1GBがわずか290円(税込み、以下同)という衝撃価格で話題を集めた日本通信の「日本通信SIM」だが、この料金プランはライトユーザーや予備回線需要が主なターゲット。どちらかといえば、同社にとって本命ともいえるのは「合理的みんなのプラン」だ。これは、6GBのデータ容量に70分の無料通話を付けたパッケージ型の料金。登場時は、日本人のデータ容量や音声通話の6割以上をカバーできるとうたわれていた。料金は1390円と安く、他のMVNOと比べても競争力のあるプランに仕上がっているのが特徴だ。
そんな合理的みんなのプランが、4月に改定された。料金はそのままの1390円だが、データ容量が6GBから10GBへと大幅にアップ。音声通話も、70分の無料通話だけでなく、5分間の通話定額を選択できるようになった。5Gの拡大やコンテンツの大容量化を受け、ユーザー1人あたりのデータ使用量が徐々に増加している中、価格改定ではなく、データ容量を増量させることでニーズに応えた格好だ。
では、日本通信はなぜこのタイミングでど真ん中のボリュームゾーンを狙った合理的みんなのプランをリニューアルしたのか。その背景には、総務省が音頭を取って5月24日に導入されることになった「MNPワンストップ方式」があった。同社の代表取締役社長を務める福田尚久氏が、新料金プラン改定の狙いや経緯を明かした。
―― なぜ合理的みんなのプランのデータ容量を増やしたのでしょうか。その狙いを教えてください。
福田氏 昨年(2022年)投入した「合理的シンプル290プラン」が、それなりの地位を得たことがあります。290円だけ払ってもらえば1GB使えるという料金プランで、2回線目や子ども用としていいという感じで受け入れられました。そんな中、総務省に対してずっと言っていたMNPのワンストップ化が始まります。キャリアによっては電話で引き留められてしまうという話はすごく聞きます。ワンストップ化は、ここに対しての大きな効果になります。
メインは主回線(の獲得)です。20GBプランを出したときも主回線の方が入ってきましたが、もうちょっとその主回線に対する料金プランを見直そうと思いました。もともとやっていた合理的みんなのプランがあり、これを10GBにすればいけるということがありました。また、1GBあたりのデータ容量を220円にしたので、3000円弱で17GBまで使えます。17GB、18GBをずっと使っているような人には20GBプランの方がいいですが、ところどころ15GBぐらいになる方にとっても安い料金にしたかった。考え方は変わっていません。
主回線は極力シンプルにした方がいい。プレスリリースだと8000万人に最適なプランという言い方をしています。ただ、MNPワンストップ化がなければ、このタイミングでは出していなかったかもしれません。総務省が発表することが決まったのでそこに向けて1カ月ぐらい前にローンチしておこうということで、急きょ改定しました。
―― ユーザーのデータ使用量が増えていることも関係しているのでしょうか。
福田氏 はい。データ使用量は増えていますね。平均的に分析していくと、少しずつ増えている感じなので、(改定前の)6GBだとちょっと足りなくなってしまう。ライトプランのように感じられてしまうので、もうちょっと使えた方いい。その線をどこに引くかというときに、10GBで行くことになりました。
―― 音声通話も70分の無料通話に加えて、5分定額が選べるようになりました。
福田氏 月70分累計で話せれば、大体の人が(無料通話の範囲に)収まります。ただ、回りの人(他社)が5分定額をやっているので、比較が難しい。僕がもし誰かに聞かれたら70分の無料通話を勧めますが、世の中には5分定額が浸透しているので、そちらも入れることにしました。
電話で話す時間は増えています。これは、定額に入っているからで、やはり5分定額も含めて音声通話はつけた方がいいですね。また、新たに1600円の追加で完全定額になるオプションも入れています。完全定額を選んでいる方は全体からすると少ないですが、いらっしゃることも確かなので、これも用意しました。
―― 実際、70分の無料通話と5分定額だと、どちらを選ぶ方が多いのでしょうか。
福田氏 今はデフォルトが70分の無料通話になっていますが、それを変えて5分定額にしている方もいます。一方で、最初にどちらかを選べる状態にはなっていません。僕の予想では、5分定額を選ぶ方が増えるのではないでしょうか。累計で70分というのは他でやっていませんし、説明を聞けば「そうか」と思ってこちらを選ぶ人もいますが、(もともと契約していたキャリアと同じような料金体系で)今まで通りに使いたいという方が増えれば5分定額が選ばれるようになると思います。
―― 290円の1GBプランに加えて、10GBプランや20GBプランもあり、音声の完全定額もオプションでつけられるとなると、取りこぼしは少なくなりそうですね。
福田氏 そうです。唯一もっとたくさん使いたいという方は、キャリアのプランを導入していただくしかありませんが、小容量から中容量の方には合理的みんなのプランと合理的20GBプランで競争力があると思っています。
―― プランを改定した反響はいかがでしたか。4月に改定したあと、契約者は増えているのでしょうか。
福田氏 けっこう増えていますね。だんだん浸透しつつあると感じています。プロダクト別に言うと、合理的みんなのプランにシフトしている印象もあります。ビジネス的に見たとき、合理的シンプル290プランと比べれば売り上げは5倍弱になります。これが増えているのはありがたいですね。
―― 他社はなかなかこの料金に追随できていません。
福田氏 ここは音声料金がキモになっています。音声料金を自分たちで持っていないと、あの料金を出すのは難しい。合理的シンプル290プランもそうですし、合理的みんなのプランもそうです。音声も含めて原価ベースでやっていれば、この料金でも利益は出せます。オートプレフィックスを入れると高いので、その方法だと難しいのではないでしょうか。
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