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研究紹介 > トピックス > プレスリリース > プレスリリース 2019年 > 人が餌をあたえるネコが希少種を捕食する ― 人の生活圏で暮らすネコが自然環境に与える影響を解明 ―

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プレスリリース

2019年11月19日

国立研究開発法人森林研究・整備機構 森林総合研究所

人が餌をあたえるネコが希少種を捕食する ― 人の生活圏で暮らすネコが自然環境に与える影響を解明 ―

ポイント

  • 徳之島の森林域で捕獲されたネコの糞を分析したところ、アマミノクロウサギなどの希少種を捕食していることが分かりました。
  • 一方、これらのネコの体毛の分析から、普段は主にキャットフードを食べている個体もいることが分かりました。
  • 人が餌やりをする放し飼いネコ、飼い主のいないネコが森林に入り込み、希少種を捕食していることを示しました

概要

国立研究開発法人森林研究・整備機構森林総合研究所は、京都大学、(株)奄美自然環境研究センターと共同で、人が餌やりをするネコが、希少種を捕食している実態を明らかにしました。
本研究では、国の特別天然記念物であるアマミノクロウサギなどの希少種が生息し、世界自然遺産の推薦地にもなっている徳之島において、ネコの糞の内容物分析および体毛の安定同位体比分析によって、ネコが何を食べているのかを調べました。
森林域で捕獲されたネコの糞を分析した結果、その2割のネコが、捕獲前の数日間にアマミノクロウサギなどの希少種を捕食していました。ところが、体毛の安定同位体比分析から、これらのネコの中に普段はキャットフードを食べている個体がいることがわかりました。この結果は、普段は人の生活圏に暮らす、放し飼いネコや飼い主のいないネコが森林に入り込み、希少種を捕食していることを示しています。
ネコの適正飼養は、ネコの福祉や人獣共通感染症の観点から必要性が訴えられてきましたが、希少種を守るためにもその徹底が必要です。
本研究成果は、2019年11月7日に、国際学術誌「Scientific Reports」でオンライン公開されました。

背景

ネコは伴侶動物として最も身近な存在であると同時に、世界各地で在来種の減少や絶滅を引き起こす侵略的外来種としても知られ、IUCN(国際自然保護連合)の世界のワースト外来種100に掲載されています。日本でも、ネコによる在来種の捕食が各地で報告され始めており、環境リスクとしての社会的認識が高まりつつあります。
外来種としてのネコには大きな特徴があります。それは、通常の外来種とは異なり、人の生活圏で暮らす個体が自然環境に入り込む点です。これにより、在来種への影響が通常の外来種よりも強く生じることが懸念されてきました。しかしながら、ネコが在来種におよぼす影響に、人がどう関わっているのかを評価した研究は、これまでほとんどありませんでした。

内容

本研究は、ネコが在来種におよぼす影響に、人がどう関わっているのかを調べるために、世界自然遺産の推薦地の一部である鹿児島県徳之島において行いました。この島には国の特別天然記念物であるアマミノクロウサギや、天然記念物であるケナガネズミ、トクノシマトゲネズミなどが生息しており、これらの希少種に対するネコの捕食が大きな問題となっています(写真)。徳之島の特徴は、希少種の生息する環境と人の生活圏が隣接していることで、人家のすぐ裏山でアマミノクロウサギが目撃されることがあるような地域です。
本研究では、捕獲されたネコから糞と体毛を採取し、糞の内容物分析および体毛の安定同位体比分析*1によって、その食性を調べました。糞の内容物分析では、捕獲される前の数日間に何を食べたかが、体毛の安定同位体比分析では、そのネコが数ヶ月の間に主に何を食べていたかがわかります。
糞の内容物分析の結果、森林域で捕獲されたネコの約2割が捕獲前の数日間に絶滅危惧種に指定されている希少種を捕食していました。捕食された希少種は、アマミノクロウサギ、ケナガネズミ、トクノシマトゲネズミ、アカヒゲ、アマミハナサキガエル、ジネズミ類の6種でした。一方、これらのネコの体毛の安定同位体比分析の結果からは、体の組成の約7割がキャットフード由来であることが分かりました。つまり、普段はキャットフードを主に食べているネコが森に入り込み、絶滅危惧種を捕食していたのです。これらのネコは、普段は人の生活圏にいる放し飼いネコや飼い主のいないネコだと考えられます。また、これとは逆に、人家周辺で捕獲されたネコの体毛の安定同位体比分析から、これらのネコの一部は過去、数ヶ月の間に、森林に生息する動物を食べていたことが分かりました。これは人家周辺のネコが、実際に人の生活圏と森林を行き来していることを示しています。

 

(a)
(a)アマミノクロウサギを捕獲したネコの写真

(b)
(b)ケナガネズミを捕獲したネコの写真

 写真 徳之島において撮影された、 (a)アマミノクロウサギを捕獲したネコ(沖縄奄美自然環境事務所提供)、(b)ケナガネズミを捕獲したネコ(亘・風戸撮影)。

 

ネコへの餌やりが希少種へ与える影響のイメージ図
図 本研究で明らかになった、ネコへの餌やりが希少種へ与える影響のイメージ。人が餌を与えるネコが森林に入り込み、希少種を捕食している。

今後の展開

本研究により、普段は人の生活圏で暮らすネコの一部が森林に入り込み、希少種を捕食していることがわかりました。放し飼いネコや飼い主のいないネコについては、これまでネコの感染症や交通事故といったネコの福祉の問題、人獣共通感染症などの公衆衛生の問題として取り上げられることが多かったのですが、今後は自然環境に対するリスクとしてもとらえる必要があります。今回の結果から、ネコによる希少種の捕食を減らすには以下の点が重要だといえます。

  • 自然環境と隣接している地域では、ネコは屋外に出ると侵略的外来種になりうることを認識する必要があります。
  • 希少種を保全するためには、自然環境におけるネコの捕獲と、人の生活圏におけるネコの適正管理を一体化して進めることが不可欠です。
  • ネコの放し飼い、飼い主のいないネコへの餌やりは、周辺の自然環境にリスクを与えうることを認識しなければなりません。
  • ネコの適正飼養の徹底、特に室内飼養の制度化が望まれます。

本研究は、ネコによる希少種捕食に人が関わっていることの科学的エビデンスを示しており、ネコの適正飼養の議論において広く活用されることが期待されます。

論文

タイトル:Predation on endangered species by human-subsidized domestic cats on Tokunoshima Island
著者:Tamao Maeda, Rumiko Nakashita, Kazumi Shionosaki, Fumio Yamada, and Yuya Watari
掲載誌:Scientific Reports、9巻16200(2019年11月)
DOI :https://doi.org/10.1038/s41598-019-52472-3
研究費:(独)環境再生保全機構の環境研究総合推進費(4-1804)、2017年度住友財団環境研究助成(173216)

共同研究機関

京都大学、(株)奄美自然環境研究センター

用語解説

*1 安定同位体比分析
自然生態系における物質の流れを調べる分析手法のひとつ。生物のからだは餌から摂取した元素からできていることから、元素の組成を調べることで、動物の食性を解明することができる。本研究では、炭素と窒素の安定同位体比を分析した。近年、牛肉やコメ等の食品の産地判別にも使われている。

 

お問い合わせ

研究推進責任者:
森林総合研究所 研究ディレクター 尾崎研一

研究担当者:
森林総合研究所 野生動物研究領域 鳥獣生態研究室 亘 悠哉(わたり ゆうや)

広報担当者:
森林総合研究所 広報普及科広報係
Tel: 029-829-8372 E-mail:kouho@ffpri.affrc.go.jp


 

 

 

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