これ、アップルカー、アップルカーと騒がれてる例のバンです。
正確には「アップルの車Titan(タイタン)を開発するための実験車両」、「自動運転の機械を取り付けたような見た目」と噂のバン。近ごろ米国のあちこちで目撃されています。
でも分布を見ると、自走車の公道運転が違法のNYCとかハワイでも目撃されちゃってるんで、センサの形状から考えても、やっぱりただの3Dマッピング専用車なんじゃないかって言われ始めてますけどね。
ともあれ、このバン目撃情報とWSJ報道のダブルパンチでアップルカーの話題一色ですねー。
なぜ今アップルカー? ちょいと不思議な気もしますが、先日テスラのイーロン・マスクCEOがアップルから150人以上引き抜いて余裕シャクシャクなところを見せていましたよね? あれには続きがあって、11日の決算報告でイーロン・マスクは「今の成長率でいけば10年でテスラはアップルの時価総額に追いつく」とまで豪語し、アップルにジャブをかましたのでありますよ。ええ、そうです。アップルが10日の終値で時価総額米史上初の7000億ドル(約84兆円)超えを果たし、この世の春を謳歌していたまさにそのタイミングでビシャッと冷水を浴びせたのです。
たぶんそれで「テスラ潰しにアップルも動いてる」っていう怪情報が堰を切ったように流れてきたんではないかと。まあ、ただの偶然かもしれませんが、偶然にしては出来過ぎたタイミングという気がしますよ~。
さて、実際のところアップルはどこまで車の開発に本気なのか? 気になるのはそっちですよね。これについては元アップル重役ジャン=ルイ・ガセー(NeXTジョブズと一騎打ちしたお方)がブログに書いてる話が一番現実的かと思いました。
後半だけどうぞ。
アップルカーくる!と言ってる人たちが挙げる理由まず金。アップルには金が余るほどある。自動車工場なんて余裕で建てられる。自動車は数十億ドルもあれば間に合う。マイクロプロセッサ組み立て製造部門だと100億ドル近く必要だが。アップルは大型機械にも慣れてる。AsymcoのHorace Dediuさんのチャート(下)を見ればわかるように、iPhone最新版リリース前の四半期には機械設備に40億ドル(4770億円)もの金を投じた。前四半期には、前年比60%増の32億ドル(約3800億円)使っている。機械設備への投資急騰は大型製品ローンチの予兆なのだ。
Giddy up. pic.twitter.com/8Vpw6hdyT5
— Horace Dediu (@asymco) February 8, 2015
アップルの機械設備投資。2015年第四4半期にドカンとなんか大きいのがくるアップルも全部ゼロからつくるのは大変だから、参入するなら買収でだろう。テスラを買収してしまえば助走も要らない。テスラの時価総額は260億ドル(約3兆円)だから十分お釣りがくる。今のモデルSはいろんな意味でシリコンバレーが生んだ初の車だ。近くのフリーモントで製造し、モダンなタッチUI、自動運転機能、クラウドのソフトウェアアップデートを実現した。
アップルカーとなれば、間違いなく多くのドライバーの手に届かない高級品になるが、アップルには上から既存業界を破壊してきた実績があるしね。MP3プレイヤー市場もスマホ市場も高級品を提供し、ソフトウェア、コンテンツ、サービス、小売のエコシステムを緻密に構築し、満足のいく体験をユーザーに提供することで、そこから高いマージンを回収して占拠していった。車も技術が成熟すれば、ムーアの法則で価格は下がっていくさ―。
現実にはどうか?
確かにアップルには金は唸るほどある。だが、100年の歴史のある自動車産業に参入したところで、たいした儲けにはならないだろう。
フォードは米自動車メーカーでは一番経営状況がいい会社だが、それでも前四半期の純利益は8億3500万ドル(約996億円)で、売上高340億ドル(約4兆円)の4%にも満たない。対するアップルは利益が史上最高180億ドル(2兆1463億円)だ。因みにみんながライバルライバルと騒いでるテスラは売上高10億ドル(1192億円)弱で、うち10%が赤字だった。アップルが設計・製造した優れた製品ならリターンも増えると言うんなら、その方法と理由をぜひ見せて欲しいところだが、そんなものどこにもないではないか。
しかも自動車産業にはムーアの法則は通用しない。テスラのモデルSにしたってコンピュータはほんの一部だ。価格に一番跳ね返ってくるバッテリーにしたって、「18ヶ月でパワーが倍になって価格が半分になる」(ムーアの法則)なんてことはない。
しかも車はスマホほど頻繁には買い換えない。
はっきり言ってアップルが求めるような金がクルマ業界にはないのである。自走車には法律の壁もあるし、不確定要素が多すぎる。一部の州では凝り固まった考えの自動車ディーラーがテスラの直販に反対しているというではないか。そんな頭痛の種アップルの方から願い下げだろう。
真相はもっとあっけない
去年9月にアップルが採用したベンツR&D役員のJohann Jungwirthはインフォテイメント・システム担当だったので、その流れでいくとCarPlay担当だ。あの謎のバンもおそらく地図サービス用だろう。
アップルはiOSのエコシステム強化に向け車載システムの改善を重要課題にしている。テスラから「引きぬいた」エンジニアの数が多いと騒ぐ前に、iPhone(とiPad)の前四半期売上を見てみるがいい。600億ドル(7兆1535億円)だ。それに引き換えGMは同期たったの400億ドル(4兆7690億円)だ。アップルはiOSのエコシステムにプラスになるものなら惜しまず投資するのだ。傍目には過剰なぐらいにね。
アップルカーが本当だったら最高だ。2台買うよ。
だがやっぱり夢のアップルカーは夢だろうね。
source: Monday Note
(satomi)