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なぜバッテリーには寿命があるのか

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  • author 福田ミホ
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なぜバッテリーには寿命があるのか

ほぼ全てのガジェットに、時限爆弾のように埋めこまれた物体があります。使い始めて2年後、または3、4年後...その物体が死亡すると、ガジェットが使えなくなってしまいます。その物体とは...そう、バッテリーです。

バッテリーに寿命があることは、ガジェット好きには織り込み済みの事実です。ソフトウェアの動作が重くなったり、携帯電話がいつの間にか傷だらけになったりするのと同じように、バッテリーは少しずつ死んでいくのです。でも、これって誰の、または何のせいなのでしょうか? もちろん、バッテリーのメーカーにも多少の責任があります。でも、実はユーザーである私たちにも、責任の一端があるのです。

どういうことなんでしょうか?

・充電式バッテリーの仕組み

ガジェットの充電式バッテリーと言えば、ほとんどの場合リチウムイオンバッテリーか、それに類するものを意味します。

リチウムイオンバッテリーの仕組みはこうです。リチウム金属酸化物でできた正の電極(陽極)と、炭素材でできた負の電極(陰極)がつながっています。バッテリーを充電するには、イオンすなわち電気を帯びた原子を、リチウムの陰極から炭素の陽極へ送り込みます。そのイオンを解放することによって、より厳密に言えばイオンがリチウムの陰極に戻る際に発生する電流によって、ノートPCとか携帯電話の電力が得られるというわけです。

本質的に、充電・放電の仕組みは化学反応です。イオンが陰極と陽極の間でやりとりされるということは、それぞれの電極で化学反応が起きているということです。

リチウムイオンバッテリー以外のバッテリーも同様の原則に基づいているのですが、リチウムイオンバッテリーはガジェットでの利用に向いているのです。リチウムイオンバッテリーは、軽く、コンパクトで、充電容量が大きく、そしていちばん大事なのは、何百回も繰り返し充電できるということです。だから、相対的にはリチウムイオンバッテリーの寿命は長いのです。ただ、不死身ではないということです。

・なぜ死んでしまうのか

バッテリーは、工場を出たその瞬間から死に向かい始め、その死は不可避かつ不可逆です。リチウムイオンバッテリーにおいては、定常的に利用(または乱用)した場合、もし容量の3分の1以上が使えなくなることを「死」と定義するなら、「寿命」は2年以下です。

バッテリーは化学反応を利用していることを考えると、劣化するのにも多少納得がいくのではないでしょうか。化学反応はつねに、完ぺきではありえないのです。エネルギーロスが発生したり、望まない結果になったり、要らない物質ができたりします。バッテリーにおける化学反応も同様ということです。

「バッテリーが老化するにつれて、イオンの流れを減少させる障害物が生成され、最終的には使えなくなってしまうのです。」と言うのは、バッテリー分析ツールメーカー、Cadexの社長イシドール・ブックマン氏です。「電極に付着物ができ、イオンの流れを妨げるようになるのです。」それで、パフォーマンスが徐々に悪化していくのです。

ブックマン氏が言っているのは、主に陰極(リチウム部分)の劣化です。それはゆっくりと、しかし確実に起こっていく化学変化です。電極でイオンの足し引きが継続的に行われると、リチウム素材の構造が徐々に変化し、イオンを受け取りにくくなっていくのです。何百回も使っては洗濯されたぞうきんみたいなもので、分子レベルでぼろぼろになってしまうのです。

バッテリー内部での継続的・恒常的な化学反応によって、陰極と、少量ながら陽極でも、溶解金属が生成されます。最終的には、それぞれの電極がこの金属で覆われてしまうのです。

さらに、バッテリー内の電解液も劣化しやすいのです。それは陰極で酸化し、錆びのようなものを生成してイオンの通り道をブロックしてしまいます。この現象がいわゆる腐食です。

このように、電極は使い古され、電解液は腐敗し、場合によっては表面まで腐食されて、バッテリーは死亡してしまいます。内も外もぼろぼろになって死んでいくなんて、バッテリーがかわいそうになってきました。

