「ワイヤレスジャパン2016」が開幕した5月25日のMVNOビジネスフォーラムの基調講演で、ビッグローブ 執行役員常務 佐藤 博氏が登壇。「MVNO/M2M/IoT市場における今後の動向〜新たな事業機会や価値創出の可能性〜」と題し、MVNO市場の課題と、それを解決するためのビッグローブの取り組みについて説明した。
MM総研の調査によると、2013年3月末から2017年3月末まで、MVNOの市場規模は右肩上がりで堅調だ。その一方で、ビッグローブが半年に1回行っている、MVNO関連のキーワードの認知調査によると、「50%程度の認知率」(佐藤氏)だという。
例えば、「MVNO」というキーワードは、女性の認知率が依然として低く、男女差が激しい。「格安SIM」という言葉については、「格安」という言葉が付いていることで認知率が上がっており、特に女性の認知率の高まりが目覚ましい。さらに「格安スマホ」になると、8割の人が知っていた。「格安という言葉そのものが、市場活性化のキーワードとなっている」と佐藤氏は分析している。
しかし、さらにアンケートで調べると、認知率の高さに反して、1年以内の格安スマホ購入意向者はわずか約5%という数字になるという。「格安」という言葉が広がりすぎ、「どこのMVNOも同じように見える」「安いこと自体が不安」「契約や手続きで分からないことが多くて不安」「手続きが面倒」という意見が出たという。「お客さまが望んでいるサービスとは違う」(佐藤氏)と述べ、同氏は格安だけではない、さまざまなMVNOのサービスが必要な時期に来ていることを強調した。
MVNO市場がさらに活性化するには、契約や手続きの利便性の向上、MNO(大手キャリア)にはできないMVNOらしいサービスの多様化がキーになると佐藤氏は指摘する。
契約/手続きの利便性向上については、MNOが持っている顧客管理システムとのオンライン連携が有効だという。最近はかなり改善されたものの、MNPでMVNOに乗り換えると、数日間、携帯電話が使えないという問題があった。現在は店頭で即時開通、自宅でも電話などでユーザーが開通のタイミングを決めることができる。それでも「かなり人手を介していて、面倒な点が問題として残っている」(佐藤氏)
MNOの顧客システムとオンラインで直接連携すれば、利用者が直接、スマホのアプリで手続きできるようになるという。佐藤氏は、2016年後半くらいにビッグローブでオンライン連携を実現する見通しを示した。「本人確認などの手続きにマイナンバーや顔認証などの技術を利用することで、将来的には、24時間365日、自動販売機でSIMを買えるような世界になる」(同氏)
また、MVNOサービスの多様化には、加入者管理機能(HLR/HSS)の開放、キャリアメールや緊急時のエリアメールといった、キャリアが提供しているサービスを利用できるようにすることが必要だと佐藤氏は指摘した。
HLR/HSSの導入と、その品質の維持には、非常に大きなコストが掛かる。「モバイルサービスは社会への影響が大きい。障害が起こると大変なので、品質を担保するためのコストも非常にかかり、技術的な課題もある。そうはいっても、HLR/HSSの開放は、ビッグローブとしては必要だと感じている」と佐藤氏は語り、議論、検討を重ねて導入したいと述べた。
一方で、HLR/HSSの開放には時間がかかるとみられ、ユーザーが求める要望に対して「すぐにできる工夫はMVNOとして必要」とも語った。
HLR/HSSを開放することで、MVNOはさまざまなサービスが実現できるといわれているが、佐藤氏はその例として、「ネットワーク間のシームレスな利用」と「SIM形状と取扱いの変更」の2つを挙げた。
「ネットワーク間のシームレスな利用」とは、複数キャリアのネットワークが1枚のSIMカードでシームレスに切り替わること。これが有益なのは、主に地続きの欧州だ。MVNOが浸透している欧州では既に実現されていて、日常的に国境を超える人たちが多いためニーズも高い。
日本の場合、海外に行く人が多いのでそれなりに需要はあるが、「欧州に比べれば少ない」(佐藤氏)。ましてや、日本国内では、人口カバー率が各キャリアとも100%に近い状況なので、切り替える必要性があまりない。日本ではモバイルネットワークのシームレスな切り替えの需要は低いと考えられる。
一方で、モバイル網とWi-Fi網のシームレスな切り替えについては、日本でも需要が高い。次世代の公衆Wi-Fi相互利用の規格として、標準化団体のWBAが「NGH(Next Generation Hotspot)」を推進しているが、これを利用すると簡単に、瞬時に、どこでもWi-Fiにつながる。
この方式での接続時に使われるのが、SIMを使った認証だ。日本でSIM認証ができるのは現在はMNOだけで、MNOからSIMを提供されているだけのMVNOにはできない。こうしたことからも、HLR/HSSの開放が必要だと佐藤氏は指摘する。
NGHでは、SIMがない端末でも、EAP-TTLSという方式によってIDとパスワードで認証できるので、必ずしもSIM認証は必要ない。実際、ビッグローブはEAP-TTLS方式を使った「オートコネクト」という接続管理アプリを提供している。このアプリを使うと、LTE、3Gなどのモバイル網、公衆Wi-Fi、自宅のWi-Fiなどから最適なネットワークを自動的に切り替えができる。それでも佐藤氏は「望ましいのはSIM認証ができること。HLR/HSSの開放を期待している」と訴えた。
さらに、HLR/HSSの開放によって「SIM形状と取扱いの変更」ができるようになれば、IoTにおけるMVNOの課題を解決できるとする。IoTデバイスの多くは、屋外や、移動しながらデータを収集するものが多く、防水・防塵(じん)のニーズが高い。こうしたニーズを突き詰めていくと、SIMを装置そのものに組み込んだり、開通処理や保守管理を遠隔から回線を介して処理したりすることになるが、これらは現状のMVNOではできない。「HLR/HSSの開放は解決策の1つ」(佐藤氏)として期待をにじませた。
なお、HLR/HSSの開放によって、MVNOも音声通話定額制を提供できるようになるといわれることがある。佐藤氏は「開放によって、やりやすくなることはある」としながらも、ビッグローブがMVNOとして初めて音声通話の料金半額サービスを提供したことを紹介し、「事業者努力で解決できることもある」ことを示した。
MVNO市場が活性化するためには、佐藤氏はパートナーとの協力も重要との考えも示した。パートナーとのコラボレーション事例として、「BL-01」というAndroidデバイスの活用事例を紹介。BL-01は3G通信、Wi-Fi、Bluetooth、GPS、加速度センサーなどを内蔵している。この加速度センサーで振動を計測し、路面正常性の計測装置として活用できる。また、空港や小売店で、スタッフやカートなどの位置管理や流動分析などにも使われている。
佐藤氏は「ある意味、格安という言葉がMVNO市場を作ってきた。格安の市場はそのまま、さらに、国が示した1500万契約に向けて市場を活性化していくには、MNO、パートナー企業、MVNOがコラボレーションしながら、ユーザーが必要としている多様な価値を実現していくことが重要」だと語り、MVNO市場の活性化には3者の協力が重要との見解を示した。
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