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水素分子の超流動の確認に成功

[ 2025/02/22 | 理化学研究所 | 中央省庁 | 埼玉県 | 非上場・外資系企業 ]


本リリースの公式ページ
https://www.riken.jp/press/2025/20250222_1/index.html

分子「こま」のミクロな回転を基にナノ超流動水素の実証に成功の図
分子「こま」のミクロな回転を基にナノ超流動水素の実証に成功の図
(画像提供:理化学研究所)
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2025年2月22日

理化学研究所
金沢大学

水素分子の超流動の確認に成功

-ナノサイズと分子「こま」の選択が実現の鍵-

理化学研究所(理研)開拓研究本部 東原子分子物理研究室の久間 晋 専任研究員、金沢大学 理工研究域数物科学系の三浦 伸一 教授らの国際共同研究グループは、ナノサイズの液体水素が低温で超流動[1]になることを液体水素中の分子の回転を利用して発見しました。

本研究成果により、超流動という量子力学に由来する現象への理解は、非常によく研究されてきたヘリウム「原子」から、水素「分子」の世界へと広がります。

国際共同研究グループは、水素分子[2]をヘリウム液滴[3]という絶対温度0.4Kのナノサイズ環境に閉じ込め、メタン分子をさらに液体水素に埋め込むことに成功しました。メタン分子[4]の回転運動をレーザーにより検出し、分子が「こま」として回転する様子から、水素の超流動性を決定しました。

本研究は、科学雑誌『Science Advances』オンライン版(2月21日付:日本時間2月22日)に掲載されました。

分子「こま」のミクロな回転を基にナノ超流動水素の実証に成功

背景

超流動は、極低温の液体ヘリウムで発見された、流動性が高まって粘性抵抗が消失する現象で、抵抗が消失する現象で、超伝導と並ぶ巨視的量子現象[5]と呼ばれる性質の一つです。今から90年近く前に、最も液体にするのが難しい物質であるヘリウムの温度を下げる中で見いだされた現象です。

液体ヘリウムにおける超流動の発見以来、さまざまな超流動研究がヘリウムを用いてなされてきましたが、身の回りに存在する通常の物質ではヘリウム以外に超流動になる物質は見つけられませんでした。1972年にギンツブルグ(2003年ノーベル物理学賞受賞者)らが、液体水素が超流動になる可能性を理論的に研究しています。ただし水素は、理論から予想される超流動に転移する絶対温度1ケルビン(K)より高い温度(13.8K)で固体になってしまいます。そのため、そもそもの前提となる液体水素が実現できず、液体水素の超流動を決定づける実験には誰も成功していませんでした。

ヘリウム液滴は、液体水素のサイズを水素分子一つ一つのレベルでコントロールできるとともに、液体水素の温度を超流動転移が予想される温度より十分低く下げることができるミクロな「低温実験室」です。

久間専任研究員らは、ヘリウム液滴中のナノメートル(nm、1nmは10億分の1メートル)サイズの水素クラスターが過冷却現象により液体の性質を持つことを突き止めていました注1)

そこで、国際共同研究グループは、ヘリウム液滴中に液体水素クラスターを生成し、液体水素の超流動現象を明らかにすることに挑みました。

  • 注1)H. Otani, H. Nakahara, H. Goto, S. Kuma, and T. Momose, "Electronic spectroscopy of Mg-phthalocyanine embedded in cold hydrogen clusters produced by a pulsed nozzle", Journal of Chemical Physics 155, 044309 (2021).

研究手法と成果

国際共同研究グループは、温度0.4Kのヘリウム液滴の中に、水素分子を1個ずつ取り込み凝集させることでナノメートルサイズの液体水素クラスターを生成しました。

次に、液体水素クラスターの中にメタン分子を埋め込み、レーザーによりメタン分子を「こま」のように回転させて、液体水素の超流動を確認する実験を行いました。

二流体モデル[6]では、超流動は粘性のない超流体と粘性を有する常流体との混合状態と理解できます。超流体の中の物体は抵抗を受けずに回転します。常流体の中の物体は、運動する際に常流体が物体とともに動くことで、その見かけの質量が増加します。常流体の量を質量の変化として精密に測ることができれば、残りの超流体の量や、超流動現象の存在を明らかにすることができます。

実験では、液体水素クラスター中のメタン分子が回転する際の質量の変化を、液体水素クラスターのサイズ増加に対して精密に調べました。その結果、液体水素クラスター中の水素分子数が20個程度までは、メタン分子が超流動の中でスムーズに回転することを観測しました。またメタン分子の重さが液体水素の常流体の量とともに変化することも見いだしました。

これらの実験結果と、水素分子の量子性を最大限に取り込んだ計算機シミュレーションとを比較することで、液体水素クラスターの超流動状態を確認しました。精密な測定スペクトルとシミュレーション結果に基づくと、例えば、水素分子15個から成る液体水素クラスターではほぼ100%が超流体であること、そしてこれまでの超流動クラスターの理論研究で取りこぼされていた質量にわずかに寄与する超流体の存在も、明らかになりました。

図1 液体水素クラスターの超流動の検出

  • (上)液体水素をサイズの小さいクラスターとして温度0.4Kのヘリウム液滴内に生成し、超流動検出を行った。液体水素クラスター内に埋め込んだメタン分子に対しレーザーを用いて「こま」のように回転させて、そのスペクトル(波長成分)を測定した。
  • (下)スペクトルから液体水素中の超流動成分を抽出し、計算機シミュレーションで再現した。水素分子部分だけを取り出した分布図を示す。

