このコーナーでは、2014年から先端テクノロジーの研究を論文単位で記事にしているWebメディア「Seamless」(シームレス)を主宰する山下裕毅氏が執筆。新規性の高い科学論文を山下氏がピックアップし、解説する。
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金沢大学に所属する研究者らが発表した論文「電力重畳通信を用いた空間配置自由度の高いキーボードシステム」は、各キースイッチを立体的に自由にレイアウトできる自作3次元キーボードシステムを提案した研究報告である。
好みにレイアウトする自作キーボードにおいて、平面配置だけでなく、キーを空間的に配置することでさらに打鍵しやすくなる。既存のキーボードでは、キーボードの中央部が盛り上がるなどの立体的な形状を持つものがあるが、ユーザーがキー単位で立体的な位置を自由に変更することは難しい。
さらに、各キーを好きな場所に配置できるキーボードも存在するが、これらは主に平面上での配置に限定されている。これは立体的なキーボードの配線設計や筐体設計などに多様な技術的困難が存在するためである。
今回提案するシステムでは、ユーザーがキーを好みの立体位置に配置できるようにすることを目的としている。これを実現するために、導電性の布と電力重畳通信技術が用いられている。
まずキーユニットにマイコンを内蔵し、どの位置に置かれても打鍵を感知できるように設計。次に、ベースボードを柔軟に変更できるように導電性の布を採用した。これにより、粘土などで作成した好みの3D形状(土台)をベースボードの下に配置することで、ベースボードを好きな盛り上がり方(好きな立体)に調整できる。
マイコンをキーに使用する場合、電源や通信、接地のために3本の配線が必要になるが、これだとキーを配置できる範囲を狭め、配線を複雑にし、結果的にデバイスの自由度を低下させてしまう。この問題を解決するために、電源線に信号を重畳する「1-Wire」という規格を参考にし、配線を2本だけにまとめる方法を採用している。
また、ベースボードには絶縁の布の両面に導電性の布を貼り付け、片面を電源線、もう一方の面を接地線としている。これにより、キーユニットからベースボードに刺すための針が2本になり、電源線と接地線にそれぞれ接続され、配線の単純化とキーのレイアウトの容易化を実現した。
試作では、ベースボードの下に配置する土台として「おゆまる」という粘土を選択した。おゆまるは熱を加えると形状を変えられる粘土で、硬化後にはゴムのような質感を持つ。この特性は、キーボードをしっかりと支えるのに十分な硬さを提供しつつも、キーユニットを固定するための針を挿入するのに適した柔軟性を持っている。
キーユニットをベースボードに配置し、実際に動作させるテストを実施した結果、10個のキーユニットを接続した状態で正常に動作することを確認できた。しかし、キーユニットをこれ以上接続すると、マイコンの起動や複数キーの認識が不安定になる可能性が示されたため、現段階では10キー程度が適切だと分かった。
Source and Image Credits: 坂本隼, 秋田純一. 電力重畳通信を用いた空間配置自由度の高いキーボードシステム. 情報処理学会 インタラクション2024
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