ブックマン氏によれば、これが現在のバッテリー技術の限界だそうですが、悪い面ばかりでもありません。「消費者はコストを抑えたいので、バッテリーは安価でなくてはなりません。また、稼働時間は長くなくてはいけません。携帯電話やノートPCでは、稼働時間が重要です。」

つまり、現在のバッテリーの姿は、我々のニーズが生み出したものなのです。「ユーザーは、余分な金は払いたがらないし、大きなバッテリーを持ち歩くのも嫌がるし、それでいて稼動時間は要求しているのです。」つまり、安くて小さくて稼働時間の長いバッテリーを作るために、そのトレードオフとして、2、3年で使えなくなるバッテリーができた、というわけです。

そのうえ、ガジェットの製品寿命も、ある意味人工的に短くなっています。携帯電話は、契約の縛りも影響して、2年ごとに買い換えられます。ノートPCのスペックも、2、3年も経つと時代遅れになってしまいます。

たとえばiPodにしても、2年前に買ったものだってまだまだ使えるはずですが、つい新しいものが欲しいと思ってしまいますよね。最初のユニボディのMacBookだっていまだに使えるんですが、13インチのMacBook Airに惹かれてしまいますね。そんなわけで、バッテリー寿命は長いに越したことはないのですが、コストや稼働時間に比べれば優先順位が低いのです。

・バッテリー長持ちのためのTIPS

バッテリーを長持ちさせるためには自助努力が必要ですが、幸い、できることはいろいろあります。まず、リチウムイオンバッテリーは高温下で劣化しやすいので、ガジェットを換気の良い状態に置くことが非常に大事です。たとえば、クッションの上でノートPCを使わないとか、ノートPCの下に小さく折った紙をかませて換気を良くする、といった簡単なことです。

また、充電式バッテリーは満充電の状態で放置されるとより劣化しやすいです。なので、つねに電源を差しっぱなしにするのではなく、ときどきプラグを抜いてあげると良いです。携帯電話のバッテリーは、電源の抜き差しがあるので、ノートPCより長持ちするのです。

Battery Universityのこの記事では、熱や充電残量とバッテリー寿命の相関について詳しく解説されています。下のチャートがそのまとめになっており、それぞれの条件下でバッテリーを保管した場合に、バッテリー容量が何パーセント生き残っているかが表されています。温度が高いほど、また充電残量が多いほど、バッテリー容量の減少が激しい、つまり劣化しやすいのがわかります。

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・今後寿命は延びるのか

結局、時間が全て解決してくれる、かもしれません。ブックマン氏によると、新技術が開発されつつあるということです。「ほとんどの研究は陰極に関するものです。陽極に関してはずっと炭素製品で作られてきましたが、シリコンを加えてエネルギー密度を高めようとする試みもあります。」簡単に言い換えれば、バッテリーメーカーが電池の改良に向けていろいろな素材を試しているということのようです。

電気自動車関連の技術開発も、バッテリー研究の起爆剤となっています。アップルやデルと違い、自動車企業は数年で使い物にならなくなるような製品は販売できません。そのため、パワフルで大容量で長寿命のバッテリーを作り出すべく、膨大な時間と資金がつぎ込まれています。

さらに、ブックマン氏がバッテリー寿命を短くしている根本原因としていたのは消費者のニーズでした。こちらも、時代とともに変わってくるかもしれません。携帯電話の2年縛り契約がもっと長くなるとか、なくなるとか、ガジェットのスペック競争が沈静化するとかすれば、買い換えサイクルが長くなり、バッテリー寿命へのニーズも今より高まると考えられます。そうなれば、現在自動車産業が必死で長寿バッテリーを開発しているように、ガジェット企業もバッテリー開発に力を入れるようになるかもしれません。

そんな開発の成果が出てくるには、時間がかかりそうです。それまでは、せめて現在のバッテリーが多少でも長生きできるように、大事に使ってあげたいですね。

John Herrman(原文/miho)

※ご指摘ありがとうございます、記事修正しました。