィリアム王子と同窓生のエディも撮影中に在学していました。もしかしたら校内ですれ違っていたかも!

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「ジェントルマンは黙って……」

イートン校
SHOKO OGUSHI

イートン校の生徒は全員大学に進学しますが、オックスフォードやケンブリッジといった難関大学に入学するのは3割くらいです。経済的に十分な教育を受けられない家庭出身の学力優秀な子どもたちが全国から集められ、「キングズスカラー」と呼ばれる奨学生となってオックスブリッジへの高い進学率を維持しています。先祖代々イートン校に通っている上流階級出身の生徒にとっては、大学進学のための学習もさることながら、真の目的は「ご学友」を作ることにあるのではないでしょうか。だからこそ、母親は自分の夫がどんなに嫌がっても、息子を入れたいと思うのかもしれません。

写真/上級生たちによる水球のシーン。何気に右側中央で白いキャップをかぶっているのが、何を隠そう在学中のウィリアム王子。確かめたい人はぜひ写真をクリック&拡大してみて。

イートン校
SHOKO OGUSHI

ただ、仲間づくりは自主性に任せられています。食堂で一人で食べている留学生を見かけることがありましたが、先生はみんなで食べるように促したりしません。孤独が好きな人もいますし、助け船を出したりするのは、ジェントルマンにとっては野暮なこと。さびしい子はずっとさびしい学生生活を送ることになるので、厳しい環境ではあります。ですが、厳しさと裁量、言い換えれば自由とのバランスをとっているのです。仲間をつくりたい子はそうできるよう自分で行動しないといけませんが、逆にどんな人でも放っておいてもらえる。徹底した個人主義がそこにあります。

私が撮影していた期間にはウィリアム王子も在学していたのですが、彼は背が高くただでさえ目立つうえ、いつも多くの取り巻きがいたので、すぐに見つけられました。

写真/下級生の化学の授業の一コマ。忘れないために手にメモったものの、覚えておくべきものが多すぎて文字でいっぱいに……。イートン校であることを忘れるごくありふれた学校の風景は、世界共通。

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イートン校イチの美少年

イートン校
SHOKO OGUSHI

あるとき、美術の時間が終わり、生徒たちが昼食に出て行ったあと、一人残って絵を描いている生徒のあまりの美しさに目が離せなくなりました。そのときの写真を手に「この人を撮りたい」と先生にお願いすると、先生は急に顔を曇らせました。「彼だけはお勧めできないよ。飲酒、喫煙、無断外泊を繰り返して、何度も校長室呼び出しを喰らっているからね」といいつつも、先生は撮影をアレンジしてくださいました。彼こそが写真集の表紙にもなったティム君(1P目写真1枚目)でした。

稲垣足穂も述べた通り、美少年とは非合理性の存在。私はそう思っています。美少年は組織で開発され、組織でしか生きられないけど、特別である彼はその枠を侵犯してしまう。美少年とは相対的ではなく、絶対的な存在なのです。「全部思い通りになると思うなよ」という純粋さは、危うさにも通じ、それこそが少年期の一瞬の美ではないでしょうか。イートン校を代表する美少年として、どうしてもティム君のポートレートはボウタイ姿でなければならない、と私は思っていました。ボウタイは最上級生のみが着用を許されるもの。当時4年生の彼は寮に走って戻り、先輩から借りてきました。簡単に調達できたことから推測するに、孤独を好み、ひとり群れから離れて行動する彼も、人的ネットワークはきちんと構築していたということでしょう。撮影中にご学友が通りかかり、タイを締める姿をからかうと、ティム君は平然と言いました。「俺は表紙になるんだよ」

写真/ティム君の燕尾服姿。日々の制服として着なれた人の着こなしは見事。着衣の基本を叩きこまれた人だけが知る本物の着崩し方は、ある意味和装と通じる部分があるのだとか。

イートン校カツアゲ事件。英国ファッションと切り離せない“階級”

イートン校
SHOKO OGUSHI

イートン校の生徒が学校を取り囲む壁の外に出ると、カツアゲに遭うこともしばしば。学校をでればそこはウィンザーという小さな街。まだ10代の少年であっても、どんなにカジュアルにしていても、生徒たちの様子はひと目で上流階級と判断がつき、目をつけられてしまう。

