アメリカでトランプ政権がスタートする中、日本の食糧・サイバー・軍事の安全保障について国や政治家の示すべきビジョンは何か。「BSフジLIVE プライムニュース」では高市早苗前経済安保相と先﨑彰容氏を迎え徹底議論した。

危機感を強調した上で不安に応えるトランプ大統領

竹俣紅キャスター:
米トランプ大統領が1月20日に就任演説を行った。「不法移民対策として南部国境に『国家非常事態』を宣言、悲惨な侵略を撃退するため軍隊を派遣する」「『国家エネルギー非常事態』を宣言、戦略的備蓄を満たしアメリカのエネルギーを世界に輸出する」などアメリカ第一主義を強く打ち出した。

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高市早苗 前経済安保相:
アメリカファーストを批判する方もいるが、私も当然ジャパンファーストで考えている。自国・国民の利益を最大化するのは当然。またWHO(世界保健機関)、パリ協定といった国際的な枠組みからの脱退の話もあった。地球温暖化対策は重要だとした上で別の枠組みを作ると。WHOについてもコロナ対策などで不満があるのだろう。

反町理キャスター:
理解できると? 

高市早苗 前経済安保相:
というか、私も一度離脱して入り直せるならそうしたいものはある。例えばWTO(世界貿易機関)のGATS(サービスの貿易に関する一般協定)。多くの国が行っている土地取引の留保を外務省がしないまま入ってしまった。日本の土地は買い放題。日本人は例えば中国の土地を買えない。国際法は国内法より上位に位置するから制限をかける国内法を作れない。締結し直しも加盟国が賛同しなければダメ。離脱して条件を付け入り直した方が早いと考えたことはある。私にその権限はないが。

先﨑彰容 日本大学教授:
トランプ大統領の演説から感じるのは、かなりの危機感と閉塞感がアメリカに漂っていると強烈に打ち出しながら、しかし力強い言葉でそこから解放されるのだと強烈な物語を作り熱狂を呼んでいること。アメリカは必ずしも完璧な国ではなく危機感があるのだという感覚に火をつけた。女性の社会進出が進む中、自分の将来像に不安を抱く若い男性にも刺さったと言われる。不安を持つ人々の心を掴んできた。

高市早苗 前経済安保相:
1980年代に米ワシントンD.C.に住んでいた頃、アファーマティブ・アクションが話題になった。黒人の方や女性の方は大学入学時や就職時に有利となる枠があり、飲み会になるとその優遇への沸々とした怒りを言い出す白人男性が多かった。その頃と似た状況をうまく分析されたのでは。

先﨑彰容 日本大学教授:
多数派が少数派を差別している場合に多様性が重要になるが、これ自体が金科玉条となり行き過ぎているのがアメリカ社会で、多数派が自分は蔑ろにされていると感じている。日本ではとりわけ世代間の差として感じられている。例えば私は就職氷河期世代と言われる。当時は全く就職先がなかった。前の世代は恵まれており年金などでも逃げ切れるだろうが、我々の世代からはうまくいかないという雰囲気がある。一方、今の教え子たちの就職は売り手市場。違いが顕在化しやすい社会になってしまっている。

食料・エネルギー自給率から国防まで日本は課題山積

竹俣紅キャスター:
世界情勢の変化により日本の弱点が改めて露呈された。2023年度の食料自給率はカロリーベースで38%、エネルギー自給率も15.2%といずれもG7の中で最低の水準。危機感は。

高市早苗 前経済安保相:
むちゃくちゃ持っている。日本は海洋国家で貿易量の99.5%が海上輸送。周辺有事でシーレーンが使えなくなれば危機的。農業・漁業には気候変動の影響もある。肥料の調達も問題。だがいくつか手はあり、一つは今ある田畑のフル活用。コストをしっかり算出し必要なときには支援をする。今年の国会で議論されると思う。二つ目は日本の植物工場。世界一と言われるモジュール型・完全閉鎖型で人工光を用いるものがある。被災地から宇宙ステーションまで持ち運びができ、生産性も従来の5倍と言われる。ただ初期投資にコストがかかるので国からの補助率を上げる必要がある。他国に貢献でき日本が儲かる話。またイカ、ブリなどの陸上養殖にも世界一と言われる技術がある。ここへの投資がとても大事。

反町理キャスター:
エネルギーは。

高市早苗 前経済安保相:
将来的に100%を目指すことは食料より簡単。ただ国産資源の開発には少し時間がかかる。すると日本が非常に強い光電融合技術などを用いた省エネ型のデータセンターを展開することも必要。また原子力発電所も次世代革新炉への置き換えを進めていくこと。そして日本企業はフュージョンエネルギーの分野で肝になる技術を持っている。ビジネス面での展開も大切。

