携帯電話向けWebサービスやアプリの高機能化・複雑化が進む一方、コンテンツの再生環境となる携帯電話端末は、毎年何十機種もの新製品が登場している。このため、携帯コンテンツの開発プロセスに占める検証作業の負荷は今や、無視できない大きさになっている。
モバイルでは、PC向けWebサイトやソフトの検証とは異なる独特のノウハウが必要となるだけでなく、新機種が登場するたびにコンテンツの対応状況を検証しなければならず、それが将来にわたるコストの発生要因にもなっている。コンテンツプロバイダでは、検証用の端末を用意するだけでも多大なコストがかかり、中小企業ではそれが事業規模に見合わないほどのコストになってしまう場合もあるという。
そのような手間やコストを軽減し、開発中のコンテンツが特定の機種で正しく動作するかをチェックするのが検証代行サービスだ。携帯コンテンツの開発やサイト運営を手がけるウインライトが提供する「モバイル・デバッグサービス」も検証代行サービスの1つ。携帯コンテンツのビジネスにマッチした柔軟なサービス体系により、受注を伸ばしているという。同社モバイルサービス事業部の部長を務める梅田和秀氏に、ウインライトが提供するデバッグサービスの特徴について聞いた。
ウインライトは、携帯サイトやアプリといったコンテンツの開発を主事業として2003年に創業した若い会社だ。コンテンツ開発だけでなく、サービス運用の受託などにも事業を拡大していく中、携帯コンテンツの検証だけを請け負うケースが発生するようになり、3年ほど前から検証サービス自体を単体の事業として本格化させた。
Webサイトやソフトウェアの動作検証サービスは、同社の参入に先行して複数の他社が提供していた。それでも商機があると判断したのは、コンテンツプロバイダである同社だからこそ対応できる、携帯コンテンツビジネスに求められる特有の事情があるからだ。
多くの携帯コンテンツは、企画・開発から公開までの期間が短く、リリース時機を逸すると売れ行きに影響が出ることもある。例えば、家庭用ゲーム機のソフトは1年以上の開発期間をかけるタイトルも少なくないが、携帯電話用のミニゲームの場合、短ければ企画からリリースまで数日ということもある。しかも、そのコンテンツがタイアップ企画やキャラクター商品の場合、スケジュール通りに公開できないと、関連製品の売り上げにも悪影響をおよぼすことになる。
コンテンツプロバイダとしてこのような事情を熟知していた同社は、「即時対応」「土日も営業」「工数制料金」をセールスポイントとする検証サービスを打ち出した。
検証サービスを利用するのに事前予約は必要なく、依頼後にスケジュールがずれて検証をキャンセルすることになった場合でもキャンセル料はかからない。少数の特定機種のみの検証では、早いものなら数時間以内に検証結果の報告を受けられる。また、土日に作業を依頼する場合も追加料金はかからない――といったように、依頼者にとってはまさにいいことずくめだ。このような柔軟なサービスを提供できるのは、ウインライト自身がコンテンツプロバイダであり、自社コンテンツの検証と受託検証作業を並行して行っているため、検証スタッフの柔軟な運用が可能だからだ。
また、検証の内容にかかわらず、必要な料金はかかった実工数(作業時間)に完全比例の検証費用と検証用端末の利用料のみで、プロジェクトごとの基本料金や、大規模な案件で求められることがままある「リーダーアサイン費用」のような特別料金は一切設けられていない。料金体系がシンプルなことから、コンテンツプロバイダは「サイトの画面遷移だけをテストしてほしい」「特定の新機種でこの既存アプリが動作するかチェックしたい」といった“単品”の検証でも依頼しやすく、作業に入る前に必要な料金をほぼ正確に把握できるなど、コスト管理をしやすいというメリットもある。
実際の作業は、同社の検証センターで行う場合と、依頼主のもとへ検証スタッフが訪問して行う場合の2種類があり、前者は検証環境の用意が難しい企業や遠方の企業に、後者はセキュリティポリシーにより製品を社外に出せない企業や、検証スタッフの常駐を求める企業に適している。検証は主にセンターで行うが、現場連携のためスタッフ1名だけを派遣するというパターンもあるという。
