スマートウォッチ黎明期のいま、時計の本分って一体何なんだろう。
そう考えたときにひとつの究極とも言えるデザインにたどり着きます。それが「MONDAINE(モンディーン)」の時計です。かくいう自分もそのデザインに魅了され、Classicシリーズの腕時計、そしてWall Clockの2つを持っています。
MONDAINEのプロダクトは、1940年代にスイス国鉄が採用した「スイス レイルウェイ ステーションクロック」が基になっています。このデザインは今でもスイス国鉄の駅3,000箇所以上で目にすることができるんだとか。
そして、アップルがiOS 6向けにリリースした時計アプリのデザインが「スイス レイルウェイ ステーションクロック」と酷似していることが判明し、後に和解しライセンス契約を結んだことを覚えている方も多いかもしれません。
ある意味ではエヴァーグリーンなデザインといっても過言ではないこのMONDAINEの時計の魅力を、お二方と一緒にあらためて紐解いてみたいと思います。
お話を伺ったのは、グラフィックデザイナー・メディアクリエイターとして活躍するハイロックさん、そして、WATCH POLITiCS新宿東急ハンズ店のショップマスター、大矢直輝さん。
アパレルブランド「A BATHING APE」のグラフィックデザインを経て現在メディアクリエイターとして活躍し、兄弟メディア「roomie」のキュレーターや情報サイト「Fresh News Delivery」の管理人としても知られるハイロックさんWATCH POLITiCS新宿東急ハンズ店のショップマスター、大矢直輝さんMONDAINEの歴史
まずはMONDAINEの歴史から。
MONDAINEは1951年、エルヴィン・ベルンハイムによって設立。一方、「スイス レイルウェイ ステーションクロック」は1944年、スイス国鉄のエンジニアであり、同時に優れたデザイナーでもあったハンス・ヒルフィカーにより開発されました。MONDAINEは1986年からスイス国鉄と独占契約を結び、「スイス国鉄オフィシャル鉄道ウォッチ」の販売を開始しています。
文字盤に書かれた「SBB CFF FFS」の文字は、スイスの公用語であるドイツ語、フランス語、イタリア語で「スイス連邦鉄道」を略したもの。スイス連邦鉄道のオフィシャル製品であることの証です。
大矢さんは「スイス国民は全員が知っているようなデザイン。あって当たり前という感じで生活しているはずです」と語ります。
ハイロックさんは「アップルとの事件で知ったんです。ギズの記事も読んで、今回この対談のためによく調べてみて、そうしているうちに(このデザインに)やられちゃいましたね。なんで知らなかったのか不思議なくらい」とのこと。
そして最大の特徴であるデザインについて。
線と円しか使っていない究極のかたち。国鉄駅で使われる時計という「公共物」だからこそ、ユニバーサルデザインという言葉が生まれる前からそれを実践してきたのかもしれません。ハイロックさんは「普通のデザインにはない『公平性』がある。公共物でないもののデザインにはなにか『雑念』が入ってくるもの。誰々のデザインで売りたいとか、このデザインじゃ売れないからこうしているとか。もともと国鉄のため、見やすさのため、みんなが時刻を見るために作られているものだから、そういう雑念がデザインに感じられない。そこがすごく好感を持てる」とのこと。
大矢さんも「あらゆるデザインの時計があるなかで、際立ってこの時計はシンプルなのに存在感があるんですよね。ショーウインドウ越しでいろんなブランドの時計を見ていても、パッと目に入ってくるデザインだと思います」と語ります。
ファッションのグラフィックデザインをしてきたハイロックさんは時計の文字盤も何度か手がけたことがあるそう。「ほぼあらゆるデザインが出きっている現在、数字の書体を変えるとか、ベーシックなデザインから『外す』道しかのこされていない。そこに来てMONDAINEはベーシックなデザインの中でも究極なんです。線と円しか使っていない究極にシンプルな組み合わせなのに個性を出している。これを見ちゃうと時計のデザインを頼まれたら断るしかないなという感じです」
この究極シンプルなデザインは、もちろん高い公共性を兼ね備えるため。ただし、ハイロックさんからすると、鉄道駅に置くというデザイン上の制約がいい方に転んだ結果なのかもしれないとのこと。「どこか、かわいいんです。質実剛健で野太いデザインなんだけど、かわいい。これはなかなか狙ってできないデザインです。自分のデザイン感で行くと、誤解を恐れずに言えば、ちょっとデザインが太すぎる。自分がデザインしたらもう少し繊細につくっちゃうと思います。このぼってりした感じがいい方に転んで、かわいくなっているんです」
