SNSに偽アカウントを開設し、相手の国の言葉で偽ニュースや憎悪をあおるような内容を集中的に投稿して世論操作を試みる――。TwitterとFacebookで削除された不正なアカウントの解析で、そんなキャンペーンが展開されていた実態が浮き彫りになった。
今回明るみに出た情報作戦は、中東や中央アジア諸国での影響力増大を狙う米国側から発信されていた。過去にはロシアが米国などの選挙介入を狙ったとされる偽ニュースや偽アカウントが問題にされたことはあるが、西側が展開するプロパガンダ作戦がここまで詳しく分析された例はあまりない。
しかし、SNS上で偽人格を作り出し、独立系メディアを装い、動画やミームを活用し、ハッシュタグのキャンペーンを仕掛け、オンライン署名活動を展開するといった手口はどちらの側にも共通していた。
問題の不正アカウントは7月から8月にかけ、情報操作などの不正行為を禁じたポリシー違反を理由として、TwitterとFacebookから削除された。両社から情報提供を受け、米スタンフォード大学のStanford Internet Observatory(SIO)とSNS調査会社の米Graphikaが内容を解析した。
両社がまとめた報告書によると、不正アカウントは摘発されるまでおよそ5年間にわたり、ニュースサイトやメディア関係者を装って米国寄りに偏った内容を投稿していた。
例えば中央アジア諸国のロシア語圏のユーザーをターゲットとする作戦では、米国による中央アジア援助を称賛する一方で、ロシアの外交政策を批判。中国を狙い撃ちにする作戦では、新疆ウイグル自治区などイスラム系の少数民族に対する中国の扱いを非難する内容を集中的に掲載していた。
報道機関を装ったFacebookのページでは、「絶対的な事実」を共有すると称してニュースや写真などを掲載しながら、フォロワーの数や「いいね」の数を不正に水増ししていた形跡があった。
アフガニスタンでは「死亡したアフガン難民がイランで臓器を抜き取られている」「イランのイスラム革命防衛隊がアフガン難民を強制的にシリアやイエメンで戦わせている」など、イランに対する不安や憎しみをあおる内容が投稿された。
2月にロシアがウクライナに侵攻してからは、ロシア政府の「帝国主義的野心」追求のためロシア兵が罪のない民間人を殺害するなど残虐行為を行っていると集中的に投稿。ロシアを非難する論調が強まったという。
アラビア語圏では、プーチン大統領が意図的に世界の食糧危機を引き起こそうとしているという説が誇張して伝えられる一方で、米国による国際援助や、米兵と現地の子どもたちの交流などが宣伝されていた。
偽ニュースだけでなく、BBCなど正規のニュースサイトからコピペした記事の一部を書き換えたり、ロシア語やアラビア語に翻訳したりした内容が掲載されることもあった。ただ、翻訳は一見して非ネイティブが書いたことが分かるほど下手だったという。
不正アカウントのプロフィール写真には、AI技術のGANで生成した顔写真や、ネット上で集めた写真を組み合わせた合成写真が使用された。中にはプエルトルコの女優の写真を加工して、ロシア語の偽メディア関係者のプロフィール写真として使っているアカウントも見つかった。
「GANで生成された写真は、一見本物の顔写真のように見えるが、目の位置や背景のぼかし、歯や目、耳の周りの不自然さから簡単に識別できる」と研究者は解説する。
報告書ではこうしたキャンペーンを「西側寄りの物語を宣伝するための詐欺的な戦術」と形容し、「西側が影響力を振るうためにSNSで展開した最も大掛かりな秘密作戦」だったと位置付ける。
ただし、投稿やツイートの大多数は、ごく少数の「いいね」やリツイートしか獲得できていなかった。調査対象としたアカウントやページのうち、1000人以上のフォロワーを獲得していたのは19%のみ。平均するとツイートの「いいね」は0.49回、リツイートはわずか0.02回だった。「このデータは、行動を起こさせ、ネット上で影響力を確立することを狙った不正な手口に限界があることを示している」と研究者は指摘している。
今回の調査対象となったのは、Twitterで2012年3月〜2022年2月にかけて146のアカウントから投稿された29万9566のツイートと、Facebookで2017年〜2022年7月まで活動していた39プロフィールと16ページ、2グループ、Instagramの26アカウントの情報。他にもYouTubeやロシア語圏で人気のTelegramなど、5つのSNSが利用されていたという。
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