老後2000万円問題をきっかけに公的年金に不安を感じている方が多いと思います。
「公的年金制度は今後も継続できるのか?」「破たんのリスクはないのか?」と心配になっている方も多いでしょう。
結論から申し上げると、公的年金が破たんする確率は低いでしょう。
その理由は破綻しないように下記のような対策が打たれているから。
- 保険料を上げる
- 給付額を減らす(抑制する)
- 支給開始年齢を引き上げる
- 公的年金の加入者を増やす
今回は下記の本から公的年金が破たんしないための対策について確認したいと思います。
『年金だけでも暮らせます』
公的年金の破たんリスクは低い?破たんリスクが低い理由とは?
本書では、公的年金には破たんしないための様々テクニックがあると指摘されています。
具体的なテクニックは下記の通り。
- 保険料を上げる
- 給付額を減らす(抑制する)
- 支給開始年齢を引き上げる
- 公的年金の加入者を増やす
次項以降で、それぞれの施策を確認してみたいと思います。
1.保険料を上げる
厚生年金は2004年10月から2017年まで保険料を毎年0.354%ずつ引き上げ、13.934%(被保険者分6.967%)から18.3%(被保険者分9.45%)に引き上げられています。
年収500万円の方なら年間12万円の負担増。
保険料引き上げ前と引上げ後で年収が変わらない方でも、手取りの収入は大きく減っています。
国民年金に関しては、2005年4月から2017年まで毎年280円ずつ(2017年度は240円)値上げし、月13,000円の保険料が16,900円へ引き上げ。
年間43,200円の負担増となっています。
2.給付額を減らす(抑制する)
公的年金の給付額の抑制については、2つのテクニックが導入されています。
マクロ経済スライドの導入
1つがマクロ経済スライドの導入。
マクロ経済スライドとは、2004年から導入された制度で現役世代の減少や平均寿命の延びに合わせて年金の給付水準を調整する仕組み。
物価が上がれば、公的年金の受取額も上がるという形で公的年金は物価にスライドします。
しかし、マクロ経済スライドは物価や現役世代の賃金が上がっても年金から「スライド調整率」を差し引き、物価や賃金が上昇するほど年金額を増やさないようにするという制度です。
少子高齢化に応じて年金水準を抑えるように調整し、公的年金制度を安定的に運営していく仕組みがマクロ経済スライド。
マクロ経済スライドについては、以下の動画で分かりやすく解説されているので、ご覧ください。
年金カット法案(年金制度改革関連法案)の成立
2つ目が賃金が下がったら年金も下がるという、いわゆる「年金カット法案」(年金制度改革関連法案)の成立。
これは年金を賃金変動と物価変動の低い方に合わせるというもの。
物価が上がっても賃金が下がれば、下がった賃金に合わせて年金が下げられるという法案です。
実際、2021年度の公的年金は物価変動率が0%、賃金変動率が-0.1%となったことにより、0.1%の引き下げとなっています。
「年金カット法案」などと呼ばれていますが、これはある意味当たり前の話。
公的年金は現役世代の保険料で、年金受給者の年金を賄う世代間扶養の制度。
世代間扶養という仕組み上、保険料を負担する現役世代の賃金が下がれば、年金を減らさざるを得ないといえるでしょう。
3.支給開始年齢を引き上げる
1956年以前は、厚生年金の支給開始年齢は男性55歳、女性55歳。
まず、男性だけ1957年から16年かけて、1973年には60歳まで引き上げされました。
続いて1985年の改正で女性も60歳に引き上げられ、1994年の改正では男性、女性とも支給開始年齢が65歳となりました。
現在は「70歳支給開始」との話題も出始めています。
年金の繰り下げ受給については、現在の70歳から75歳まで繰り下げられるようになる予定。
これは、支給開始年齢を70歳まで引き上げるための布石ではないかとの話もあります。
4.公的年金の加入者を増やす