今後の期待

本研究成果により、液体水素が私たちにとって超流動物質の仲間入りをしました。

今後の研究で、液体水素クラスターの超流動現象がどのくらいのスケール(分子の個数)まで発現し続けるか、あるサイズで固体となって超流動性が失われてしまうのか、などが解明されて、量子力学におけるミクロとマクロの世界をつなぐ一つの架け橋となると期待されます。また、水素分子としての振る舞いが、超流動現象に影響を及ぼす可能性もあり、ヘリウム原子にはない研究トピックを提供するかもしれません。

また、本研究で用いた手法は、原子や分子のスケールで超流動という巨視的量子現象の起源を解明した点でも意義があります。

水素は近年クリーンな再生可能エネルギーとして、その輸送および貯蔵法がさまざまに研究されています。一つ一つの水素分子が持つ量子性(質量の軽さに起因する位置の不確定性)は、通常の液体水素でもモル体積の異常など大きな効果をもたらします。一方、今回の超流動性は、凝縮系液体水素(液体水素クラスター)として通常の液体水素より低い温度で起こる集団的な量子現象です。超流動が持つ粘性ゼロの特性により、断熱配管でのロスの低減が期待されるなど、将来の新たな輸送および貯蔵法の開発に役立つ可能性もあります。

補足説明

  • 1.超流動
    1937年に極低温の液体ヘリウムで発見された現象で、通常の液体と異なり、非常に狭い隙間を通り抜けたり壁面をよじ登ったりするなど「超」流動性を見せる。ボーズ粒子と呼ばれるタイプの粒子が、極低温まで固化することなく液体としての流動性を維持できれば超流動へと転移する可能性があるが、そのような性質を持つものはヘリウムのみであった。なお一部の原子核や中性子星の内部では超流動が実現していると考えられている。
  • 2.水素分子
    水素原子2個から構成される最も簡単で、かつ最も軽い分子。陽子が持つスピンの向きの組み合わせにより「パラ水素」と「オルソ水素」と呼ばれる状態が存在する。今回の研究では純度ほぼ100%のパラ水素を用いた。これは理論的にはパラ水素の方が超流動になりやすい性質を持つためである。
  • 3.ヘリウム液滴
    数十nmサイズの液体ヘリウムの滴であり、温度は0.4Kである。このヘリウム液滴自身も超流動状態にあるため、分子の回転運動に与える影響が非常に小さい。ヘリウム液滴は容易に外部から分子を取り込む性質があるため、今回はメタン分子と水素分子を捕捉させることで、必要な超流動の条件をクリアした。
  • 4.メタン分子
    一つの炭素原子に四つの水素原子が共有結合することにより形成される分子。分子式CH4。メタン分子は軽くて対称性が良く回転しやすく、液体水素クラスターの中の「こま」には適している。
  • 5.巨視的量子現象
    ミクロの世界では、物質は粒子であると同時に波の性質を持つ。より正確には波の性質は波動関数と呼ばれる存在確率を記述する式で表される。温度が低いほどこの波動関数はより大きい空間領域まで広がる。複数の同種ボーズ粒子が存在する場合には、それらの波動関数がお互いに重なり合うことで、単一の波動関数で粒子集団が記述される状態が実現される。このサイズがマクロの領域に到達した時に巨視的量子現象が発現する。
  • 6.二流体モデル
    極低温のヘリウムは、粘性のない超流体と粘性を有する常流体との混合状態にあるとする、理論物理学者ティサとランダウによって提案された物理モデル。さまざまな超流動の性質を説明することに成功した。

国際共同研究グループ

理化学研究所 開拓研究本部 東原子分子物理研究室
専任研究員 久間 晋(クマ・ススム)

金沢大学 理工研究域 数物科学系
教授 三浦 伸一(ミウラ・シンイチ)

ブリティッシュコロンビア大学(カナダ)化学科
大学院生(研究当時)大谷 初季(オオタニ・ハツキ)
学部生(研究当時)マージド・ムスタファー(Majd Mustafa)
大学院生(研究当時)ジェフ・C・W・リー(Jeff C. W. Lee)
テクニカルスタッフ パブル・デュリカニン(Pavle Djuricanin)
教授 百瀬 孝昌(モモセ・タカマサ)
(理研 仁科加速器科学研究センター 核構造研究部 客員研究員)

研究支援

本研究は、日本学術振興会(JSPS)科学研究費助成事業基盤研究(B)「量子液滴ビームを駆使したナノ水素超流動相の微視的探索(研究代表者:久間晋、20H04464)」、松尾学術振興財団「量子回転波束制御によるナノ水素超流動の検出(研究代表者:久間晋)」、Natural Sciences and Engineering Research Council in Canada「Spectroscopy and dynamics of cold and ultracold molecules(研究代表者:百瀬孝昌、RGPIN-2020-05441)」、Canada Foundation for Innovation「Centre for Research on Ultra-Cold Systems (CRUCS)(研究代表者:百瀬孝昌、CRUCS 21591)」「CHIROS - Chirality Research on Origins and Separation(研究代表者:百瀬孝昌、CHIROS 36414)」による助成を受けて行われました。

原論文情報

  • Hatsuki Otani, Susumu Kuma, Shinichi Miura, Majd Mustafa, Jeff C. W. Lee, Pavle Djuricanin, and Takamasa Momose, "Exploring Molecular Superfluidity in Hydrogen Clusters", Science Advances, 10.1126/sciadv.adu1093

発表者

理化学研究所
開拓研究本部 東原子分子物理研究室
専任研究員 久間 晋(クマ・ススム)

金沢大学 理工研究域 数物科学系
教授 三浦 伸一(ミウラ・シンイチ)

報道担当

理化学研究所 広報室 報道担当
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金沢大学 理工系事務部 総務課総務係
Tel: 076-234-6957
Email: s-somu [at] adm.kanazawa-u.ac.jp

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