5月14日から25日までの2週間で最大のトピックといえるのは、やはりKDDIとNTTドコモの夏モデル発表会だろう。KDDIが15日に、ドコモが16日と立て続けに新商品、新サービスを公開。端末は6月から順次発売されていく見込みだ。今回の連載では、この2社の発表会を振り返っていきたい。
夏商戦の先陣を切ったのが、KDDIだ。同社はauのスマートフォンを新たに5機種発表。EZweb対応の従来型ケータイ(フィーチャーフォン)も、3モデルをラインアップに加えた。本日(5月25日)発売の「HTC J ISW13HT」や、タブレット端末の「REGZA Tablet AT500/26F」をあわせると、合計で10機種を夏商戦に投入することになる。
ユーザーとキャリアの最初の接点という意味では端末が注目を集めやすいが、KDDIが力点を置いていたのが新サービスだった。発表会ではまず「ビデオパス」や「うたパス」を代表取締役社長、田中孝司氏が紹介。続けて、コンテンツ事業を統括する代表取締役専務執行役員、高橋誠氏が登壇し、新サービスの狙いを語った。端末の紹介は、そのあと駆け足で行われたこともあり、「auのメインはコンテンツ」という印象が強く残った発表会だった。
では、なぜKDDIは夏モデルでサービスに力を入れているのか。答えは、田中氏が社長就任当初から掲げていた「3M戦略」の中にある。KDDIは春モデルの発表に合わせて、アプリ500本などが取り放題になる「auスマートパス」や、固定回線と携帯電話回線をセットで割り引く「auスマートバリュー」を発表した。これらの詳細な説明は過去記事を参照してほしいが(参考記事1/参考記事2)、それぞれすでに100万契約を突破している。auスマートパスのようなコンテンツを「au ID」で一元的に管理し、デバイスや回線を問わず、さまざまなコンテンツにアクセスできるような世界を築くというのが、3M戦略の骨子だ。複数回線を組み合わせるauスマートバリューやAndroidにとどまらず、iPhoneやWindows Phoneなど、幅広いプラットフォームの端末を提供している狙いも、ここにある。
この3M戦略の世界をさらに広げるのが、今回発表したビデオパスやうたパスだ。まずビデオパスから、詳細を見ていこう。KDDIの高橋氏によると、このサービスの特徴は大きく3つある。1つが「見放題」で、月額590円で約1000タイトルが自由に再生できるようになる。高橋氏が「これからの映像サービスはこうなっていきそう」と述べているように、「Hulu」や100万契約を突破したドコモの「ビデオストア」などが定額制を採用している。ビデオパスの590円という料金設定も、ビデオストアの525円を強く意識したものだ。ただ、金額だけを見ると、優位性がないようにも思える。そこで用意したのが、2点目の特徴である「新作」だ。オンライン上の映像の定額サービスは「レンタルビデオ屋と比べると、旧作しかなく、どうしても古いものしか見られない」(高橋氏)という弱点があった。一方でauのビデオパスは、590円の料金内に新作1本を視聴できる権利を含め、差別化を図っている。そして3点目の特徴が3M戦略の中心ともなる「マルチデバイス」だ。ビデオパスはスマートフォンにとどまらず、タブレットやPC、テレビなど、幅広いデバイスで利用されることを想定した作りになっている。そして、そのデバイスを束ねるIDが、au IDになる。発表会では「au BOX」の後継となる、Android 4.0を採用したセットトップボックスも披露された。料金ではなく、映像の新しさと視聴環境の多様性で勝負するというわけだ。
もう1つの新サービスであるうたパスは、「自分の好みの曲が流れるように、チャンネルを作っていく、カスタマイズしていける、そういうサービス」(高橋氏)。高橋氏が自ら「Pandoraに似ている」というように、米国などで大きな成功を収めている、音楽ストリーミングサービスに近い位置づけとなっている。うたパスの強力な武器は、月額315円で「邦楽、洋楽が聴き放題」(高橋氏)ということ。すでにサービスインしている「LISMO unlimited」とは異なり、個別の楽曲を自由に選べない半面、月額利用料が圧倒的に安い。ラジオやUSENなどの音楽放送を楽しむのに近い感覚といえるだろう。また、通信というKDDI最大の強みを生かしており、「ソーシャルフォロー」も提案する。うたパスでは面白いチャンネルを作っている別のユーザーを“フォロー”でき、その人と一緒の楽曲を聴くことができる。
ビデオパス、うたパスの目標数は「非開示だが、数十万程度はやっていきたい」(高橋氏)といい、auスマートパスに続く、収益の柱に成長させていく方針。スマートフォンシフトで各社がキャリアの“色”を失いかけていく中、再びかつての“auらしさ”が戻ってきたように感じる。こうしたコンテンツを支えるネットワークは、Wi-Fiによるオフロードや大容量化を進めている。12月開始予定だったLTEは「前倒しにして、実人口カバー率を96%にする」(田中氏)。
一方で、夏モデルとして新たに発表されたのはスマートフォン5機種、フィーチャーフォン3機種、タブレット1機種と、ドコモに比べるとやや寂しい印象を受けたのも事実だ。ラインアップを見渡すと堅実な端末がそろっており、クアッドコアCPUや指紋センサーなどあらゆる機能を詰め込んだ「ARROWS Z ISW13F」や、中高年向けの「URBANO」をスマホ化した「URMANO PROGRESSO」など幅は広い。FeliCaとNFCの2つを載せた「AQUOS PHONE SERIE ISW16SH」のように、将来の非接触IC環境をにらんだ端末も準備されている。また、スマートフォンへの買い替えをためらっているユーザーに対してフィーチャーフォンを用意したのは、評価できるポイントだ。
ただ、春商戦で存在感を示して海外メーカー製のモデルは、発表済みのHTC Jのみ。ここ数カ月iPhoneと互角に渡り合っているXperiaの後継機がなかったのを寂しく感じたユーザーもいるだろう。今回、端末がやや控えめだったのは、秋冬のLTE導入に対する体力温存という見方ができる。田中氏が囲み取材の中で「(LTEの始まる)秋冬はガツンと行きます」と述べているのも、その証拠といえるだろう。他社のようにまずデータ通信端末からではなく、開始当初からスマートフォンを多数投入することが予想される。また、HTC Jのようなキャリアとメーカーが密接に連携したモデルについては、「(日本のメーカーとも)やるんです。今は言えないが、期待してください」(田中氏)とコメント。秋冬では、一転して端末の魅力を前面に出してくる可能性もありそうだ。
個人的には、マルチデバイスをうたう以上、もう少し3Gタブレットに対して積極的に取り組んでもいい気がしている。今回は東芝製のREGZA Tablet AT500/26Fを導入するが、3Gには非対応。「新しいiPad」がKDDIから発売されなかったこともあり、ラインアップとして物足りない印象は否めない。これに対して田中氏は、「現実的な世界では、3Gのタブレットはまだまだ弱いと認識している」と述べている。確かにiPadを見ても、3G搭載モデルよりWi-Fiモデルの方が店頭での人気は高いが、料金面やサービス面を改善していけば状況は変わってくるのではとも感じている。秋冬には、3M戦略を掲げるKDDIだからこそできる、画期的な提案があることを期待したい。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.