病気やケガによる通院・歯科治療・介護・妊娠・出産にかかった費用は、確定申告で「医療費控除」の対象になります。医療費控除は年末調整で控除することができないため、会社員も別途、確定申告を行う必要があります。
また、医療費控除の適用条件を満たせない場合であっても、市販薬の購入費用について控除を受けられるセルフメディケーション税制を利用できることもあります。
2017年以降、確定申告時の領収添付は不要になりましたが、医療費の明細書を作成する際に必要なので、申告期まで領収書を保管しておきましょう。
本記事では、医療費控除の適用要件や必要書類について、明細書の書き方や計算方法、簡単な確定申告書の作成方法などを解説しています。
目次
- 医療費控除とは
- 医療費控除の適用要件
- 医療費控除の対象
- 医療費控除の対象期間
- 医療費控除を申請する流れ
- 1.医療費の通知や領収書で医療費控除の対象になるか確認する
- 2.医療費控除の金額を計算する
- 3.確定申告書と医療費控除の明細書を作成する
- 4.確定申告書と医療費控除の明細書を税務署に提出する
- 5.医療費控除で戻ってくる還付金を確認する
- 医療費控除の計算のやり方
- 医療費控除の確定申告のために必要な書類
- 1. 医療費控除の明細書
- 2. 確定申告書
- 3. 医療通知書
- 4. 本人確認書類
- セルフメディケーション税制の適用を受ける場合に必要な書類
- 医療費控除の明細書と確定申告書の書き方
- 医療費控除の明細書の書き方
- 確定申告書の書き方
- 生命保険料などは別の控除として申告する
- まとめ
- 確定申告を簡単に終わらせる方法
- よくある質問
- 医療控除の対象者は?
- 医療費控除の対象期間は?
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医療費控除とは
医療費控除とは、1年間にかかった医療費が10万円(総所得金額等が200万円未満の人は総所得金額等の5%)を超えた場合に受けられる所得控除制度のひとつです。
医療費控除の対象になる場合は、確定申告することで還付金を受け取ることができます。
医療費控除は自身が医療機関を受診した場合だけでなく、扶養家族(離れて暮らしていても)の医療費等についても計算に含めることができます。
なお、治療費だけでなく、通院交通費(付き添いも含む)や医療費控除の対象となる薬代も含まれます。
【関連記事】
医療費控除とは?対象となる費用や申請方法について解説
医療費控除の適用要件
医療費控除の適用要件は以下のとおりです。
医療費控除の適用要件
- 納税者本人または納税者と生計を一にする配偶者やその他の親族のために支払った医療費であること
- その年の1月1日から12月31日の間に支払われたものであること(未払いの医療費は実際に支払った年の控除対象となります。)
- その年にかかった医療費が10万円(総所得金額等が200万円未満の人は総所得金額等の5%)を超えること
医療費控除の対象
控除できる医療費は、その病状に対して一般的に発生する費用の水準を著しく超えない部分とされています。
実際に医療費控除の対象になるものとならない費用の具体例は以下のとおりです。
医療費控除の対象になるもの |
・病院での診療費や治療費 ・入院費用(部屋代や食事代など) ・医師の処方箋で購入した医薬品の費用 ・治療に必要な松葉杖などの購入費用 ・通院に必要な交通費 ・あん摩マッサージ指圧師や柔道整復師、はり・きゅう師によるリハビリ、マッサージ費用 ・介護保険の対象となる介護費用 |
医療費控除の対象にならないもの |
・入院時に個室を希望した際の差額ベッド代 ・入院時のテレビ・冷蔵庫などの借用料 ・予防接種や健康診断の費用 ・眼鏡やコンタクトレンズの購入費用 ・自家用車で通院した際の駐車場代やガソリン代 ・健康増進目的のサプリメントの購入費用 |
インプラント治療の費用に関しては、別記事「インプラント治療の費用は医療費控除の対象?いくら還付されるのかも解説」をご確認ください。
出典:国税庁「No.1122 医療費控除の対象となる医療費」
医療費控除の対象期間
医療費控除の対象期間は、その年の1月1日から12月31日までです。適用を受ける年の12月31日時点で未払いの医療費は、翌年の医療費となります。
