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月ができる時、地球がほぼ蒸発していた可能性が浮上

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  • author 福田ミホ
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月ができる時、地球がほぼ蒸発していた可能性が浮上


月の石と地球の石はほとんど同じ…ということは?

が形成される起源についてはいくつかの仮説が提唱されてきましたが、中でも「ジャイアント・インパクト説」というのが今まで有力でした。地球に火星くらいの大きさの天体テイアが斜めに衝突し、バラバラになったテイアと地球の一部がまとまって月になったのだとする考えです。

が、1970年代にアポロ計画で採取された月のサンプルを再分析したところ、その衝撃は従来の仮説よりはるかに強大で、テイアだけでなく地球もほとんどが蒸発するほどだった可能性が高まってきました。Natureに新たに発表された論文によると、テイアが地球にぶつかる衝撃は「スイカをスレッジハンマーで叩くようなもの」だったらしいのです。上の画像は、その激しさをイメージしたものです。

これまでジャイアント・インパクト説が支持されてきたのは、月の大きさや軌道上の位置についてすんなり説明できるからでした。でも21世紀に入ってからアポロ計画で採取された月の石の組成を新しい技術で再分析したところ、従来の説では説明が付かないことが出てきたんです。

「我々は今も1970年代のアポロのサンプルを使っていますが、最近進歩した技術で再分析しているところです。以前よりはるかに小さな違いを測定できるようになっているので、70年代には気づかなかった多くのことを発見しています」ワシントン大学の准教授でこの論文の主著者であるKun Wangさんは米Gizmodoに語っています。「古いモデルでは、新たな観測結果を説明できなかったのです」

40年前の仮説が正しければ、月を形成する物質の半分以上はテイアに由来するもののはずでした。でも月の石を分析すると、地球の石と非常に似通っていたのです。

月の形成時の状況を推定するためには、カリウムの同位体の分析が有効とされています。そこでWangさんたちはカリウムの同位体を従来の10倍の精度で分析できる手法を開発し、月の石と地球の石の違いを見出そうとしました。その結果、たしかに違いはあったんですが、むしろ月と地球の緊密な関係をさらに裏付けるものでした。

その違いとは、月の石にはカリウム41というカリウムの中でも重い同位体が、地球の石より0.4パーミル(パーミルは1000分の1)多く含まれていることです。その状態を作り出すには従来の仮説で考えられるよりはるかに高温が必要とされ、説明するには地球とテイアが正面から激しくぶつかり合ったと考えるのが適切というわけです。

このモデルでは、極端な高温と強い衝撃によってテイアも地球の大半も蒸発してしまいます。蒸発したものが地球の500倍サイズにまで広がった後、それが冷えて凝縮した結果が月、と考えられています。

「我々の研究結果によれば、月の形成にははるかに大きな衝撃が必要でした」とWangさんは言います。「『ジャイアント・インパクト』は、『極度のジャイアント・インパクト』と言うべきです。従来必要とされていたエネルギーでは、足元にも及ばないんです」

またWangさんはこうも語っています。「初期の太陽系について今わかっていることはすべて、隕石や月のサンプルによるもの、本当に古い石から得られるものばかりです。我々はそこから、初期の太陽系に対する理解を変化させてきました。それは、我々が思っていたよりずっと激しいものだったのです」

Wangさんたちはこれからもアポロ計画で採取された月の石の分析を続け、さらなる知見を得ようとしています。40年前に持ち帰った石は、我々にまだまだ新しい秘密を教えてくれるようです。

image by Dana Berry/SwRI

source: Nature, Space.com, Wikipedia 1, 2

Ria Misra - Gizmodo US[原文

(福田ミホ)