唯一無二の機構をも再現した「stop2go」
「スイス レイルウェイ ステーションクロック」を生み出したハンス・ヒルフィカーは、「stop2go」という独自機構を開発し、これに搭載していました。それは、クォーツ時計や電波時計のない時代に駅の時計すべてが同じ時刻を示して、列車のより正確な運行を実現するため、秒針が約58秒で1周して12時の位置で約2秒停止した後にまず分針が1分進み、次いで秒針が動き始めるというもの。2秒間の停止中に信号を受信することで、駅構内の時計がまったく同じ時を刻めるという、通常の時計の概念とはまったく異なる機構でした。
MONDAINEの「stop2go」は、それを腕時計上で再現したモデル。
「スイス国鉄の時間へのシビアさを体現している機構だと思います。このギミックを腕時計で再現するためには4年以上の歳月がかかったと聞いています。普通の時計の歯車の組み合わせでは実現できないですから」とは大矢さんの談。
ハイロックさんも「『stop2go』はテキストで見ただけではどんな動きをするのか、よくわからなかったんですよね。Web上で動画を探しましたよ」と、この機構に興味津々。
確かにこの機構は世界で唯一無二のもの。「stop2go」はこの機構を備えるだけでなく、新たにデザインされたステンレススチール製ケース(マット仕上げ)、無反射コーティングを施したサファイアクリスタル風防、3気圧の防水性、そして固有の製造番号が裏蓋に刻印されるなど、フラッグシップとしてMONDAINEの技術の粋を集めたモデルになっています。
そのためか、実物を見に来るお客さんも多いそう。大矢さんは「『stop2go』は絶対的な生産数がまだ少ない状態。去年はごく一部の店舗だけでの取り扱いだったんですが、いまでも店舗間で取り合いになっています(笑)」と語ります。
「Wall Clock」はハイロックさんの自宅の壁掛け第一号になりそう
ハイロックさんは「壁掛け時計として見たときに、腕時計と同じかそれ以上にこのデザインは引き立ってくる」と考えているそう。実はいままで自分の部屋に合う壁掛け時計が思いつかなくて置いていなかったというハイロックさん。しかし、MONDAINEの「Wall Clock」を見て、購入を決心したとのこと。
「何のお世辞でもなく、自分の家に置く壁掛け時計の第一号になると思っているんです。自分のインテリアや家具の好みからするとミッド・センチュリー・モダンなものでは渋すぎるし、デジタルウォッチみたいなものでは味気ないと思っていた。そんなときにこれに出逢った。木のサイドボードなどが置いてある空間(リビング)に、アルミ削りだしの質感が入ってくるとかっこよくなるだろうな想像がついているんです」
デザイン・素材感からしてもしっくり来たんだとか。スイス国鉄の鉄道駅のように、天井から吊るしたいと考えているそうですよ。
使い回ししやすい、カスタマイズするのもあり
時計の使い分けについても聞いてみました。大矢さんは腕時計専門店のショップマスターということもあってさぞ悩まれているのではと思うのですが…
大矢さん「職業柄ということを抜きにしても腕時計が好きなので20〜30くらい持っています。でも、数は持っていてもローテーションで使うものはそんなに多くないですね。そんななかMONDAINEはわりと使っている方です。週一回は着けているかな。時間を見るっていう行為自体を別の見方で表現してくれるデザインなのかなと思います。時間を見るというよりも『MONDAINEの時計を見る』という感じ。万能にどんなファッションにでも合ってくれるので、急いでいる時もこれを着けておけば間違いないと思います」
僕は腕時計を3本しか持っていないんです。ひとつは高度や気圧が測れるアウトドア仕様のもの、もうひとつはお祝いでもらった機械式時計、そして最後がMONDAINE。このなかでもっとも汎用性が高いのがMONDAINEだと思っていたので、なんだか少しうれしい気分です。
ハイロックさんも「腕時計は10数本持っているけど、今日はこの対談だからこれだな、今日はこの取材だからこれだな、今日は1日家にいるからこれだなっていう感じで選んでます。時計とサングラスが並べてあるスペースがあって、出かける前にチョイスしている」とのこと。
大矢さんは「MONDAINEは、そのひとの個性の方に転がっていってくれるデザインなんですよね。僕も今日しているんですが、革ベルトではなく布ベルトにしてもいいんですよ」とご自身の時計を見せてくれました。
