インドネシアでのハラール認証表示義務化の現状
2025年2月12日
インドネシアでは、ハラール製品保証に関する法律2014年33号(ハラール製品保証法)の公布以降、ハラール認証表示義務化に向けた議論が進められてきた。
中でも、2021年2月2日に公布されたハラール製品保証の実施に関する政令2021年第39号(インドネシア語)では、海外からの輸入品を含み、インドネシア国内で流通する食料品や、飲食店のハラール認証の取得、その表示を行う義務が2024年10月17日を履行期限として定められていた。これにより、日本からの輸入食料品についても、ハラール認証取得の準備が進められていたが、2024年10月18日に公布された政令2024年第42号(インドネシア語、8.8MB、政令2021年第39号の改正令:以下、改正法)により、輸入食料品に対するハラール認証の取得義務履行期限が最長で2026年10月17日まで延長されることが規定された。(2024年10月25日付ビジネス短信参照)
本稿では、これらの法改正を経たハラール認証表示義務の現状を7つのポイントに分け、BPJPH(ハラール製品保証実施機関)の見解を交えながら、解説する。また、ジェトロのウェブサイトにハラール関連法令の和訳も掲載しているため、本稿に併せて参照してもらいたい。
- 1.インドネシア国内の中規模・大規模事業者はハラール認証表示義務履行期限の延期なし(改正法160条)
-
今回の法改正により、海外からの輸入品のほか、国内の零細・小規模事業者〔事業資本が50億ルピア(約4,750万円、1ルピア=約0.0095円で算出)以下、または年間売上高が150億ルピア以下の事業者〕についても、ハラール認証の取得や表示義務履行期限が2026年10月17日に延長されているが、中規模・大規模事業者については、当初の予定どおり、2024年10月17日から義務が発生している。そのため、BPJPHは国内の中・大規模事業者に対する監督活動を開始しており、違反があった場合には、書面による警告や商品流通の禁止処置が取られると説明している(2024年10月25日付ビジネス短信参照)。
輸入品に関しては、ジェトロが2024年10月24日に実施した「インドネシアにおけるハラール認証制度セミナー」で、BPJPHから「ハラール認証を取得していない製品でも、インドネシアに輸入、流通させることが可能」との説明があり、当面の間はハラール認証の有無を理由に日本からの輸入が制限される可能性は低いと考えられる。一方で、最長で2026年10月17日までの延長ということは、輸入品に対する猶予期限が同期限より前倒しされる可能性が残されていることも念頭に置いておく必要がある。
- 2.取得したハラール認証の登録はインドネシアに所在する事業者が行う(改正法146条)
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インドネシアで有効なハラール認証の取得方法は大きく2つあり、BPJPHへ直接申請を行う方法、海外のハラール認証機関(LHLN)を利用する方法がある。それぞれの方法については、ジェトロのレポート「インドネシアにおける水産物等の食品に係る新ハラール認証制度への対応状況について」の26ページ以降と、「インドネシアにおけるハラール認証制度セミナー」の資料「SIHALAL登録マニュアル
(4.0MB)」で解説している。いずれの方法も、インドネシア国内の輸入者または公認代理人が行うこととされている。具体的には、日本からの輸出契約が成立した後に、インドネシア側の輸入者または公認代理人に対し、ハラール証明書などの登録書類を送付する流れとなる。
- 3.アポスティーユ(注)の取得は不要(改正法148条)
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改正前の政令2021年第39号では、海外のハラール認証機関が発行したハラール証明書を利用する場合、在外インドネシア公館による公証、またはアポスティーユの取得が必要とされていたが、改正法148条では当該要件は削除されており、取得の必要がなくなった。
- 4.非ハラール製品の表示様式はBPJPH長官が決定する(改正法110条)
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ハラール認証の表示(ラベリング)について、法令上定義されているのは、ハラール認証を取得した物品と、非ハラール成分(豚由来の成分など)を含む非ハラール製品の2つのみで、ハラール認証を取得していない物品(例:非ハラール成分を含まない茶で、ハラール認証を取得していないものなど)のラベリングについては、明確に定義されていない。この点について、BPJPHに見解を尋ねたが、明確な回答は得られなかった。なお、改正法の110条第3項では、「非ハラールラベルの様式については、関係省庁との調整の上、BPJPH長官が決定する」とされており、具体的な要件が今後示されることが待たれる。
- 5.ハラール製品と非ハラール製品の混載について、今後ガイドラインが発出される予定
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BPJPHの説明によると、製品の流通でも、ハラール製品と非ハラール製品を分けて行う必要がある。この点について、ジェトロがBPJPHに送付した質問状への回答によると(ジェトロ「セミナー後に寄せられた質問に対する回答
(729KB)」参照)、「非ハラール製品の流通は、ハラール製品との交差汚染が起こらないことが保証され、かつ流通手段が非ハラール食品の流通に使用された後のものでないことが、製造業者または流通業者の声明書によって証明される場合に限り、その流通を組み合わせることができる」(改正法22条第2項)と説明されている。併せて、流通サービスガイドラインが現在作成中との言及もあることから、詳細については、当該ガイドラインの発出が待たれる状況となっている。