先﨑彰容 日本大学教授:
これは高市先生に同意する点が非常に多い。危機管理が実は成長分野として国力を強くすると同時に市場を新しく生み、そこへの投資が経済成長に結びつく。しかも従来のような規制緩和で自由度を高めるより、どちらかといえば国が旗を立て場合によっては補助する形で新しい成長を生み出したいという。

竹俣紅キャスター:
高市さんは前回の自民党総裁選で「宇宙・サイバー・電磁波領域、無人機・極超音速兵器、自律型AI兵器といった新たな戦争の様態にも対応できる国防体制を構築する」と言及。

高市早苗 前経済安保相:
その通りにできればかなり前進するが、どれも不十分。情報収集衛星を増やす対応は2025年度に大きく進むと思う。だがサイバー・電磁波領域はまだまだ。無人機はむちゃくちゃ弱い。現状では大量のドローンによるスウォーム攻撃を受ければひとたまりもない。策源地攻撃にも大変弱く、自衛隊の基地はできるだけ地下に入れて電磁波対策をなど防御しなければいけない。

反町理キャスター:
トランプ政権が発足し、さらなる防衛費の増額が必要となるとも考えられる。

先﨑彰容 日本大学教授:
私は増額にはあまり賛成ではない。軍拡だという前時代的な理由ではなく、例えば河野太郎防衛相のとき、イージス・アショア(迎撃ミサイルシステム)が突然配備停止された。今一番大事なのはミサイルを多く持ち安心感を増すことではなく、例えば撃墜したミサイルの残骸が落ち極めて残念ながら100人の方が亡くなった、しかしそれによりミサイルが着弾せず100万人の命が助かったという場合に、その100人を犠牲にできるという政治的決断。この態度を示すことが何より抑止になると思っている。もし一定の犠牲が出たとき、今の日本に精神面における継戦能力があるのか。まず政治家が胆力を見せることが重要。防衛費を上げミサイルを買おうと議論するのはいいが、自衛隊にお任せの状態になり国民が考えることをさらに放棄しかねない。

闇バイト対策「仮装身分捜査」に加え「架空名義口座」活用は

竹俣紅キャスター:
国民の安心・安全に関わる脅威として、ここ最近闇バイトが問題視されている。高市さんが会長を務める自民党の治安・テロ・サイバー犯罪対策調査会は闇バイト対策強化に関する緊急提言を石破総理に申し入れた。仮装身分捜査など新たな捜査手法の確立、SNSなどの提供事業者に対する本人確認の厳格化などの具体策が盛り込まれた。

高市早苗 前経済安保相:
数日で政府の方針として決定していただきありがたかった。ポイントは仮装身分捜査が可能だと明確に打ち出したこと。元々違法ではないが、犯行グループから運転免許証を求められた時に架空のものを提示することが公文書偽造罪にあたるかもしれない。それは明らかに刑法35条の正当業務行為だと政府の中で合意した。二つめは職業安定法を徹底的に守ること。今も求人をする場合は必要事項を明示しなければいけないが、これを徹底する。これが発表されてから闇バイトによる新たな強盗殺傷事件の発生が止まった。SNS型の詐欺は止まっておらず分けての対策が必要だが。

反町理キャスター:
なるほど。

高市早苗 前経済安保相:
また私の個人的な考えだが、仮装身分捜査と同様に警察が管理する架空名義口座を泳がせる手もある。すると口座から金を引き出す人、つまりかなり首謀者に近い上の方の人の検挙に結びつく。法的根拠、新法の必要性含めて打ち出したい。

竹俣紅キャスター:
石破総理は年頭記者会見で「楽しい日本」を目指すと言及。一方、高市さんはホームページで「日本列島を、強く豊かに。」をキーワードとして掲げている。日本国民に共感されるか。

先﨑彰容 日本大学教授:
「楽しい日本」よりは他に出た「地方創生2.0」などのほうが刺さるのでは。僕がよく挙げるのはかつての「田園都市構想」やその前の「所得倍増計画」という時代の感覚をつかんだ言葉。今回の国民民主党の「手取りを増やす」もその意味で人の心をつかんだ。岸田総理のときは「新しい資本主義」で、総裁選はもとよりその後の選挙での他の党との議論がその言葉を使って進んだ。そうすればもう勝ち。旗幟鮮明にしたところにみんなが寄ってきていいとか悪いとか言うときに言葉は力を発揮する。その点で評価するのがよい。

高市早苗 前経済安保相:
私が言いたかったのは「日本を」ではなく「日本列島を」。日本全国の隅々まで活発な経済活動が行き渡り、安全に生活でき、質の高い教育や必要な福祉・医療を受けられるという思い。「強く豊かに」は今日も話題に出た食料やエネルギーなどの安全保障、そして徹底的に災害から命を守る国土強靭化。世界をリードしている日本の技術も相当ある。日本はまだ豊かになれると思っている。強く豊かな日本を残すことは次世代へのプレゼントになる。今お金をかけても絶対損はしない。
(「BSフジLIVEプライムニュース」1月22日放送)