年末調整をしている会社員など、確定申告の義務がない人は、医療費を支払った年の翌年1月1日から5年以内であれば還付申告ができます。
出典:国税庁「No.1122 医療費控除の対象となる医療費」
医療費控除を申請する流れ
医療費控除の申請手続きは、大きく5つのステップに分かれています。ここでは、各ステップ毎に説明します。
1.医療費の通知や領収書で医療費控除の対象になるか確認する
医療費控除は、基本的に1年間にかかった医療費の合計が10万円以上または総所得金額の5%のいずれか低い金額が条件となっており、生計を一にする家族全体の医療費がこの金額を上回っているか確認する必要があります。
ほとんどの健康保険組合から「医療費通知」や「医療費のお知らせ」などの書類が送られてくるので、自分の医療費の金額を確認することできます。
この医療費通知に記載されている金額以外に、病院への通院交通費(主に公共交通機関を利用)など、ほかの費用についても控除を申請できる場合があります。これらの費用の合計額が10万円または総所得金額の5%のいずれか低い金額であれば、医療費控除の対象となります。
2.医療費控除の金額を計算する
医療費控除の対象になることがわかったら、次に控除額と還付額を計算します。
医療費控除の計算方法の流れ
- 年間で支払った医療費を計算
- 高額療養費制度の払い戻し分や保険会社から支払われた保険金の額を計算
- 支払った医療費から差し引く
保険金などを差し引いた金額から10万円を差し引いても支払った医療費に余りがある場合は、医療費控除の対象となります。
詳しい計算方法については、後述「医療費控除の計算のやり方」で解説します。
3.確定申告書と医療費控除の明細書を作成する
税務署の窓口や国税庁のホームページから「確定申告書」や「医療費控除の明細書」を入手し、作成します。
必要書類と各書類の書き方については、「医療費控除の確定申告のために必要な書類」「医療費控除の明細書と確定申告書の書き方」で後述しています。
4.確定申告書と医療費控除の明細書を税務署に提出する
3.で作成した「確定申告書」と「医療費控除の明細書」を税務署に提出します。
確定申告は、通常の確定申告期間(2月16日〜3月15日)に行います。
ただし、新型コロナウイルス感染症の影響で、期限までに申告・納付等することができないと認められるやむを得ない理由がある場合には、所轄税務署長に「災害による申告、納付等の期限延長申請書」を申請し、その承認を受けることにより、その理由がやんだ日から2ヶ月以内の範囲で個別指定による期限延長が認められることになります。
出典:国税庁「申告・納付等の期限の個別延長関係」
5.医療費控除で戻ってくる還付金を確認する
還付金は申請から約1ヶ月〜1ヶ月半後に、指定した銀行口座に振り込まれるか、最寄りのゆうちょ銀行・郵便局で受け取ることができます。
医療費控除の計算のやり方
医療費控除の計算方法を流れに沿ってご説明します。
実際に計算を始める前に、領収証がすべて揃っているかを確認します。
医療費控除の計算には領収書が必要になるため、医療費控除の対象となる領収書はしっかり保管しておきましょう。領収書は健康保険組合の医療費通知の書類に記載されているものを利用し、その他の交通費を加算したものでも構いません。
医療費控除の計算方法
(A)年間で支払った医療費を計算
(B)高額療養費制度の払い戻し分や保険会社から支払われた保険金の額を計算
(C)支払った医療費から差し引く
基本的に医療費控除は、10万円がベースです。
(C-F)保険金などを差し引いた金額から10万円を引いても支払った医療費が余る場合は、医療費控除の対象(G)となります。
(A)支払った医療費(合計) |
---|
(B)保険金などで補填される金額 |
(C)差引金額(A-B)(赤字のときは0円) |
(D)総所得金額(確定申告書A第一表の「所得金額」の合計欄+退職所得金額) |
(E)D×0.05(赤字のときは0円) |
(F)Eと10万円のいずれか少ないほうの金額 |
(G)医療費控除額(C-F)(最高200万円、赤字のときは0円) |
出典:国税庁「所得から差し引かれる金額(所得控除)を計算する|確定申告に関する手引き等」
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医療費控除の確定申告のために必要な書類
