そろそろ実際の会議の現場に入っていきましょう。ただし「では早速──」などと議論に入ってはいけません。会議をスムーズに進めるには、会議冒頭の手順が重要なのです。
前回は、会議のゴール設定とリマインドの仕方を紹介しました。
ちゃんとリマインドをしたことで、会議室には時間通り参加者全員がそろっています。ここで「では早速──」などと言って、いきなり議論を始めてはいけません。誰しも長い会議は嫌なものですよね。長い会議、終盤に迷走する会議を防ぐためには、会議の最初に時間管理をしておくことが重要です。
時間管理は、会議のファシリテイション(議事進行技術)で最も難しいものの1つです。しかし会議の最初にきちんと手順を踏むことによって劇的に改善します。その手順は以下の5つです。
会議前に、こんなにたくさんの手順を踏むのは時間の無駄だと思うかもしれません。しかし、たったこれだけのことで、会議の時間を結果的に短縮できるのです。では、1つ1つ具体的に見ていきましょう。
会議の最初に行うことは、会議のゴールを確認することです。ちゃんとゴールを読み上げて確認しましょう。万が一、この手続きを忘れて始めてしまったとしても、誰かが気づいたら必ず指摘しましょう。会議の途中で「この会議のゴールは何ですか?」なんて聞かれると、会議の進行役としては恥ずかしくて嫌かもしれませんが、しっかりとスタートラインに戻ってゴールの確認をすることが必要です。
次にしなくてはならないことは、会議の終了時刻を決めることです。使える時間が1時間なのか3時間なのかによって、どの程度まで議論を深められるかが決まります。当然、会議を設定するときには参加者の予定を押さえているはずなので、終了時刻はすでに決まっています。しかし、急用が入って途中で抜けねばならない場合や、うっかりダブルブッキングしてしまう人もいるかもしれません。参加者が会議室にいる時間とともに、会議全体の終了時刻を再度ここで確認しておきましょう。
会議はただでさえ長くなりがち。できる限り短くするべきです。12時間会議などというのは、よほどのことがない限り避けるべきでしょう。私自身も過去に何回かそのような会議の経験がありますが、議論がどうどう巡りになってしまうので、かえってアウトプットの質が悪化してしまいます。長くても、休憩を挟んで4時間になるように心がけています。
議論が始まる前に、ToDoの見直しをしてしまいましょう。会議の日までにやっておかねばならないのに、未達成のToDoがあるかもしれません。その中には、とても重要なToDoが紛れていることがあります。会議の最後のほうにそのことが発覚すると、調整する時間もなく解散になってしまいます。そのToDoは、より議論の優先順位の高い「今日話すべきToDo」だったわけです。
未達成のToDoは状況に応じて以下の処理をしてしまいます。
このToDoの見直しばかりで終わってしまう、ダメな会議もあります。ToDoの見直しが少しでも長くなりそうな気配があれば、最後の「会議のトピックに追加する」を実行してしまいましょう。後でじっくり話せばいいのです。
全ToDoの結果報告をしていると、必然的に報告会議になってしまい、時間がかかります。ToDoの確認は個別に確認者を設けて、会議外の時間でやってもらうことにしましょう。担当者と確認者の2人のチェックが入れば、かなりの精度で仕事は達成されます。
会議が始まる前に、見直しが必要なToDoだけをリスト化する準備をしておくことが必要です。会社でToDo管理ツールを導入すれば、準備をほとんどしなくても済むようになるかもしれません。ToDo管理ツールを、プロジェクタに投影しながらステータスを確認していけばとても簡単です。
2週間後に展示会があってその準備について議論しなければならないのに、うっかり別のトピックを議論してしまい次の会議で大混乱──なんてことはないでしょうか。スケジュールを確認することによって、優先順位の高いトピックを洗い出したり、時期が差し迫ったマイルストーンを意識させ、参加者の気を引き締めることができるようになります。プロジェクタで議事録ドリブン会議をしているときは、カレンダーを表示させながら確認するとよいでしょう。
会議の進行役は、今日議論するトピックをすべて列挙して読み上げ、簡単な説明をしなければなりません。会議全体で、一番危険なのはこの時にトピック漏れをすることです。
このトピック漏れを防ぐために、3)ToDoの見直しと4)スケジュールの確認を事前に行ったわけです。
次にトピックごとに適切なゴールを設定していきます。ゴールの設定レベルによって議論時間は大幅に異なるため、ゴールを設定した後に、そのトピックにかかる時間を書き出していきます。この時間は、最初は適当でかまいません。議事録ドリブン会議を繰り返していると、次第に正確な時間を予測できるようになるからです。
1つのトピックは長くても60分くらいにしましょう。緊急性がそれほど高くなければ、議論を持ち越して次の日に話したほうが簡単に解決することが多いのです。
このときに、休憩時間を予告することも重要です。2時間を越える場合は、最低でも1時間半に一回は休憩を入れましょう。議論が沸騰すると休憩が取りづらくなりますが、無理にでも休憩をいれたほうがいいでしょう。4時間も休みなく人の話を聞くことなんて、人間にはとてもできません。人間の集中力は本来1時間以上もたないので、できれば45分に一回程度ミニ休憩を入れたほうがいいかもしれません。頭をすっきりさせて戻ってくると、あっという間に結論が出るから不思議なものです。
これらの作業が終わって初めて、すべてのトピックに優先順位をつけることができます。まず、トピックの時間を全部足し合わせます。終了時刻まで120分しかないのに、全部足すと200分になってしまうなんてことがよくあります。この80分をどうするかが重要です。
このようにして、時間内に収めるように調整してから会議を始めましょう。この作業自体も議事録ドリブンで行います。ホワイトボードやプロジェクタに投影したエディタで、作業プロセスをみんなで共有しながら行うのです。さて、あなたの前には、すでに次のような議事録ができ上がっているはずです。
【会議名】マーケティング会議
【参加者】鈴木、奥村、吉江、新村
【会議のゴール】予算案を確定させる
【開始時間】2006/11/10 13:00
【終了時間】2006/11/10 14:00
【アジェンダ】
0.会議前にやること
ゴールの確認
会議の終了時刻の確認
ToDo確認
期限切れToDoを確認する
確認待ちToDoを確認する
マイルストーン確認
トピックごとにかかる時間と議論する順序をきめる
1.次回展示会の開催の課題リストを完成させる 15分
2.予算案の設備投資増額のしわよせ問題を解決する 30分
3.新しいPCの購入の必要性をヒアリングしてリストアップする。10分
4.XMのプレスリリース先を決める。15分(オプション)
さあ、準備は整いました。次回は、いよいよ議論を始めます。
国際大学GLOCOM主任研究員、サルガッソー社長。サルガッソーでは、究極の会議を実現するためのツール「Sargasso XM」を開発している。「伝播投資貨幣」という概念の通貨「PICSY」の研究・実装に取り組み、個人ブログとしてPICSY blogを運営している。IPAの未踏ソフトウェア創造事業に採択(2002年)、同年度の天才プログラマー/スーパークリエータに認定。共著書に「NAM生成」「進化経済学のフロンティア」。
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