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6.ハラール監督者は外部機関からのパートタイム雇用が可能(改正法50条)
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ハラール認証を申請する事業者は、製品プロセスを管理するハラール監督者を置かなければならないとされている。ハラール監督者には、ハラール製品プロセスの管理や、BPJPHが行うハラール監査への対応などが求められる。ハラール監督者の要件の1つには、イスラム教徒であることが規定されており、イスラム教徒の数が少ない日本では、適切な人材の確保が難しい。日本企業からはこの要件の除外について要望が寄せられていたが、改正法でも要件は引き続き存在している。なお、BPJPHは、ハラール監督者に関して「パートタイムでの雇用が可能」で、「インドネシアに所在する担当者の専任が可能」と回答しており(ジェトロ「セミナー後に寄せられた質問に対する回答
(729KB)」参照)、日本企業にとっては、インドネシアに所在するハラールの外部専門家をハラール監督者として、パートタイムで雇用することも選択肢となり得るだろう。
- 7.海外企業の登録は全体で約4,100件、中国企業による登録が最多
-
BPJPHへハラール証明書の発行申請を直接行った登録件数では、中国、韓国、マレーシア、インド、タイが上位国となっている。特に中国企業による登録件数は1,922件で最多だ(表1参照)。海外のハラール認証機関(LHLN)を利用した登録件数では、オーストラリア、マレーシア、米国、シンガポール、ニュージーランドが上位国だが、直接申請による登録件数よりも大幅に下回った(表2参照)。各国企業は輸入品へのハラール認証取得の義務化に先駆けて、ハラール認証の取得を進めている状況だといえよう。
順位 | 国名 | 食品 | 飲料 | 医薬品 | 日用品 | サービス業 | 化粧品 | 化学・生物学・遺伝子組み換え製品 | 計 |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
1 | 中国 | 1,095 | 129 | 30 | 42 | ー | 103 | 523 | 1,922 |
2 | 韓国 | 229 | 40 | 2 | 10 | 1 | 27 | 42 | 351 |
3 | マレーシア | 237 | 58 | 4 | 13 | ー | 17 | 8 | 337 |
4 | インド | 112 | 3 | 7 | 6 | 25 | 19 | 39 | 211 |
5 | タイ | 76 | 25 | ー | 3 | ー | 50 | 22 | 176 |
計 | 2,031 | 307 | 54 | 82 | 26 | 255 | 747 | 3,502 |
出所:BPJPH資料を基にジェトロ作成
順位 | 国名 | 食品 | 飲料 |
生物由来 製品 |
化学品 | 化粧品 | 医薬品 |
と畜/と畜 サービス |
計 |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
1 | オーストラリア | 158 | 3 | ー | 3 | ー | ー | 17 | 181 |
2 | マレーシア | 105 | 26 | ー | ー | 3 | 1 | ー | 135 |
3 | 米国 | 46 | 2 | ー | 5 | 1 | 1 | 1 | 56 |
4 | シンガポール | 23 | ー | ー | 27 | ー | ー | ー | 50 |
5 | ニュージーランド | 44 | 1 | ー | ー | ー | ー | ー | 45 |
計 | 481 | 56 | 1 | 37 | 4 | 3 | 18 | 600 |
出所:BPJPH資料を基にジェトロ作成
前述のハラール認証にかかるインドネシアの現状から、次の3点が考察される。
- 輸入品にかかるハラール認証表示義務履行期限は延期されており、当面の間はハラール認証の取得なしに輸入が可能と推測される。
- ただし、非ハラール製品へのラベリングの方法や、ハラール製品の運送、ハラール監督者の雇用にかかる取り決めなどについては、明確な基準は依然として示されておらず、輸入品にかかるハラール認証表示義務の延期期限到達前までのルール整備が望まれる。
- 特に諸外国では、ハラール認証表示の義務にかかわらず、ハラール認証の取得が進んでいる。
イスラム教徒が大多数を占めるインドネシアでは、ハラール認証はビジネスの成長と市場での競争力強化にとって非常に重要だが、認証取得にかかる制度が十分に整備されているとは言い難い状況にある。今後順次発出されるとみられる輸入品への表示義務に係る法令やガイドラインを注視し、制度運用に適応していく対応が求められる。
- 注:
- 「外国公文書の認証を不要とする条約(略称:認証不要条約)」(1961年10月5日のハーグ条約)に基づく付箋(=アポスティーユ)による外務省の証明のこと。アポスティーユを取得すると日本にある大使館・(総)領事館の領事認証があるものと同等のものとして、提出先国で使用することができる。

- 執筆者紹介
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ジェトロ・ジャカルタ事務所
中村 一平(なかむら いっぺい) - 2004年、財務省神戸税関入関。2019年に外務省へ出向後、財務省を経て、2022年から現職。
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