東大病院の目指す方向
「東大病院の目指す方向2023~2024年度版」の作成にあたって
東大病院は「臨床医学の発展と医療人の育成に努め、個々の患者に最適な医療を提供する」ことを理念とし、その実現のために「患者の意思を尊重する医療の実践」、「安全な医療の提供」、「先端的医療の開発」、「優れた医療人の育成」という目標を掲げています。この理念と目標を達成し、東大病院が社会から求められている日本の医学・医療の拠点としての機能を果たすために、2年毎に「東大病院の目指す方向」と題するアクションプランを立ててきました。この計画は必ず実行する行動計画として、中間評価、最終評価という PDCA サイクルを回して自己点検を行っているものです。
新しい行動計画は、1. 診療、2. 研究、3. 教育・研修、4. 人事・労務、5. 運営の5つの分野について、担当副院長を中心にプランを作成し、さらに執行部でも議論を重ね、「東大病院の目指す方向 2023 ~2024年度版」として策定致しました。いずれも今後東大病院が大学病院としてのミッションを果たし、さらなる発展を目指すために重要な内容となっていますので、皆様には是非ご一読いただければと思います。
今回の目指す方向で特に重視しているのは、「組織の風通しを良くし、全ての職員が互いを尊重し、協力して働きやすい職場環境を構築する」という点です。診療面においては、高度急性期病院として大学病院の使命でもある移植医療やがんの集学的治療・ゲノム医療等、高度で先端的な医療を提供し、世界における東大病院のプレゼンスを高めると同時に、地域の基幹病院として救急医療体制を充実させ、地域医療機関との連携体制のさらなる強化を目指します。組織の風通しを良くすることは、東大病院の医療の安全と質の向上にもつながります。研究面においては、臨床研究中核病院、がんゲノム医療中核拠点病院や橋渡し研究拠点にふさわしい臨床研究を推進し、医療イノベーションの創出を実現します。教育面においては、将来の東大病院を支える高度な医療人材を育成すべく、多彩な教育プログラムによる支援体制を確立し、個々の能力と意欲を発揮できる教育・研修環境を整備します。運営面では、病院重要業績指標(KPI)の設定とその達成に向けた取組やコスト削減を中心とする経営改善を推進するとともに、社会情勢に合わせた最適な病床運営を目指します。また来年にせまった医師働き方改革に対応するために、タスクシフト・タスクシェアを推進し、ICTの利活用等による労務環境の改善にも積極的に取り組みます。
これらはすべて職員の方々の協力が無くては達成できないことであり、全ての職員が能力を発揮できる職場環境の構築が重要です。東大病院のさらなる発展という共通の目標に向かって、力を合わせていければと思います。何卒よろしくお願い申し上げます。
2023年6月吉日
東京大学医学部附属病院
病院長 田中 栄
東大病院の目指す方向2023~2024年度版
1.診療
当院に求められる高度医療・先端的医療の機能をより一層高め、診療の質の向上を目指し、かつ安全に提供するために、組織及び業務を見直し、効率的な運用を行う。また、高度急性期機能を有する病床を有効かつ効率的に活用するとともに病床稼働を維持する取り組みを行う。さらに多職種が尊重し合い連携して患者に最適な医療の提供を目指すとともに、地域や海外の医療機関との役割分担、協力体制を強化し、地域医療と国際診療に貢献する。
- 高度急性期医療の提供にあたり集中治療室(ICU)など高度急性期機能を有する病床を効果的に活用できる運用体制を確立する。また、一般病棟における重症急変患者に対して迅速に対応できる体制を整備する。
- 第二・三次救急医療を必要とする患者の受入れ体制を確保し、当院における救急医療体制の更なる充実を図る。
- 多職種が相互に尊重しあうことで達成可能な高度専門的医療を総合的に実現し、ICTを活用した取り組みを進め地域医療機関との役割分担、協力体制を強化し、地域医療と国際診療に貢献する。
- 脳死臓器移植手術、ロボット支援手術を始めとする高難度手術の増加に対応できる仕組みを作ると同時に、メディカルスタッフの負担を軽減するために、手術部の運用の更なる効率化を図る。
- 多職種が互いに尊重し合いつつ連携し、医療の安全と質の更なる向上に取り組む。
