朝ドラ『カムカムエヴリバディ』第22週「2001-2003」
第106回〈3月31日(木)放送 作:藤本有紀、演出:深川貴志〉
※本文にネタバレを含みます
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いよいよ打順がまわってくる人たち
第105回のひなた(川栄李奈)と五十嵐(本郷奏多)の別れを現す言葉は虚無蔵(松重豊)の「解せぬ」がふさわしかった。作者は何もかも織り込み済みで、虚無蔵に別の場面で「解せぬ」と言わせたのではないだろうか。【レビュー一覧】朝ドラ『カムカムエヴリバディ』のあらすじ・感想(レビュー)を毎話更新(第1回〜106回掲載中)
物語には解せないことがあったほうが後々まで引きずって印象に残る。
幼少時に『カムカム』のひなたと五十嵐を見た人もきっとそんな学びを得るに違いない。でもそれは10年前の別れエピソードで十分だったけれど。などとグチグチ思っている間にドラマは進み、SG時代劇『サムライベースボール』の製作がちゃくちゃくと進んでいる。モモケン(尾上菊之助)やすみれ(安達祐実)も出演、そして虚無蔵も。
映画の内容は王道ではなく怪しい路線な気がするが(主題歌みたいなのもあった)、記者会見でフラッシュが焚かれているとき(ちなみに、榊原<平埜生成>が殊勝な顔で太鼓を叩いている姿が印象に残った)
モモケンが「まぶしいでしょう、暗闇にいたんじゃ見えないものがあるんですよ」と虚無蔵にささやく。それを見ながら轟監督(土平ドンペイ)は大泣きしている。畑野(三谷昌登)ももらい泣き。
轟役の土平さんは、すみれが『破天荒将軍』に出たとき、黍之丞シリーズの伝説回を思い出す場面でおセンチな芝居をし過ぎて、そこまでしなくていいと演出の橋爪紳一朗さんに止められたと筆者のインタビューで語っていたが、今回は思う存分、おセンチ(?)な芝居ができたのではないだろうか。ここを生かすためにも前回は抑えめで良かったのかもしれない。
人生は、いや、物語には順番というものがあって、登場人物にはいつか見せ場という名の打順が回ってくるものだ。雉真が、コスチュームの足袋をつくることになって、勇(目黒祐樹)は「いよいよ打順がまわってきたぞ」とむせび泣く。おじさんたちは涙もろい。
勇の「足袋は雉真の一番バッターじゃからのう」という台詞は『カムカム』のなかで名セリフのひとつ。「このような形でひ孫の役に立つとは」「作り続けてよかった。守り続けてよかった」と喜びに浸る勇。虚無蔵も勇もいつ来るかもわからない打順に備えて鍛錬を続けていたのだ。陽の目の当たらない、冴えない人生を送ってきた人たちがなんだかんだで報われる物語なのである。
彼らの出番にスポットライトを当てるように、万感の思いをこめてトランペットが鳴る。それはトミー(早乙女太一)が岡山の「ディッパーマウスブルース」で演奏しているものだった。
錠一郎(オダギリジョー)にも打順がまわってくる。
それにしても錠一郎、ひなたにお茶を入れてもらわないとトミーとるい(深津絵里)がふたりきりになれないとはいえ、やっぱり楽器の演奏以外、なんにもしてないみたいだ。
(木俣冬)
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番組情報
連続テレビ小説『カムカムエヴリバディ』
2021年11月1日(月)~<毎週月曜~土曜>
●総合 午前8時00分~8時15分
●BSプレミアム・BS4K 午前7時30分~7時45分
●総合 午後0時45分~1時00分(再放送)
※土曜は一週間の振り返り
<毎週月曜~金曜>
●BSプレミアム・BS4K 午後11時00分~11時15分(再放送)
<毎週土曜>
●BSプレミアム・BS4K 午前9時45分~11時00分(再放送)
※(月)~(金)を一挙放送
<毎週日曜>
●総合 午前11時00分~11時15分
●BS4K 午前8時45分~9時00分
※土曜の再放送
制作統括:堀之内礼二郎 櫻井賢
作:藤本有紀
プロデューサー:葛西勇也 橋本果奈 齋藤明日香
演出:安達もじり 橋爪紳一朗 深川貴志 松岡一史
音楽:金子隆博
主演:上白石萌音 深津絵里 川栄李奈
語り:城田優
主題歌:AI「アルデバラン」
木俣冬
取材、インタビュー、評論を中心に活動。ノベライズも手がける。主な著書『みんなの朝ドラ』『ケイゾク、SPEC、カイドク』『挑戦者たち トップアクターズルポルタージュ』、構成した本『蜷川幸雄 身体的物語論』『庵野秀明のフタリシバイ』、インタビュー担当した『斎藤工 写真集JORNEY』など。ヤフーニュース個人オーサー。
@kamitonami