医療費控除に必要な書類は以下の4つです。
医療費控除の確定申告のための必要書類
- 医療費控除の明細書
- 確定申告書
- 医療通知書
- 本人確認書類
1. 医療費控除の明細書
医療費控除の明細書は税務署または国税庁「医療費控除の明細書【内訳書】」のページからダウンロードできます。
2017年の確定申告から医療費の領収書を添付する必要はなくなりましたが、5年間保存する必要があります。
領収書については、発行が難しい公共交通機関を利用した通院の場合は、支払いごとに領収書を受け取るほか、日付・金額・目的・人数などをメモして残しておくと、それが領収書の代わりとなります。
出典:国税庁「平成29年分の確定申告においてご留意いただきたい事項(平成30年1月)」
2. 確定申告書
2023年提出分(2022年分)からの確定申告は確定申告書Aが廃止され、確定申告書Bに統合された「令和 年分の所得税及び復興特別所得税の申告書」を使用します。
なお、2021年以前の確定申告は、従来の確定申告書Aと確定申告書Bの書式で問題ありません。
出典:国税庁「令和 年分の所得税及び復興特別所得税の申告書」
3. 医療通知書
医療通知書とは、自身が加入している健康保険組合から送られてくる書類のことです。医療費控除のために提出する場合は、以下の内容が記載されている必要があります。
医療費控除に必要な記載事項
- 健康保険の加入者などの氏名
- 療養を受けた年月
- 療養を受けた人の名前
- 療養を受けた場所(病院、診療所、薬局など)の名前
- 健康保険加入者が支払った医療費の額
- 健康保険組合等の名称
なお、医療保険者等から交付を受けた医療費通知を添付することによって、明細書の記入を省略することが可能です。
令和4年1月1日以後に令和3年分以後の確定申告書をe-Taxにて送信する場合は「医療費通知に記載されている事項を、医療費控除の明細書に入力して送信することにより、医療費通知の添付に代えることができます。
出典:国税庁「医療費控除を受けられる方へ」
4. 本人確認書類
確定申告書を提出する際には、本人確認書類としてマイナンバーカードが必要です。
マイナンバーカードがない場合は、マイナンバー(個人番号)が記載された「通知カード」か「住民票の写しまたは住民票記載事項証明書」のどちらかと、以下の身分証明書のうちいずれかが必要です。
記載したマイナンバーの所有者が本人であることを確認する書類
- 運転免許証
- 公的医療保険の被保険者証
- パスポート
- 身体障害者手帳
- 在留カード
- お持ちの方は、税務署から送付される「確定申告のお知らせ」はがき
なお、確定申告書をインターネット(e-Tax)で送信する場合は不要です。
出典:国税庁「医療費控除が変わります!!!」
セルフメディケーション税制の適用を受ける場合に必要な書類
2017年から始まった「セルフメディケーション税制」は、健康増進のために一定の取り組みを行っている人が年額1万2000円以上の医療品を購入した場合に受けられる所得控除です。
セルフメディケーション税制では、ドラッグストアなどで市販されている医薬品の購入費用を医療費控除の対象に含めることができます。
ただし、通常の医療費控除の適用を受ける場合は、セルフメディケーション税制を受けることはできません。
2017年分以降にセルフメディケーション税制による医療費控除の特例の適用を受ける場合は、医療費控除の明細書の代わりにセルフメディケーション税制の明細書を使用します。
必要な書類は以下のとおりです。
セルフメディケーション税制の適用を受ける場合に必要な書類
- セルフメディケーション税制の明細書
- セルフメディケーション税制を適用し計算した確定申告書
出典:国税庁「医療費控除の明細書【内訳書】」
セルフメディケーション税制の適用を受ける場合、一般用医薬品購入費の領収書の添付または提示は必要ありませんが、以下の書類を5年間保存する必要があります。
5年間の保管が必要な書類
- 適用を受ける年分において一定の取組を行ったことを明らかにする書類
- 特定一般用医薬品等の領収書
「適用を受ける年分において一定の取組を行ったことを明らかにする書類」とは、氏名・取組を行った年・事業を行った保険者、事業者若しくは市区町村の名称又は取組にかかる診察を行った医療機関の名称若しくは医師の氏名の記載があるものに限ります。
