キーボードにある「Scr Lock」キー。何のために使うか知ってます? 必要最小限のキーとキーバインドで最大の効果を得ようとした男が15年ほど前のキーボード業界を大きく揺るがしました。今回は、キーボードの未来を切り開いた男、和田英一の物語です。
わたしたちは、物事に慣れてしまうと、特別意識せずともそれを行うことができるようになります。例えば歩行などがそうですね。普段の生活で「次に右足を出して、次は左足……」と考えながら歩く人はいません。
同様に、普段目にしているものでも、取り立てて自分に関係がなければ、目にはしていても意識の外に追いやられているものがあります。その1例として、目の前にあるキーボードを見てください。お使いのキーボードにもよりますが「Scr Lock」というキーがあるかと思います。さて、このキーが何をするためのものか即答できますか? おそらく答えられた人はほとんどいないのではないでしょうか。何に使うか分からないのに目の前に存在しているものに危険を感じないというのはよく考えると少し怖い話ですね。
Scr Lock(スクロールロック)キーは、もともとIBMのメインフレームの専用端末「3270」シリーズなどで用いられていたIBM101拡張キーボードに備わっていたキーです。このキーは、コンソールとして使用している場合に、画面スクロールの制御を行うために使われました。
現在のWindows環境で、このキーを利用するアプリケーションはそれほど多くありません。BIOS画面や、ブラウジングの移動、Excelではカーソル位置を固定してシートの方がスクロールする、などがありますが、使われることはほとんどありません。
そもそも、キーボードの配列というのはキーの追加などに伴って、ころころと変わってきました。今でこそ109キーボードが一般的ですが、一昔前は、古い計算機と新しいものとでキー配列が少しずつ異なって、それなりに面倒な思いをしたことがあります。JISとASCIIなどでピンと来る方も多いことでしょう。さらにLispを書いていたプログラマーなら、もう少しリアルに感じられるかもしれませんね。PFUのWebサイトにキーボードコレクションとして昔のキー配列が分かるページがありますので、こちらをご覧いただくとよいでしょう。
それも運命とあきらめて、現状と向き合っていった方もいれば、筆者のようにキーバインドを変更したりする方もいました。それが自分たちができるベストな選択だろうと思っていたのです。しかし、15年ほど前、もう少し問題の本質を見抜いた解決方法を考え、実際にそれを行動に移してしまった方がいます。それが、今回の主人公「キーボードを変えた男」和田英一氏(東京大学名誉教授、IIJ技術研究所所長)なのです。
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