同社が開発するコンテンツやサイトは、ネットワークゲームなどのエンタテインメントコンテンツが中心だが、検証サービスとしてはあらゆる分野のコンテンツに対応でき、ビジネス全般の業種でもすでに実績があるという。また最近の傾向としては、アプリに比べ、SNSに代表されるコミュニケーション系のWebサービスの検証依頼が急増しているという。
3年にわたって検証サービスを提供してきたことで、ウインライトには膨大な数の不具合事例が蓄積され、あるバグが発生した場合に別の特定のバグが発生する可能性が高い――といった、不具合の関連性について分かっていることも多いという。検証スタッフの間では「こういうバグが出た場合、ここも関連する可能性があるので見るように」といったやりとりが行われることもしばしばだと梅田は話す。
デバッグには、イレギュラーな操作に対する挙動のチェックも欠かせず、(1)通常の使い方だと考えられないシーンでキーを長押しする(2)たくさんのキーを同時押しする(3)画面遷移中など端末の負荷が高まっているときに操作を行う といった検証も行っているという。
このように、限られた経験しか持たない中で検証していたら発見できないような不具合も早い段階で見つけられるほか、その不具合がコンテンツのバグによるものなのか、それとも機種固有の特性に起因するものなのかといったように、原因を切り分けたうえで報告を受けられるため、不具合解消までの時間を短くできのも同社のデバッグサービスの特徴だ。
急ぎで持ち込まれた案件の中には、機種によってはコンテンツ自体をダウンロードできない、アプリが起動しないといった致命的な不具合を抱えているものもあり、その問題がコンテンツのバグに起因するものと判明した場合は、この時点で検証を中断し、依頼主にコンテンツを差し戻すこともあるという。バグを含んだまま開発が先へ進み、あとから修正の必要があると判明した場合には、開発プロセスに大きな手戻りが発生し、結果的にリリースの遅れや開発コストがかさむ可能性があるからだ。また、同社のサービスでは実際に検証作業を行った時間以外の料金は不要なため、中断・再検証が発生した場合も検証費用は最小限に抑えられる。
昨今の携帯電話市場で存在感を増しているのがスマートフォンだ。スマートフォンではPC向けのサイトを見ることができ、アプリの開発環境も充実しているため、コンテンツの開発が容易になる。一見、従来の携帯コンテンツのような独特のノウハウは不要に思えるが、梅田氏は、スマートフォンの時代になっても検証の重要性は変わらないと見る。
同社の検証サービスでは、コンテンツが単にその機種に対応しているかだけではなく、そのサービスやアプリが商品として展開するのに十分なユーザビリティを備えているかまでを検証するサービスメニューを用意している。サイト構造やユーザーインタフェースの設計においては、わずかな工夫で使い勝手を大きく改善させられることがあるが、こうしたノウハウは一朝一夕に身につけられるものではない。従来の携帯コンテンツ制作や検証で蓄積した知見をスマートフォン用アプリにも適用できるのが同社の強みで、実際にiPhoneやAndroid用アプリで検証を行った実績があるほか、自社のコンテンツとしてもiPhoneアプリの開発を行っているという。
携帯コンテンツ市場も不況と無縁ではないが、同社では今後も携帯コンテンツ検証の需要は拡大すると見ており、端末にプリインストールされた状態で出荷される組み込み型コンテンツの検証への進出も計画しているという。
また、当初は検証だけを請け負っていた取引先から、サービスの運用を含めた依頼を受けるようになったり、場合によっては開発段階からプロジェクトに参画したりするケースも増えているという。検証を軸に、携帯コンテンツ提供をサポートするあらゆるサービスに事業が拡大しており、同社は今後、トータルなサービスを提供していく考えだ。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.