ラボの“生態”を明らかに──。4回目を迎えた今回のラボめぐりは、グループウェアなどで有名なサイボウズから分社したサイボウズ・ラボ。2007年に入社したばかりの西尾泰和さんに話を伺った。
ラボの“生態”を明らかに──。4回目を迎えた今回のラボめぐりは、グループウェアなどで有名なサイボウズから分社したサイボウズ・ラボにお邪魔した。話を伺ったのは、2007年に入社したばかりの西尾泰和さんだ。いつもはラボめぐりの取材をしてもらっている秋元裕樹さんも、今回は所属元ということで西尾さんのサポートに回った。
東京・赤坂という都心の一等地にそびえ立つプルデンシャル・タワー。サイボウズ・ラボは、このビルの1室にラボを構えている。所属する研究者十数名の席がレイアウトされている作業スペースで、オフィス家具好きの筆者が注目したのは、特徴的なワーキングチェアとデスクである。
PCを使った作業に適する姿勢は、ワーキングチェアに深く腰掛けるスタイル──いわゆる“低座・後傾”姿勢だといわれている。両手足をデスク方向に投げ出すようなイメージで、肘はデスク上に位置するようになる。この姿勢に最適化したワーキングチェアとデスクが、岡村製作所の「クルーズ&アトラス」だ。サイボウズ・ラボでは、このクルーズ&アトラスを全席に導入している。
西尾さんによれば、ワーキングチェアであるアトラスは、背もたれや肘掛など角度や高さを調整できる箇所が多いのがお気に入りだ。その一方で、「フルフラットにならない」ことが残念。開発に一段落したとき、「ちょっとでも横になれるといいのに」と笑う。
愛用のPCは「ThinkPad X41 Tablet」。もともと、京都大学在学中にインタフェース関連の研究をしていたこともあり、タブレットPCに興味があった。3Dグラフィックがぐりぐり動くようなグラフィック機能が搭載されていないことが若干不満だが、タブレットPCであることは自慢だという。
サイボウズ・ラボでは、研究者の裁量で決裁できる予算を各研究者に割り当てている。それでPCや実験用サーバを購入する人もいれば、出張旅費に充てる人もいる。西尾さんは、この予算を使って愛用の「Happy Hacking Keybord」を購入。周りの人に比べると少々控えめな買い物だったかもしれない。割り当てられる予算の額も尋ねたが、「企業秘密。さすがに研究に関係ないことには認められませんが」(畑慎也代表取締役)とのこと。
とにかくお金の心配をせずに済むのは悪い話ではない。となれば、次に気になるのが時間だ。できるだけ自分の時間を確保したい。有名なのは、業務時間の20%を自分の好きなことに充てていいという、Googleの20%ルール。裁量労働制のサイボウズ・ラボでは事業領域内において、すなわちWebアプリケーションなどの開発という制限があるものの、業務時間の50%を自分の好きな開発に割り当てていいという“50%ルール”を実施している。予算と時間と──研究者にとってはフリーハンドといってもいい環境が用意されているようだ。
「赤坂というと高級料亭」といったプアな思い付きしか浮かばない筆者だが、実際の食環境はいかがだろう。「自宅の近所のオリジン弁当で買ってます」と西尾さん。2006年まで学生だったこともあってか、いきなり倹約ぶりを発揮だ。
隣で笑っていたのは秋元さん。「外堀通りを渡れば赤坂見附ですし、マクドナルドや富士そばなどもあります。それほど高いお店ばかりではありませんよ。むしろ食環境は充実してるかもしれません」
サイボウズ・ラボの一角には、おやつに食べられるお菓子も置いてあった。「実はCOOがいるんです」(西尾さん)。COOというと、チーフ・オペレーティング・オフィサーすなわち最高執行責任者。そのCOOとおやつにどんな関係が? 「実はチープ・オヤツ・オフィサーがいるんです。そのCOOが安いおやつを手配してくるんですよ」
西尾さんとしては、諸先輩方と一緒に開発してみたりもしたいが、研究者によって技術のバッググラウンドも異なるので、一緒になっての開発はなかなか難しかったりする。技術者でない筆者にも経験があるのだが、仕事に没頭している先輩に自分の仕事のアドバイスをもらうことすら何となく気が引けるのも事実だ。
そこで、西尾さんが考えたのは「ひとり言」である。ひとり言といっても、作業スペースでぶつぶつひとりしゃべっているわけではない。グループウェア上でひとり言を書き込むのだ。
サイボウズ・ラボのグループウェアは、もちろん「サイボウズ office」。会議室やスケジューラなどの基本機能はひと通り使っているが、西尾さんが目をつけたのは掲示板の使い方だ。Twitterのようにひとり言をいうスレッドを「西尾のひとり言」というタイトルで立てたのである。このスレッドは開発の悩みなどを書き込むわけだが、あくまでひとり言の体裁をとる。無視されても気にならないためだが、アドバイスを送る側も気楽だ。おかげで「たいていのひとり言にはアドバイスが付くようになった」。しかも、西尾のひとり言が“成功”してからは、ほかの研究員まで「ひとり言」スレを立てるようになったのだ。
「○○について教えて欲しい」と直接的に尋ねると、「ちゃんと答えなきゃ」と回答するほうもしっかり答えたくなる。もちろん、そういう回答も大事だが、逆にハードルを高めてしまうこともある。どうやら「ひとり言スレ」にはこうしたハードルを下げる効果がありそうだ。カッチリとした回答ではなく、アイデアレベルでアドバイスを得たいときには有効な方法だろう。
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