なぜそれほどまでにはっきりと服装に際立つ差が出てしまうのかといえば、英国紳士のファッションは、階級をはじめとする属性を見せるための記号であり、美意識だからです。イートン校内の制服でも格差があります。学業優秀な奨学生「キングズスカラー」の生徒は、燕尾服の上にガウンを羽織っているので、遠くから見ても別格であることが分かります。また、生徒たちの投票で選ばれる人望の厚い最上級生の代表は、“POP”と呼ばれる好みの柄でオーダーしたベストを着用することができます。ファッションによって、誰がどんな役割なのか、どういうステータスにいるのか、どの階級に属するのかが、はっきりと分かるようになっています。イートン校では、先生自らお手本のような完璧な燕尾服の着こなしで身なりを整え、誰一人だらしない格好で人前には出ません。生徒たちは、上流階級のドレスコードを、毎日の習慣として教え込まれます。隠せない品格というものは私服のときもにじみ出てしまうのです。

写真/フラワーハットをかぶった生徒たちが、敷地内のテームズ川にボートを漕ぎ出し、号令の下、ボートの上に起立し脱帽、花を水面に散らす優美で幻想的な船列。

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麗しき花で飾られた“Fourth of June”

イートン校
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全寮制であるイートン校で、唯一学外の人を招待できる “Fourth of June” と呼ばれるお祭りがあります。家族や友だち、ガールフレンドを呼んで学校を案内したり、日頃の成果を見せながら、いつもの真面目な様子と違って、リラックスした表情の生徒たちを見ることができる一日です。お昼には家族とお弁当を囲んでピクニックを楽しみます。併設の駐車場に停まっている車が、ベントレー、ロールスロイスのような高級車であることを除けば、ごくありふれた平和な風景がそこにはあります。

“Fourth of June” のメインイベントが “Procession of Boats” です。その日だけ着用できるボートウェアは、25の寮ごとにデザインが異なります。麦わら帽子にはボートに乗る少年たちが自ら花を飾り付けます。ボートはイートン校の敷地内を流れるテームズ川(私有地)に漕ぎ出し、誇らしげな家族の前で、漕ぎ手たちはゆっくり起立し、帽子を脱ぎ、花を水面に散らすのです。

写真/“Fourth of June”の帽子を飾る花は、漕ぎ手が自ら飾り付けていく。この日だけ着用するボートウェアは寮ごとに異なるデザインとなっている。

【おまけの秘話】16年越しの公開! ウィリアム王子の替え襟

イートン校
SHOKO OGUSHI

ある日、いつもの通り、書斎で先生をお待ちしていると、サイドテーブルに替え襟が置かれていました。襟を見るのも初めてだったので、撮影しようとカメラを向けると、裏側に名前が書いてありました。ファインダー越しに見えたのは、「HRH Prince William of Wales」の文字! 先生に話を聞いてみると、掃除担当の人がうっかり落としていったのか、学内の路上に落ちていたのだそう。一時的に先生が“避難”させておいたところに、たまたま通りかかった、という話です。

母親であるダイアナ元妃が亡くなった翌年の1998年であり、学校は当然のことながら、イギリス全体が王子をパパラッチから守ろうとしているときでした。そんなときに撮影許可をもらったことも奇蹟ですが、まさかこういうサプライズもあるとは予想もできませんでした。

写真/当時は公開しないように念を押されていたが、16年の時が過ぎ、ついに出版の許しを得た一枚。大人になったウイリアム王子にとって、思い出の写真となることを祈って。

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大串祥子 (写真家)

イートン校
SHOKO OGUSHI

佐賀県生まれ。東京外国語大学イタリア語学科卒業。株式会社電通にてコピーライター・CMプランナーとして勤務。 退社後渡英、ロンドン・カレッジ・オブ・プリンティング・ディストリビューティブ・アンド・トレード(現:ロンドン・カレッジ・オブ・コミュニケーション)写真学部フォトジャーナリズム学科(Postgraduate Diploma)にて写真を学ぶ。在学中に始めたプロジェクト『アドニスの森 Men Behind the Scenes』では、イギリスの名門パブリックスクールイートン校、ドイツ国防軍の兵役、コロンビア軍麻薬撲滅部隊など、秩序、制服、階級、不条理にいろどられた究極の男性社会に潜入し、女性の視線から男性の美と謎を追い求めている。2004年より近代五種を撮影開始。2008年北京五輪における国際近代五種連合UIPM公式フォトグラファーに任命され、同種目を撮影。 2009年ドイツのRalf-Hellriegel-Verlagより写真集『MODERN PENTATHLON』を出版。 2011年3月11日の東日本大震災を機に、故郷・佐賀へ居を移す。同年秋から13年夏にかけて、『アドニスの森 Men Behind the Scenes』 第2章 アジア篇を中国・少林寺にて撮影。2014年11月、写真集『美少年論 Men Behind the Scenes』を佐賀新聞社より出版、同月、銀座ヴァニラ画廊にて、同テーマの個展を開催。

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