―― 今年はアップルにとって非常に大きな年でしたね。新製品が目白押しで、今となっては「iPad」の発表からまだ1年も経っていないなんて信じられません。
シラー そうですね。日本での発売が始まった5月から数えると1年弱どころか半年ほどしか経っていないのですから、私も驚きます。せっかくなので、ここで2010年の冬商戦の商品ラインアップを振り返らせてください。
まず1つの目玉は「MacBook Air」です。これはノートPCの未来の方向性を指し示す商品だと自負していますし、11インチと13インチのどちらも、大変好評をいただいています。その一方で、「MacBook Pro」シリーズも健闘しています。「iMac」も大人気でして、日本で1番、売れているデスクトップPCとなっています。Macといえば、ソフトウェアもiLifeの新バージョンを出して、iMovie、iPhotoとGarageBandを新しくしました。
そして、まったく新しく生まれ変わった「Apple TV」。この製品は大変よく売れていますが、我々にとってはまだホビーのプロジェクトです。ただし、この新モデルでかなり規模の大きいホビーになりました。こんなに小さいのに、これまでのモデルと比べてもはるかにパワフルで、しかも使い方はさらに簡単に、それでいて値段はかなり手ごろになりました。
それからもちろん、iPodシリーズも手ごろな「iPod shuffle」と「iPod nano」、そして大人気の「iPod touch」、そのうえで日本で1番売れている携帯電話である「iPhone 4」と、これまでになかったまったく新しいカテゴリを生み出した「iPad」も取りそろえています。これらのiOS機器では、新バージョンの「iOS 4.2.1」をリリースし、ソフトウェア的にも新しくなりました。
今年、発表したソフトウェア技術ではもう1つ、「FaceTime」も重要な機能です。ユーザーはこれを使ってMacともビデオ通話ができるようになりました。これは世の中で最も設定が簡単なビデオ会議技術の1つでしょう。
もう1つはApple TVとの組み合わせで、特に楽しさを発揮する「AirPlay」の機能です。これを使えば、iPadで見ていた動画や音楽、映画を、AppleTV経由で大画面テレビに映し出せますが、実はそれに加えてフォトアルバムに入っている写真を映して、家族や友達と楽しむこともできます。これは、本当にぜひ試してほしい素晴らしい体験です。
―― Apple TVといえば今年はもう1つ、ついに日本市場で念願の映画の販売とレンタルが始まり、アップル製品を使う楽しさを大きく変えてくれましたね。後は米国のように、テレビ番組も購入できれば言うことなしなのですが、やはり、日本でテレビ局が足並みをそろえてiTunesで番組を提供するには、もう少し時間がかかるんでしょうか。
シラー それについてはなんとも言えませんが、もし番組提供をしたい、というテレビ局があれば、我々の動きを待たずにiPad用のアプリケーションを出す、という方法もあることを覚えておいていただければと思います。
実際に米国ではABCを始め、多くの主要テレビ局やケーブル局が、局のアプリケーションを出しており、そのアプリケーションを通してドラマや人気番組の販売や無料試聴のサービスを提供しています。そういうアプローチもあるのです。
―― 確かに言われてみればそうですね。それは期待したいところです。ところで今年のアップル製品で驚かされたのが、価格の安さです。例えば、“ノートPCの未来”とうたうMacBook Airが10万円を大きく切る8万8800円から購入できたり、Apple TVにいたっては8800円、iPod shuffleはついに5000円を切ってしまいました。
シラー 我々が気を配っているのは価格だけではありません。製品としての完成度に非常に気を配っています。ガラス、アルミといったユーザーに最高の心地よさを感じさせる美しい素材を吟味することから始まり、それをどのような製品に仕立てればよりよい体験を提供できるかまで、まずは商品の質を徹底的に高めることに全力を尽くしています。
そのうえで、その商品を信じられないくらい手ごろな価格で提供することに、再び全力を尽くしているのです。iPodにしても、MacBook Airにしても、iPadにしても、競合と言われる製品のどれもが真似できない手ごろな価格を実現するために、我々がどれほどの努力をしているか、おそらく多くの方は気付いていないと思います。
これはつまるところ「バリュー」の問題です。商品を触った顧客が「えー、すごい。これってもっと高いものだと思った」と思ってくれること、我々はそれを狙って商品をデザインしています。非常に高価に思える品質を、信じられないくらい低価格で提供する――これは我々の全商品に共通した“モノ作り”のアプローチです。
―― 冬休みを楽しく過ごしたり、新年を迎えるにあたって、まさに魅力的な商品群ですね。
シラー 日本人にとっては、年末年始は文化的にも非常に重要な時期だと聞いています。新年を迎えたのを機に新しいライフスタイルを始める方も多いかもしれません。アップルがモノづくりに込めた哲学や考えは、新しい思いで1年を始めようという方々にとってもうってつけだと思います。
どういうことかというと、今日のわれわれの生活では常に「つながっている」ことが重要になってきていますが、我々の商品群は家族や友達とあらゆるカタチでつながることができるように工夫されています。
FaceTimeのような通信はもちろんですが、それだけでなく、例えばiLife付属のiPhotoで写真集を作ったり、Webページやソーシャルネットワークで写真を共有したり、Apple TVなどを通してその写真をみんなで楽しんだりと、そういった意味も含めてのことです。
―― 確かにそうですね。iMovieの「予告編」機能も実際に映像を作ってみると大変面白いですし。
シラー あの機能は本当に楽しいですよね(笑)。iMovieは過去の2バージョンに渡って大幅な見直しが行われましたが、開発チームはこの機能をずっとやりたがっていたんです。彼らは家族や友達と一緒に盛り上がって楽しめるビデオ作品を、人々に簡単に作ってもらうにはどうしたらいいか、常に考えていました。しかも、それをこれまでのどのソフトウェアも実現していなかったほどの簡単さで実現するにはどうしたらいいか、この点について頭をひねっていました。
そのためには、ただビデオを見せるだけでなく、映像作品としてのストーリーも見せなければならないでしょう。そこで映画予告編ふうにするというアイデアに行き着いたのです。なぜなら予告編は、短く、それでいて面白く、音楽やトランジションも効果的に使ってテンポもいい。そこで、彼らはこの予告編ムービーを、ほんの数個の映像を選択するだけで誰でも簡単に作れるようにしてしまったのです。
この機能、使い方はとても簡単ですが、その中には最先端の技術が詰め込まれています。例えば、元々はiPhoto用に開発した顔認識技術を使って、バストショット、グループショットなど、予告編の作成に必要な素材クリップを簡単に見つけ出してくれます。
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