具体的な例として、以下の書類が挙げられます。
- インフルエンザの予防接種又は定期予防接種(高齢者の肺炎球菌感染症等)の領収書又は予防接種済証
- 市区町村のがん検診の領収書又は結果通知表
- 職場で受けた定期健康診断の結果通知表
- 特定健康診査の領収書又は結果通知表
- 人間ドックやがん検診をはじめとする各種健診(検診)の領収書又は結果通知表
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医療費控除の明細書と確定申告書の書き方
医療費控除を申告する場合は、医療費控除の明細書や確定申告書の所定の場所に医療費を記載する必要があります。その記載方法について説明します。
医療費控除の明細書の書き方
医療費控除の明細書は以下のように記載していきます。
1.医療費通知に関する事項
それぞれの記載内容は以下のとおりです。
(1)自身が負担した医療費の合計額を記入します。通知が複数ある場合は全ての合計額
(2)(1)のうち、その年に実際に支払った医療費の合計額
(3)生命保険契約、損害保険契約または健康保険契約等の規定に基づき受け取った保険金や給付金(入院費給付金、出産育児一時金、高額療養費など)がある場合に記入
2.医療費(1以外)の明細
その年に自身または生計を一にする配偶者、その他親族のために支払った医療費について、領収書から必要事項を記入する項目です。
領収書ごとではなく、「医療を受けた人」「病院等」ごとにまとめて記入できます。
3.控除額の計算
上記で算出した合計額を元に控除額を計算します。
複数の医療機関を受診しており、計算が複雑な場合は、国税庁の医療費集計フォームなどを利用して計算を行うとスムーズに計算できます。
出典:あきる野市「医療費控除の明細書の書き方について」
確定申告書の書き方
確定申告書は第一表と第二表があります。医療費控除に関しては、第一表に以下のように記入します。
㉗欄に「医療費控除の明細書」で計算した金額を転記します。「区分」の□は、記入しなくて問題ありません。
確定申告書の書き方を詳しく知りたい方は、別記事「【2023年最新】確定申告書の書き方を記入項目別にわかりやすく解説」をあわせてご確認ください。
出典:国税庁「所得から差し引かれる金額(所得控除)を計算する」
生命保険料などは別の控除として申告する
医療費控除では保険金は差し引かれると解説しましたが、支払った保険料については、生命保険料控除として申請することができます。
確定申告を行う際、医療費と同じ所得控除の欄に該当します。生命保険料控除を受けたい場合は、保険会社の控除証明書が必要となりますので、必ず手元に用意しておきましょう。
【関連記事】
確定申告と生命保険の関係とは?生命保険料控除の基礎知識
まとめ
確定申告を行う義務のある個人事業主だけではなく、会社員であっても一定額以上の医療費を支出していれば医療費控除によって節税したり還付を受けたりすることが可能です。
セルフメディケーション税制を利用する際は、医薬品を購入した際の領収書が必要になります。すぐ破棄してしまうことがないよう注意しましょう。
確定申告をするためには、医療費控除の明細書などの必要書類を準備する必要がありますので、本記事を参考に、しっかりと準備しましょう。
確定申告を簡単に終わらせる方法
確定申告には青色申告と白色申告の2種類があります。どちらを選択するにしても、期限までに正確な内容の書類を作成し申告しなければいけません。
確定申告書を作成する方法は手書きのほかにも、国税庁の「確定申告等作成コーナー」を利用するなどさまざまですが、会計知識がないと記入内容に悩む場面も出てくるでしょう。
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よくある質問
医療控除の対象者は?
医療費控除の対象者には自身と、生計を一にする配偶者や親族が該当します。また、子どもや収入のない家族、別居をしている家族の医療費を支払った場合でも医療費控除の対象になります。
詳しくは記事内「医療費控除の対象」で解説しています。
医療費控除の対象期間は?
医療費控除の対象期間は、その年の1月1日から12月31日までです。適用を受ける年の12月31日時点で未払いの医療費は、翌年の医療費となるため注意が必要です。
詳しくは記事内「医療費控除の対象期間」で解説しています。