以前までは、パートでなどで働いていても年収が130万円に満たなければ、会社員や公務員の被扶養配偶者である第3号被保険者として厚生年金や健康保険に加入する必要がありませんでした。
しかし、2016年10月以降は従業員が501人以上の企業に勤めるパートは、月収が88,000円を超え、1年以上勤めるのであれば、厚生年金と健康保険に加入し、保険料を支払らわなくてはならなくなりました。
また、2022年10月からは従業員が100人超の企業でも、労使が合意すればこの制度が適用されています。
更に、従業員が101人以上というハードルが完全になくなり働く期間に関係なく、労働時間が週20時間以上で月収が88,000円以上などの条件は緩和されていく流れ。
今まで、年金保険料を支払っていなかった第3号被保険者の方達が、第2号被保険者として年金保険料を支払い、年金の支え手となるようになります。
上記のように年金が破たんしないようにするための施策が実施されています。
しかし、今後も年金制度を維持するために現役世代はかなり割を食うことに。
現在の現役世代は保険料の負担は増え、受け取れる年金は減る時代が到来していると考えるべきでしょう。
マスコミ報道によるイメージに注意
マスコミは「公的年金は危ない」など、反響が大きくなるように報道します。
その影響で、公的年金は破綻のリスクが非常に高いと思っている方が多いように思います。
しかし、年金積立金の運用を事例に考えても、事実をしっかりと理解している方は少ないでしょう。
年金積立金の運用については、短期間の運用実績が悪い時期を切り取って報道されることが多いため、マイナスイメージを持たれている方が多いのは間違いありません。
しかし、長期間の運用実績を確認すれば、下記のように好調な状態です。
【年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)による運用実績】
- 2022年度第1四半期末現在の運用資産額は193兆126億円
- 市場運用を始めた2001年度からの累積収益額は101兆6,787億円
マスコミの偏った報道に影響されて、「公的年金の保険料を支払うのはムダ」というような誤った判断をしないように注意が必要。
公的年金は老後生活の柱であることは間違いありません。
モデル世帯で、老後に2000万円が不足すると炎上しましたが、夫婦で老齢基礎年金(満額78万円)を65歳から25年間受け取ったとしたら3,900万円。
老後に2000万足りないことで炎上したのに、国民年金を受け取れなければ、更に不足額が増えてしまします。
老後資金は公的年金だけでは足りない!?
本書の題名は「年金だけで暮らせる」となっていますが、老後資金は公的年金だけでは足りません。
本書の公的年金だけで暮らせるとは、普段の生活をダウンサイジングして、受け取れる公的年金だけで生活できるようにするという意味で、老後資金という意味では公的年金だけでは足りません。
その根拠は、医療費用と介護費用。
介護費用は夫婦で1,100万円、医療費用は夫婦で200万円~300万円。余裕を勘案すると、夫婦合わせて1,500万円の蓄えは最低限必要としています。
著者は、資産運用に関しては完全否定し、貯蓄に励みなさいと指摘。
しかし、インフレを考慮すれば、資産運用をしておいた方がいいのは間違いありません。
今後は終身雇用という慣習がなくなり、退職金を受け取れない方も増える可能性もあるので、若い時からムダを省き、資産運用を行っておいた方がいいでしょう。
まとめ
老後2000万円問題をきっかけに、公的年金の破たんリスクを心配している方は少ないないでしょう。
しかし、公的年金の破たんリスクは低いといえます。
その理由は、下記のような施策が行われているから。
- 保険料を上げる
- 給付額を減らす(抑制する)
- 支給開始年齢を引き上げる
- 公的年金の加入者を増やす
上記の通り、公的年金の破たんリスクは低いですが、今後、公的年金の受取額は抑制され支給開始年齢が引き上げられていくことは間違いないでしょう。
よって、少しでも早く「ほったらかし投資」などの方法で老後に備えることが肝要です。