2012年にアフタヌーン四季賞で四季大賞を受賞。2015年から「AIの遺電子」(週刊少年チャンピオン/秋田書店)で連載を開始し(全8巻)、現在はその続編である「AIの遺電子 RED QUEEN」(別冊少年チャンピオン/秋田書店)を連載中(既刊4巻)。第21回文化庁メディア芸術祭マンガ部門優秀賞受賞。
漫画家の働き方、というとみなさんどんなイメージをお持ちでしょうか?
子どものころ、僕の漫画家の働き方は島本和彦さんの漫画「燃えよペン」に描かれたイメージそのものでした。漫画家の生きざまをコミカルに描いたこの作品では、作者である島本さん自身を投影したと思しき主人公が、スタッフが寝泊まりできるベッドも備えた仕事場にアシスタントを何人も招き、締め切りに追われながら、ときに栄養ドリンクで英気を養い、ときに徹夜をいとわず、血眼になって漫画原稿を仕上げていきます。
私は子どものころから漫画家になりたかったので、この漫画が好きになり、何度も読みました。面白おかしく脚色してはいますが、漫画家の生きざまを漫画家自身が描いた貴重な作品です。子どもの私は、読み返してひとしきり笑った後、「もし漫画家になれたら、こんな風に働くのだろうか?」と一抹の不安を覚えたのでした。
それからずいぶんと月日がたち、幸運なことに自分も漫画家として何冊か本を出すことができました。振り返ってみると、自分の働き方は、島本さんの漫画と似たところもあれば、ずいぶん違うところもあります。
もちろん、「燃えよペン」の仕事場がなくなったわけでは全くありません。若い漫画家が、昔ながらの漫画家像そのままに作品を生み出し、ヒットを飛ばしている例も多くあります。しかし、デジタル化の波が漫画家に新しいワークスタイルをもたらしているのも事実です。そうした変化を、実例も交えて紹介したいと思います。
商業雑誌の連載作家にほぼ共通する仕事の流れは、私の知る限りだと、(1)出版社の担当編集者と打ち合わせをして漫画の内容を詰める、(2)「ネーム」と呼ばれる漫画の設計図を作って編集者に見せる、(3)編集者からOKが出たネームを元に原稿を完成させる、というものです。原稿を1人で完成させる人もいますが、多くの漫画家は、3の段階になるとアシスタントを招集してチームワークで漫画を作ります。
「アシスタントと机を並べてワイワイ仕事をする」というのは私が真っ先に想像する漫画家の職業イメージでした。しかし、それを体験する機会は今のところありません。仕事のデジタル化によって、アシスタントに「在宅」で仕事を依頼できるようになったためです。
アシスタントにどんな仕事を頼むかは漫画家によってさまざまですが、よくあるのはベタ塗り(髪の毛や服といった黒い場所を塗りつぶす作業)やスクリーントーン貼り(色や影などを表現するための画材を貼る作業)、キャラクター以外の背景やモブの作画です。
紙の原稿に漫画を描く昔ながらのやり方だと、漫画家とアシスタントとの間で原稿を物理的に回しあう必要があるため、一つ屋根の下で働くのが当然でした。しかし、漫画原稿をデジタル化すれば、インターネット経由で遠く離れたアシスタントと原稿データを瞬時に共有できます。
この恩恵は駆け出しの漫画家にとっては大きいものです。人を呼ぶための仕事場を用意する必要がありませんし、アシスタントの交通費や食事代といった経費も不要となります。アシスタントにとっても、出勤が不要な分、時間を効率的に使えます。
日本には漫画家とアシスタントをマッチングさせるWebサービスがいくつかありますが、そのうちの1つである「GANMO」をのぞいてみると、アシスタント希望者のうち、少なくない数が「在宅」での仕事を希望していることが分かります。ネットを介した在宅アシスタントは、特殊なスタイルではなくなったといっていいでしょう。
働き方改革や2020年の東京五輪の混雑緩和といった視点から、国がテレワークを推進しているというニュースも小耳に挟む昨今ですが、漫画制作の現場では、テレワークはそこそこ浸透しているのではないかと感じます。
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