楽天モバイルが米AST SpaceMobile(以下、AST)と共同で、衛星と携帯電話の直接通信によるモバイル・ブロードバンド通信サービスを日本国内で2026年内に始める計画だと発表した。衛星と市販のスマートフォンが直接通信し、音声通話やデータ通信が可能になる。
なお、具体的なサービス開始時期や提供(カバー)範囲は、法制度など両社が関われない事由を理由に変更される可能性があるという。
楽天モバイルとASTは同日、会見を共同開催。楽天モバイル代表取締役会長の三木谷浩史氏と、ASTでChairman兼CEOを務めるアーベル・アヴェラン氏が登壇し、2024年2月時点で分かっているモバイル通信の課題や、今後の計画について説明した。
アヴェラン氏はASTの創業者で、2017年の創業以来、会長兼CEOを務める人物。創業前は海事とその他のモビリティー市場に対して衛星を利用したコミュニケーションサービスを提供する、エマージング・マーケット・コミュニケーションズ(EMC)を2000年に起業。2016年7月に同社がおよそ5億5000ドルで売却されるまでCEOを務めた。
両社は、大型の低軌道衛星を活用し、日本全土をカバーするための通信サービスを提供する計画を進めている。ニュースリリースや会見では「スペースモバイル」プロジェクトと表現されることが多い。
自然災害が多く山岳地帯や離島が多い日本では、低軌道衛星を活用した通信サービスへの需要が高まっている。2024年1月1日に発生した能登半島地震では、復旧に向かう道路が寸断され、応急復旧に時間がかかった。低軌道衛星による通信サービスなら、地上の状況に左右されることなく、携帯電話を利用できるようになる。
こうした背景があり、楽天モバイルとASTはこれまで、2020年3月に締結した戦略的パートナーシップのもと、ASTの低軌道衛星と市販のスマートフォンとの直接通信を目指す、スペースモバイルプロジェクトを推進している。
楽天モバイルは、「いまだに携帯電話の電波が届きづらい、日本の国土の約30%(≒エリアの穴)」(三木谷氏)を埋めるべく、スペースモバイルプロジェクトを推進している。
ただし、2026年のサービス開始時から「日本全国をあまねくカバーするのではなく、人が密集しづらいエリアや、災害で既存の通信設備が使えないエリアなどでの活用を想定している」という。
日本全域をカバーする通信サービスであることは間違いないが、当初は災害時や山間部、離島を含むエリアに衛星を活用していくようだ。
【更新:2月17日8時25分】初出時に「三木谷氏の投稿内容」というキャプションを掲載しておりましたが、記事と直接関係のない内容だったため削除しました
衛星とスマートフォンの直接通信については、KDDIも米SpaceXの「Starlink」を活用し、2024年内にサービスを開始すると宣言している。StarlinkがKDDI保有の周波数を地上に向けて吹くため、ユーザーは専用スマートフォンなしに既存のスマートフォンをそのまま利用できるようになる予定だ。
ただ、KDDIの場合、サービス開始当初、衛星経由の通信で使えるのがSMSに限られる。地上からは500キロ程度離れている低軌道衛星が、携帯電話用の電波をそのまま発射するのは難しい。そのため、連続的な通信を避けられる、間欠的なSMSが音声通話とデータ通信よりも先に利用できるわけだ。
一方、楽天モバイルとASTは2022年9月、ASTが打ち上げた試験衛星「BlueWalker3」とASTの保有する特許取得済みのシステムとアーキテクチャを利用して、音声通話が問題なくできることを確認した。9月8日には、BlueWalker3を活用して、ハワイ・マウイ島の圏外地域にあるSamsung製スマートフォン「Galaxy S22」と、スペイン・マドリードにある端末で音声通話を実施した。
別の試験ではデータ通信の下り速度が14Mbpsに達したとして、ASTは音声通話とデータ通信が問題なく使えることを実証した。
2023年4月には、英Vodafone、米AT&Tを含めた4社協力のもと、世界初となる低軌道衛星によるモバイル・ブロードバンド通信を使用した、市販スマートフォン同士のエンドツーエンドでの音声通話試験をテキサス州で行い、成功した。
日本での提供に向けて、楽天モバイルは国内での試験を実施。その準備として、2022年11月に実験試験局免許の予備免許を取得した。楽天グループ広報によると、試験用に取得した免許では本格運用はできず、「実際にサービスを提供するには、地上局と衛星の両方の免許を取得する必要がある」(同)とのこと。
そのため、楽天モバイルは「総務省をはじめとした関係各機関との調整を行っていく」としている。
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