2.研 究
医療イノベーションに資する臨床研究や、最適な医療が選択できるような科学的根拠を形成する臨床研究を推進する。また、他学部等との連携による新たな研究プロジェクト、トランスレーショナルリサーチ、最新のテクノロジーを取り入れた研究の推進を図る。
- 臨床研究中核病院として、医療法上の特定臨床研究(臨床研究法の規定に基づいて実施する臨床研究、医師主導治験、企業治験)等の活性化を図る。
- 基礎医学系教室、他学部、他機関や民間企業との連携による新たな研究プロジェクトの創出やトランスレーショナルリサーチの活性化を図る。
- DX(デジタルトランスフォーメーション)を推進する最新のテクノロジーを取り入れた研究の推進を図る。
- 研究活動の基礎となる研究者の安全と健康を守るため、化学物質および実験機器類の適正管理を徹底するとともに、研究室における安全管理体制の強化を図る。
3.教育・研修
多職種の連携、タスクシフト・タスクシェアの推進に資する各職種の専門性強化、教育機能拡充、教育環境整備を進めるとともに、より高度な医療人材を育成するための教育・研修プログラムの検討、実施を行う。
- 診療におけるチームワークを高め、患者や教職員にとってより安全な医療を提供するためのタスクシフト・タスクシェアを見据えた多職種連携教育・研修を行う。
- 研修医教育の強化、機能拡充、研修環境整備とともに専門医制度への対応のさらなる拡充を図り、社会からのニーズに沿った優れた医師を育成する。
- 高度な医療人材を育成するため、faculty development、 staff developmentを通じた教職員の指導力の向上を図る。
- 全教職員の個々の能力と意欲を更に発揮していくことのできる教育・研修環境の整備を強化促進する。
- 医療経営、医療データ活用、臨床研究に関わるより高度な人材を育成するための教育・研修を実施する。
4.人事・労務
医師の働き方改革に対応するため、特例水準適用に向けた取組みを継続して実施するとともに、タスクシフト・タスクシェアを推進し医療従事者の負担軽減を図る。また、勤怠管理システムの機能拡充を進め、勤務間インターバル等の健康確保措置の運用を確実にするとともに、教職員の就労環境の向上及び適切な人員配置を行う。
- 2024年4月から適用される医師の時間外労働の上限規制に向けて、特例水準(連携B水準)の指定申請への対応を行うとともに、勤務間インターバル等の円滑な実施及び時間外労働の短縮を進める。
- タスクシフト・タスクシェアの推進及びメディカルサポートセンターの組織的運営により医療従事者の勤務環境の改善及び病院運営の効率化を図る。
- 教職員の健康を確保するため、長時間労働防止のための対策等を実施するとともに、長時間労働者に対する面接指導等が確実に実施できる体制を整備する。
- 教職員の適切な人員配置並びに教職員のニーズを踏まえた両立支援制度及び院内保育体制の整備等を行い、教職員のモチベーションを高めるとともに、働きやすい職場環境を形成する。
5.運 営
個々の患者への持続的で最適な医療の提供と全ての教職員が互いに協力して働きやすい職場環境の構築を両立するとともに、社会情勢に合わせた病床運営の在り方や患者受入れ体制を検討し、経営基盤の安定化を図る。また、インフラ整備を含む再開発整備計画を推進し、法令改正等に適切に対応しながら、患者の信頼感を高める接遇や医療におけるICTの利活用等、患者療養環境の更なる構築に取り組む。
- 個々の患者に最適な医療を持続的に提供するために、全ての教職員が互いに協力して働きやすい職場環境の構築を推進する。
- 病院重要業績指標(KPI)の設定とその達成に向けた取組やコスト削減を中心に経営改善を推進するとともに、社会情勢に合わせた最適な病床運営の在り方や受入体制を検討する。
- 中長期再開発整備計画並びに将来構想の企画・立案やニーズに基づくインフラ整備を推進する。
- 法令遵守、各種制度の改正について適切に対応するとともに、院内のセキュリティ対策の見直しや、院内・院外に向けた広報活動の強化、改善を図る。
- 医療DXの推進や患者の安心感・信頼感を高める接遇等、快適な患者療養環境の構築に取り組む。