これはまたまったく別の印象を与えますね。でも違和感はない…どうしてだろう。
大矢さん「このままでも完成しているデザインなんですけど、新たに自分のスパイスを加える感覚でカスタマイズするのもありだと思います。良さを残しつつまったく違うアプローチをしても許してくれる懐の深さがある。ここが強みです。カスタマイズって難しいと思われがちですが、MONDAINEはそのひとのやりたい表情に変わってくれる時計ですね」
ちなみに、ベルトのカスタマイズはWATCH POLITiCSのほか、系列のTiC TACグループのお店でもおこなっているそうですよ。ハイロックさんも「ミリタリーテイストのベルトも合いそう。でも一番合うのは黒地に赤が差し色になったものかな」とさっそく想像をふくらませていました。
スマートウォッチの波が来てるけど
スマートウォッチは、いままさに爆発的に普及が始まりそうな時期を迎えています。そうしたなか、従来の腕時計ってどうなっていくんでしょうか。極論を言えば時計を身につけなくてもよくなってきている時代です。スマホで時間が見られる、パソコンのモニターにいつでも映っているし、たいていのお店に時計があります。ハイロックさんはこう語ります。
「スマートウォッチは時間を知らせる以外の機能を担うために生まれたもの。地図を示したり、そこでメールが読めたりとか。そういうものが腕を占拠しはじめている。逆に、今までの時計がどうあるべきかというと、ファッションとして着ける以外にないというのが結論。だから本当に優れたデザインのものしか生き残らない時代になってくる。そこにきて、MONDAINEのこのベーシックで質実剛健なデザインというのは、僕にとっては着ける価値がある好ましいものだと思っているんです。」
生き残る価値のあるデザイン、ということ。
さらにハイロックさんは続けます。「テクノロジーがすべてじゃないし、便利なことがすべてじゃない、アナログの面倒臭さが心地いいときもある。クルマで言っても、オートマチック車がすべてになるわけではなく、ミッション車に乗りたい人もいるわけですから。そこの部分の遊びを忘れてしまったら、人間が生きていく上で楽しみがなくなってしまうと思うんです」
どんなひとにオススメ?
WATCH POLITiCSでは実際にどんな方が買ってくんでしょう。
大矢さん「実際に購入される方の年齢はかなり幅広いですね。今月で言っても、受験を控えた高校生、ご年配の方がいらっしゃいました。女性でも小さい文字盤のメッシュベルトのものを買って行かれた方がいましたね。時計はデザインによって購入層がある程度決まっているものもあるんですが、MONDAINEは幅広いです」
さらに、プレゼントとしても最適とのこと。
「このデザインを見て嫌いというひとはいないんじゃないかというくらい完成されているので、プレゼントにもきっと喜ばれると思います。ユニセックスなデザインなので、カップルだったらペアで使って欲しいですね」
「語りたくなるデザイン」
最後におふたりが共通して語っていたのが、MONDAINEは「語りたくなるデザイン」であるということ。
大矢さん「スイスの国鉄で使われているということ自体が説得力がありますよね。私達も時計を売るというだけでなく、ファンになってほしいという思いがあるので、こういう背景を持った製品というのはとても説明のしがいがあります」
ハイロックさん「買おうと思った理由は、まずはデザイン。僕は、ものを選ぶ第一の基準は絶対にデザインなんです。身につけるものであればなおさら。腕時計は自分に最も近いものだからその思いはより強いんです。そして、MONDAINEはデザインの背景にスイス国鉄の話やアップルの話があり、(『stop2go』には)語りたくなるギミックがある。それで申し分ない。それが揃っていれば『完全に買います』ってことなんです」
人に話せるものって楽しい、それで人とつながれるってことありますもんね。
「今はものを持たない時代になってきているけど、いいデザインのもの、優れたデザインのものは人とつながれる。それがもののひとつの価値。それが自分がものを紹介する仕事をしている理由のひとつかな」とハイロックさん。
まずはデザインで一目惚れして、それを語れる背景がある。そういう魅力がMONDAINEのプロダクトには詰まっているんです。
この冬のホリデーシーズンに向けて、MONDAINEのプロダクト購入者にはグッズがプレゼントされるキャンペーンも実施されるそうですから、まずは店頭に見に行ってみるのをおすすめします。
source: MONDAINE
(松葉信彦)