「着いたー!ここがおばあちゃんの暮らしてた霧の森なのね!」
2011年当時にアトラスをブランドとして有していたインデックスから発売されたニンテンドーDSソフト『ノーラと刻(とき)の工房 霧の森の魔女』は、『世界樹の迷宮』を手がけた小森茂雄氏、キャラクターデザインの日向悠二氏らと、『マリーのアトリエ』を生み出した吉池真一氏らが手がけた新生マイスターRPG。そのため、両作を知るファンからは「世界樹のアトリエ」などと呼ばれることもあります。
主人公のノーラは、物体に流れる時間を操作する「導刻術師(どうこくじゅつし)」の見習い少女。導刻術師には「3年間の間、異国で導刻術の修行をしながら生活せよ。ただし、現地の人々に導刻術のことを知られてはいけない」という儀礼があり、物語は、ノーラが親友兼、儀礼のお目付け役であるケケと共に故郷を離れてテンペリナの町の近くにある「霧の森」に住み始めるところから始まります。
ところが、テンペリナはかつて大きな災厄をもたらしたとされる「霧の森の魔女ヴェーラ」の伝説が語り継がれる町で、儀礼のために自らの素性を明かせないノーラは、迷信深い町長を筆頭に魔女であることを疑われてしまうのでした。
それを相談した酒場の主・ダビーに「釈明すら聞いてもらえないのは、信用がないからだ」と指摘されたノーラは、導刻術でさまざまなアイテムを作り、彼が紹介してくれるさまざまな仕事に沿ったものを納品することで少しずつ信頼を積み上げていくのでした。
なかなか踏んだり蹴ったりなひどい話だ…と感じた方もいるかもしれませんが、実際にプレイしてみるとそういうイメージはほとんど出てきません。それはノーラの明るく前向きな性格や、温かみが感じられる日向悠二氏の絵柄、そしてサウンドコンポーザーのなるけみちこさんによる牧歌的なサウンドによるところがとても大きく、ひと言でいうならこのゲームは「雰囲気がめちゃくちゃいい」のです。メルヘンチックといいますか、上質な絵本を思わせます。
アトラスの公式YouTubeチャンネル・atlustubeで公開されているOPムービーで主題歌「今あたしがつむぐ日々」を聞いてもらえれば、そんな雰囲気がよく分かるかと思います。
誰もがノーラを好きになるハートフルストーリー
ゲームが順調に進んで3年間の修行生活の終わりが見えてくる頃になると、テンペリナの町に大きなトラブルが発生。それを見かねたノーラは、敢えて町の人たちの目の前で導刻術を使います。
トラブルは無事に解決できたものの、これで儀礼は失敗…と思いきや、魔女を憎んでいた町長はノーラの優しさに心を打たれ「導刻術などというものは知らない。今目の前にいるのは、誰よりも優しい魔女なのだ」と笑顔を浮かべるのでした。
確かな信頼を築けていたノーラは一人前の導刻術師として認められ、そのまま定住して町の人たちと仲よく暮らしました…というところで物語は終わります。「魔女だと勘違いされ、その誤解を解くためにがんばる話」だったのに、最後は「魔女だと勘違いされることで窮地から救われる」という物語の転換が秀逸で、町長だけでなく筆者も心を打たれました。
もしかしたら、町長はノーラが町の人たちのために努力する姿を見るうちに彼女が魔女ではないことに気付き、彼女を助けるための方便として敢えてこう言ったのかもしれませんが、それならそれで大変ハートフルなのでOKです!
筆者は「どちらかというとストーリーよりはシステムを重視した作品だろう」というイメージ(先入観)でプレイを始めたので「ファンタジー色の強い童話」と言える物語にはいい意味で不意を突かれましたし、ほんわかと心温まる読後感でノーラやテンペリナの町の人々がとても好きになりました。
ニンテンドーDS本体もソフトもまだ所有していますが、リマスターかリメイクをしてほしい一作です。