既報の通り、スペイン・バルセロナで開催中のMobile World Congress 2013においてASUSTeK Computerは、7インチの大画面を搭載したAndroid端末「Fonepad」を発表した。タブレット相当の7インチ液晶ディスプレイを搭載しながら、従来のタブレットでは省略されることがほとんどだった音声通話機能を搭載し、電話としての完全な機能を備えているのが特徴。Intelの低価格スマートフォン向けプロセッサ・Atom Z2420を搭載しており、価格が249ドルと低く抑えられているのも大きなアピールポイントになっている。
今回同社が開催したカンファレンスでは、まずFonepadではなく“PadFone”シリーズの新製品である「PadFone Infinity」の発表が行われた。PadFoneは、Androidスマートフォンと、タブレット型のドッキングステーションをセットにした製品で、持ち運ぶ際は単体のスマートフォンとして使用できる一方、ステーションに合体した際は、スマートフォンの環境をそのまま引き継いでより大きな画面とバッテリー容量を利用できるというものだ。
現行機種の「PadFone 2」は、スマートフォン部分のディスプレイが4.7インチ・720×1280ピクセルだったが、新機種では5インチ・1080×1920ピクセルへと大型・高精細化。ステーション側のディスプレイも、サイズは10.1インチで変わらないが、1280×800ドットだった解像度はフルHDの1920×1200ピクセルになった。また、プロセッサーが最大1.7GHz動作のSnapdragon 600(クアッドコア)となり、パフォーマンスにも若干の強化が図られている。通信方式はGSM、W-CDMA(900/2100MHz・下り最大42MbpsのDC-HSPA+対応)、LTE(800/1800/2100/2600MHz・Category3)に対応し、無線LANではIEEE802.11a/b/g/nに加え11acのサポートも加えられるなど、最新の技術に沿ったアップデートが行われている。
ASUSのジョニー・シー(Jonney Shih)会長は、PadFone Infinityで提供する価値として、「BEAUTY」「SOUND」「TOUCH」「RESPONSIVENESS」「UBIQUITY」の5点に注力したと説明。アルミ素材を用いたフレームに、フルHDディスプレイ、メイン(1300万画素)/サブ(200万画素)ともF値2.0の明るいレンズを採用したカメラなどを搭載し、外見的なデザインと端末性能の両面で、美しさを表現した。また、最新のクアッドコアプロセッサの搭載や、音声コントロール機能の強化などで、よりスムーズで使いやすいデバイスになっていると強調。ステージにはプロセッサを提供したQualcommのCEOであるポール・ジェイコブス(Paul Jacobs)氏、採用通信事業者としてChina Unicom(中国聯通)のVice President、ツ・リージュン(Zhu Lijun)氏も登壇し、フルHD版PadFoneの発表に祝辞を寄せた。
しかし、会場に集まった報道陣の反応は、どちらかと言えば冷ややかなものだった。フルHDがフィーチャーされているものの、PadFoneの新製品という点では同社が昨年のMobile World Congressで行った発表と同じであり、大きく代わり映えのする内容ではない。また、PadFone Infinityの価格は999ユーロとされており、フルHDのスマートフォンとタブレットを両方買うより安いとはいえ、昨今のモバイル機器の価格としてはかなりの割高感がある。
PadFone Infinityの価格の発表が終わると、シー会長はこの反応を見越していたのか、あまり間を置かず次のトピックに移った。同社はPadFone以外にも「Transformer」シリーズなど、これまでいくつかの合体・変形型製品を市場に投入してきた。人々が1日の生活のうちより多くの時間をモバイル機器とともに過ごすようになる中、複数の機器を使うとメールや写真といったデータが分散してしまうほか、複数のデータ通信契約が必要になって費用がかさむといった問題があり、これを解決するためのアプローチがTransformerやPadFoneだったとシー会長は説明する。
これに対して、変形ではなく可能な限りシンプルに「すべてのことを1台で済ませたい」というニーズに向けて提供されるのがFonepadだ。
Fonepadに搭載されるAtom Z2420は、“Lexington”の開発コードネームで呼ばれていたIntelのスマートフォン向けプロセッサで、最大1.2GHz動作のシングルコアとスペックはミドルクラスにとどまるものの、省電力で低コストなのが特徴。もともと新興市場向け端末のプラットフォームとして開発されたもので、低価格の製品を作るのに適している。
Fonepadは、ディスプレイ解像度1280×800ドット、メモリ(RAM)1GB、カメラはメイン300万画素、サブ120万画素と、最近のハイエンド製品に比べればワンランク下の仕様となっている。このことからも、多数のモバイル機器を積極的に利用する高リテラシー層ではなく、スペックにはあまり興味のないユーザーを対象にした製品であることがわかる。ただ、Webブラウザやプリインストールアプリをスムーズに動作させるのに必要な性能は十分確保されているし、ボディの質感も悪くない。かつては、性能の限られる低コスト端末ではAndroid OS自体の動作にも不満が出ることが少なくなかったが、少なくともFonepadでそのような心配はなさそうだ。
7インチという大型の機器を通話にも使用するというスタイルが定着するのか、この点については懐疑的な見方が少なくない印象だったが、Padfone Infinityの発表では静まりかえっていた報道陣も、「一般的な3G通信対応7インチタブレットは299ドル、スマートフォンは399ドル、Fonepadならどちらにも使えて249ドル」というシー会長の価格アピールには色めき、大きな歓声が上がった。
アーリーアダプター層へのスマートフォン、タブレット普及が一巡しつつある中、端末メーカー各社の間ではハイエンドモデルだけでなく、より広い範囲のユーザーに向けた製品作りがますます重要な課題となっている。スマートフォンではまだまだPCほどの存在感を示せていないASUSだが、ハイエンドは合体・変形型、ミドルレンジは7インチのサイズと価格を武器に、独自の戦いを展開しようとしている。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.