量子コンピュータ界は一つ大きな壁を突破しました
Google(グーグル)の親会社Alphabet(アルファベット)の株価は、量子チップWillow(ウィロー)の発表を受け、急激に5.6%も値上がりしました。Alphabetは7月以降では最高値を記録して取引を終え、なおかつ他の量子関連株も急騰するなど、今回の発表は市場にとても好意的に迎えられました。
アナリストたちは、今回の量子チップWillowが長期的に注目に値すると評価しており、Willowの登場は「量子コンピューターの商業化に向けた一歩」や「他の大手テック企業との差を拡大する可能性がある」、「多くの産業や国家安全保障に大きな影響を及ぼす可能性がある」と注目を集めています。
市場にも大きなインパクトを与えた量子チップWillowの凄さを今回はかいつまんでご紹介します。
量子コンピュータ−はエラーとの闘い
わかりやすくイメージするために、従来方式のコンピューター(今私たちが使っているスマートフォンやPC)を考えてみてください。一般的なスマートフォンの計算性能をアップさせようと思うと、搭載されたチップの計算できるビット量を増やせば、同時に計算できる量が増えるので、計算性能アップとシンプルにイメージできます。
しかし、量子ビットの世界は、計算を担う量子ビットを増やせば増やすほどエラーが発生するという量子ビット特有の課題がありました。それは量子ビットが、外の環境から影響を受けて計算結果を変えてしまうほどにデリケートだからです。例えば気温の変化(温度が熱振動として影響)、電磁的な(電場の微小な揺らぎが)影響、単純な振動、宇宙線など、さまざまな外部環境のノイズから量子ビットは影響を受けてしまいます。そんなノイズから量子ビットを守るために、量子コンピューターは巨大なシャンデリアのような設備を備えています。
その他にも量子ビット同士の相互作用やエラー訂正など、エラーの原因が複雑に絡まってしまい、単純に量子ビットを増やせば計算性能アップとはならず、研究者たちは発生したエラーを取り除く方法に頭を悩ませていました。
エラーと対峙しながら量子ビットの量を増やせないと、量子コンピューターが本格的に計算用途として利用できる未来はやってきません。 そんな困った状況に現れたのがWillowでした。
30年間の未解決問題に対する答え
暗雲が立ち込めていた状況に光明を照らしてくれた量子チップWillowは、1995年にピーター・ショアが量子エラー訂正を導入して以来、未解決だった課題「しきい値以下」を達成したことを示しており、これによって量子エラー訂正が機能していることを証明しています。
エラー訂正技術量子コンピューターが、計算を行う過程で生じたエラーを検出し、訂正するための技術です。量子エラー訂正の基本的なアイデアは、1つの量子ビットの情報を複数の量子ビットを用いて冗長化することです。これにより、単一の量子ビットがエラーを受けても、他の量子ビットから正しい情報を再構築することができます。
例えば、A、B、Cの3つの量子ビットで1つの同じ値を共有し、2つの補助的な量子ビットでエラー検知するとします。Bの量子ビットにエラーが発生したとしても、AB、BCに、それぞれリンクしている2つの補助量子ビットとの相関関係を調べることで、エラーの発生を検知して、Bを正しい値に訂正できます。これが量子エラー訂正の基本的な考え方です。
このような仕組みを発展させて冗長化した複数の量子ビットを論理量子ビットと呼びます。誤り耐性量子計算とは、量子コンピューター上での計算中に生じるエラーを訂正しながら論理量子ビットを実現させて、その論理量子ビットを用いて正確な計算を続けることができる量子計算のことをいいます。
ーFUJITSUより引用
驚異的な計算速度。だけどまだ万能ではない
量子チップWillowは、世界最速のスーパーコンピューターでも10セプティリオン(10の25乗)年かかる計算を、5分未満で解決したそうです。
ただし、これはスーパーコンピューターが苦手にしていた(時間がかかっていた)領域の問題を量子コンピュータに出題したとき、非常に早く計算できたという成果なので、「じゃあすべての計算を量子コンピュータに任せればいいじゃないか! 」ということには残念ながら今のところなりません。今の段階では、多くの場合は従来方式のコンピューターに計算してもらった方が、量子コンピューターよりも早く結果を出してくれます。まだまだ万能ではなく、適材適所というところでしょうか。
今回発表された量子チップWillowは105量子ビットを搭載しており、本格的な量子コンピューターにはこの100倍以上の量子ビットが必要とされています。
今回の成果によって、量子ビットの量を増やしてもエラーを抑えた計算結果が取得できることが示されたので、量子ビットの拡大に向けた研究がさらに前進することが見込めそうです。どこまでボリュームを増やせるのか、どんな領域に活用できるかなど、この能力をどこに応用すると良いのかは人類にとって未知の領域。これからさらにホットな分野になりそうです。
Source: Google, Yahoo finance, NIKKEI, FUJITSU, YouTube(1,2)